第24話

文字数 1,323文字

 野崎里美とは東京駅で別れた。なんでも彼女の住まいは千葉方面らしい。私は自宅にまっすぐ帰った。気がせいていた。今日のうちに調べをすませたかった。
 夕飯と風呂よりもさきに、当然ビールも後回しで、長いこと使っていなかったノートパソコンを出してリビングに腰を落ち着けた。調べるのはただひとつだった。
 インターネットの検索エンジンを立ち上げた。年は十五年前でいいだろう。問題は地域だ。片山優子は札幌出身だ。だが札幌と限定していいのか迷う。でも北海道は広い。とりあえず札幌と限定した。そして事件、事故と入力した。
〈札幌市北区一家殺害事件〉
〈札幌市南区でヒグマが出没〉
〈札幌市市会議員の汚職事件〉
〈札幌市内で起こったタクシー無賃乗車事件〉
 四件がヒットした。あとは関係なさそうなので無視した。
 最初に表示された事件が気になった。ほかの三件は関係なさそうだ。無視することにした。最初に表示された事件をクリックした。

 石原辰夫二十二歳は、同棲相手が被告の暴力を恐れて実家に逃げ出したところ、同棲相手の実家に侵入して、同棲相手とその父親と母親の三人を包丁で刺して殺害した。

 物が落ちたような音が心のなかで響いた。そして、三人殺害という非日常的な言葉が頭のなかを駆け巡った。
 胸騒ぎが止まらない。理由はわからない。片山の名前も出てこないし同棲相手の名前も不明だ。だがディスプレイから眼が離せない。ただの勘だ。こんなときは突き進むしかない。外れたらそのとき考える。
 迷わず所長に電話をかけた。いまごろはたぶん家で晩酌だろう。
「今度はなんだ?」
 ろくでもない電話だとわかっている口調だ。だけど気にしない。ぞんざいな口調はいつものことだ。
「いまは家か」
「そうだ」
 不機嫌な声が返ってきた。
「悪いな」
「そらきた。そのあとが怖いんだ。もしかして頼みごとか」
「あたり」
「ちょっと待て。場所を変える。もう少しで酔うところなんだぞ。まったく」
 それほど待たされることはなかった。
「それでなんだ。頼みごとって」
「十五年前に札幌で起きた殺人事件の詳細を知りたい」
「なんだって?」
 所長が大きな声を出した。そのあと、奥さんを気にして慌てて送話口を手で覆う姿を想像した。
「もう一度いってくれ」
 声を落とした。
「十五年前になるが、札幌で一家三人が殺された事件があった。その詳細が知りたいんだ」
「いまの案件と関係があるのか」
「たぶん」
「勘か」
「まあそうだ」
「……札幌はちょっと遠いな。知り合いの刑事もいないしな……残るは記者か……インターネットで少しは調べたのか」
「調べた」
 検索で表示された内容を伝えた。
「犯人は石原辰夫……ああ、その事件ならなんとなく覚えている。大々的に報道されたからな。たしかその犯人はすでに死刑執行されているはずだ」
「そうなのか」
「記者にあたってみるか……でもあまり期待しないでくれよ。まったく人をいいようにこき使いやがる」
「悪いな」
「ただし条件がある。話せるときがきたら話してくれ」
「わかった。でもあまり期待しないでくれ」
「クソ。今日はとことん飲んでやる。じゃあな」
 私のほうはまず夕飯だ。有り合わせの物ですませてそのあとは風呂とビールだ。今日はぐっすりと眠れそうだ。
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