二十八 疑惑二
文字数 1,751文字
五月三十日、水曜、夜。
田村家の寝室で、明美は田村の頭部に腕をまわし胸に抱きよせた。
「ねえ・・」
「なに・・・」
田村は明美の胸に顔を埋めたまま、唇を動かしながらそうつぶやいた。
あぁぁ・・・、やっぱりあとにしよう。今はそんなときはじゃない・・・。
明美は田村に身をまかせた・・・。
「ねえ・・・」
明美はまどろみながら、田村の胸にささやいた。
「なに・・」
明美の頭の上から田村の声がする。明美は田村に抱きしめられている。
「作った薬、もうないの?」
省吾はたまたま調べた製薬会社のサイトから筋弛緩剤の化学式とその製法を知り、薬を作って持ち帰って、そのあと、作った薬全てを処分したと言った。
大学の係官も、省吾が合成した薬の廃棄を確認したと言うが、目視や質量だけの確認では、使われた材料から合成された薬が、完全に廃棄されたと確認できたわけではない。省吾が、作った薬を家に持ち帰ったのだから、どこかで薬をすりかえることが可能だったはずだ・・・。
田村が眠そうに言う。
「うん、ないよ・・・どうしたの・・・」
「慎重な省吾だから、せっかく作った薬、取ってあるだろうなって思ったの」
「・・・・」
田村は口を閉ざしている。
「ねたの?」
省吾が事件に関係していないことを祈ろう・・・。明美は眠りに落ちた。
何かが入れ代っていた。何だろう・・・。
また明美は、二十八日月曜の夜とおなじ夢を見ていた。
五月三十日、水曜、夜。
ホテルの客室で、佐介は野本刑事から鑑識結果の連絡を受けた。
「キャップから天野四郎の指紋が出ました。お茶のキャップからは天野四郎の身体に残っていた薬が出ました。
スターゲートのメモのアドレスは、薬物の後遺症者救済のNPOでした。
それと、ホームページで薬の製法を流出した某製薬会社の薬はここR市では使われていないことがわかりました。
以上は、記者会見までオフレコです」
「わかりました。ありがとうございました」
礼を言って佐介は通話を切った。
「ノリコは薬をどうやって手に入れたんだベ・・・」
製薬会社のホームページから流れた製法で薬を作れたのは、田村省吾、戸田雄一、青山和志の三人だ。田村と戸田は薬を作った。野本刑事は青山は薬を作らなかったと見ている。田村が廃棄したと言っている薬が出てくれば、薬を作った田村の意図が何かわかる・・・。
「くわしく田村を調べるしかない・・・」と佐介。
「しかし、どうやって調べるんだ?ノリコと田村のつながりがなんもねえぞ・・・」
「ノリコが取り調べを受けたら、ノリコは誰が薬を与えたか話すから、薬を与えた人も捕まる・・・。
薬を与えた者は捕まらないように何をすると思う?」
「逃げるか、口封じするかだべさ・・・」
そう言いながら、自分の発した言葉で、真理の顔色が変った。
「炉端焼き・里子が営業するのは明日からだ。なにかいい方法はないか?」
佐介はノリコに危険がせまると思った。
佐介たちは二人とも顔を知られている。ノリコに知られずに炉端焼き・里子に居て、ノリコの口を封じようとする者を監視するにはどうしたらいいだろう・・・。
「野本刑事に頼んで、刑事に監視してもらうのはどうだベ?」と真理。
「その前に、田村、戸田、青山の三人に、ちょっとだけ田所さんの証言を聞かせるのをどう思う?」と佐介。
「罠じゃなくて、リークだな」
真理が笑っている。
「野本刑事に相談するよ・・・・」
佐介はその場で野本刑事に連絡した。
佐介の連絡に野本刑事は、
「尾田ノリコに捜査の手が伸びることをほのめかすんですね。それで、ノリコに薬を渡した者が判明するのをほのめかし、その者の行動を監視する・・・。
うーん、わかりました。田村省吾たち三人の行動も監視しましょう。
明日正午に、田所さんの証言とキャップの薬物だけを、田村省吾に話してください。
明日正午から尾田ノリコの近辺と炉端焼き・里子へ私服を行かせます。
飛田さんたちも協力してください。顔がバレないように、刑事たちとともに監視にあたってもらいます。どういう監視態勢になるか、明朝八時に連絡します。
何かあれば、また、情報提供してください」
そう言って野本刑事は通話を切った。
「明日はわかれて監視だな・・・」
