第3話 大魔女 イザベル Grande Sorciére Isabelle 

文字数 1,702文字

 アトランティック オーシャン バミューダ 
 Atlantic 0cean Bermuda 
 ライズ ゴールド ムーン コーポレーション会長の別荘

 プライベートビーチから流れ込む爽やかな風が、部屋窓を開けたマギーの髪を優しく揺らした。専用の航空滑走路を敷地内に有する豪華な別荘島、その施設設備の凄まじさが、家主の持つ巨大な富を物語っていた。

 ニューヨーク・マンハッタン、本社ビル屋上に設置されたヘリポートからヘリに乗り込んだマギーは、単身空港に降り立ちプライベートジェットに搭乗した。会長に呼び出されれば、バミューダー諸島にはあっという間に到着するのだ。

「マギー。窓を閉めてこっちにおいで」
 何時の間に現れたのか、マギーの為に用意されたゲストハウスの外庭に、体格の良い老婆が姿を現す。

「お母様。お久しぶりです」
 マギーは老婆に笑顔で挨拶をする。

 ゲストハウスを出て、ビーチへとつながる外庭に出てきたマギーは、整理された庭の道を老婆と連れ立って歩き始める。

「今日は仕事で呼んだんだ。お母様ではなく、会長とお呼び!」
 そう言った老婆の瞳は笑っている。

「はい。会長」
 マギーは素直に返事をする。

 母親と言うよりは、孫と婆の間柄のように見える二人である。

「いいかい。これは特命だよ!」
 ライズ ゴールド ムーン コーポレーション21階のオフィスで朝食を摂る本社部長のマギーを、電話一本で呼びつける老婆の言葉だ。

(特命と言うからには、その仕事一本に総てを注がなければならない!)
 会長より呼びつけられた時から、マギーは覚悟を決めてここに出て来ていた。残務処理はすべて若いジェミニに任せて…

「あんた。当分の間、会社には戻れないよ!」
 歩きながら老婆がマギーに言葉を告げる。

「はい」

 大西洋から吹き付ける波風が、二人の会話を周囲から遮っている。

「自宅はそのまま使っていいよ。良いだろう!? ドアマン付きタワーマンションの住み心地は」

「はい。とても」

「ジムにプールにジャグジー、岩盤浴にエステ、ネイルサロンにヘアーサロン、レストランにバー、ショッピングセンターの上には映画館に劇場、指折り数え上げてもきりがないね!」

「ええ、お母様。隣接するホテルからのルームサービスも受けられます」

「お金はあるし、言うことないね。私もそうだけど、我らの肉体のオーナーであるセラヌ様には感謝しなければね。そしてマギー、今は仕事中だ。私のことは会長とお呼び!」

「はい。勿論、私もセラヌ様にはとても感謝をしています」

「いいかい、マギー。時は近づいている。次の仕事も必ず成功させておくれ。その意味は解るね!?

「はい。会長」
 マギーは素直に返事をする。今度は気をつけて、母親を会長と呼び直した。

「よし。良い返事だ。今回の舞台はニューヨーク、米国屈指の総合私立大学、ニューヨーク総合私立大学(Private University in the City of New York)だ!」

「あら。私の、まったくの生活圏だわ!」
 マギーが少し大きめの口を開く。

「ああそうだとも。会社にもお前の住居にも近い所だろう!?
「ええ。とっても」

「ターゲットはジャック(Jack)ヒィーリィオゥ(Helio)ハリソン(Harrison)。若いが航空宇宙物理学の権威(けんい)!!

「お母様。今回のターゲットは、現役の大学教授なのね?」
「マギー。今は仕事の話をしているんだ。お前、私のことは会長とお呼びよ!」

「はい。お母様」
「ふう。まあいいよ。ジャック・ヒィーリィオゥ・ハリソン、ニューヨーク総合私立大学航空宇宙物理学教室の教授だ。随分と頭の回転が速いと評判だよ!」

 魔女マギーの美しい表情が引き締まって行く。

「さあ始めるよ!」
 老婆イザベルは指を鳴らし、周囲へと合図を送る。

 合図と同時に、外庭を歩く二人の足元は傾斜をつけて沈み込み、進む道の先には地下へとつながる通路が出現する。

 イザベルに案内された部屋には、大きなプロジェクタースクリーンが設置されていた。広い室内の照明は落とされ、暗がりの中、ブラックスーツを窮屈に着る数人の男たちが、パソコンを操作し映像と音声を流し始める。

 豪華な椅子に腰掛けたイザベルの隣で、マギーは真っ直ぐに立ったままの姿勢で、鮮やかな色彩を放つスクリーンを見詰めていた。
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登場人物紹介

ニューヨーク マンハッタン アッパーウエストサイド。 

世界一の都市にそびえ立つ超高層マンションに住む。

しかもこの若さで一流企業の部長(general manager)様だ。

クッキー&クリームと世界規模で展開するチェーン店コーヒーを

こよなく愛する魔女。

マギー・ロペス(Maggi.Lopez)。

ジャックの最愛の恋人。

十七年前に突然とジャックの前から姿を消した。

アクエリアス(Aquarius)。

若き俊才、ニューヨーク総合私立大学航空宇宙物理学教室教授。

ジャック・ヒィーリィオゥ・ハリソン(Jack.Helio.Harrison)。


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