佐介は冷蔵庫を開け、真理に缶ビールを手渡した。
田村家の寝室で、明美は田村の頭部に腕をまわし胸に抱きよせた。
「ねえ・・」
「なに・・・」
田村は明美の胸に顔を埋めたまま、唇を動かしながらそうつぶやいた。
あぁぁ・・・、やっぱりあとにしよう。今はそんなときはじゃない・・・。
明美は田村に身をまかせた・・・。
「ねえ・・・」
明美はまどろみながら、田村の胸にささやいた。
「なに・・」
明美の頭の上から田村の声がする。明美は田村に抱きしめられている。
「作った薬、もうないの?」
省吾はたまたま調べた製薬会社のサイトから筋弛緩剤の化学式とその製法を知り、薬を作って持ち帰って、そのあと、作った薬全てを処分したと言った。
大学の係官も、省吾が合成した薬の廃棄を確認したと言うが、目視や質量だけの確認では、使われた材料から合成された薬が、完全に廃棄されたと確認できたわけではない。省吾が、作った薬を家に持ち帰ったのだから、どこかで薬をすりかえることが可能だったはずだ・・・。
田村が眠そうに言う。
「うん、ないよ・・・どうしたの・・・」
「慎重な省吾だから、せっかく作った薬、取ってあるだろうなって思ったの」
「・・・・」
田村は口を閉ざしている。
「ねたの?」
省吾が事件に関係していないことを祈ろう・・・。明美は眠りに落ちた。
何かが入れ代っていた。何だろう・・・。
また明美は、二十八日月曜の夜とおなじ夢を見ていた。
五月三十日、水曜、夜。
ホテルの客室で、佐介は野本刑事から鑑識結果の連絡を受けた。
「キャップから天野四郎の指紋が出ました。お茶のキャップからは天野四郎の身体に残っていた薬が出ました。
スターゲートのメモのアドレスは、薬物の後遺症者救済のNPOでした。
それと、ホームページで薬の製法を流出した某製薬会社の薬はここR市では使われていないことがわかりました。
以上は、記者会見までオフレコです」
「わかりました。ありがとうございました」
礼を言って佐介は通話を切った。
「ノリコは薬をどうやって手に入れたんだベ・・・」
製薬会社のホームページから流れた製法で薬を作れたのは、田村省吾、戸田雄一、青山和志の三人だ。田村と戸田は薬を作った。野本刑事は青山は薬を作らなかったと見ている。田村が廃棄したと言っている薬が出てくれば、薬を作った田村の意図が何かわかる・・・。
「くわしく田村を調べるしかない・・・」と佐介。
「しかし、どうやって調べるんだ?ノリコと田村のつながりがなんもねえぞ・・・」
「ノリコが取り調べを受けたら、ノリコは誰が薬を与えたか話すから、薬を与えた人も捕まる・・・。
薬を与えた者は捕まらないように何をすると思う?」
「逃げるか、口封じするかだべさ・・・」
そう言いながら、自分の発した言葉で、真理の顔色が変った。
「炉端焼き・里子が営業するのは明日からだ。なにかいい方法はないか?」
佐介はノリコに危険がせまると思った。
佐介たちは二人とも顔を知られている。ノリコに知られずに炉端焼き・里子に居て、ノリコの口を封じようとする者を監視するにはどうしたらいいだろう・・・。
「野本刑事に頼んで、刑事に監視してもらうのはどうだベ?」と真理。
「その前に、田村、戸田、青山の三人に、ちょっとだけ田所さんの証言を聞かせるのをどう思う?」と佐介。
「罠じゃなくて、リークだな」
真理が笑っている。
「野本刑事に相談するよ・・・・」
佐介はその場で野本刑事に連絡した。
佐介の連絡に野本刑事は、
「尾田ノリコに捜査の手が伸びることをほのめかすんですね。それで、ノリコに薬を渡した者が判明するのをほのめかし、その者の行動を監視する・・・。
うーん、わかりました。田村省吾たち三人の行動も監視しましょう。
明日正午に、田所さんの証言とキャップの薬物だけを、田村省吾に話してください。
明日正午から尾田ノリコの近辺と炉端焼き・里子へ私服を行かせます。
飛田さんたちも協力してください。顔がバレないように、刑事たちとともに監視にあたってもらいます。どういう監視態勢になるか、明朝八時に連絡します。
何かあれば、また、情報提供してください」
そう言って野本刑事は通話を切った。
「明日はわかれて監視だな・・・」
佐介は冷蔵庫を開け、真理に缶ビールを手渡した。