第19話 思いを断られたの(I feel rejected)
文字数 5,025文字
ニューヨーク マンハッタン コロンバス アベニュー
New York Manhattan Columbus Avenue
イタリアン レストラン2階
Italian Restaurant second floor
レストラン1階の店員に付き添われ、螺旋 の階段を上ってくるエレガンスな女性。階下の店員があげる接客の発声が、ジャックの耳にもマギーの到着を気付かせていた。
「ごめんなさい。随分待たせていたようね!?」
真っ白なドレストレンチコートを脱いだマギーが、ジャックに話し掛ける。コートの下には、蝶ネクタイの付いたエナメルのベルトと、リボンの肩紐 が可愛いい、セクシーなパーティワンピースが隠されていた。
(その黒猫のような素敵なワンピースはきっと世界で一着、マギーの為だけに作られたのだ)
最高に似合うマギーの着こなしを見て、ジャックはそう感じていた。
「ジャック、西側の隅 のテーブル席に移動しましょう」
カウンター席の前で立ち上がったジャックの腕を掴 み、マギーが席の移動を促す。
「キュートな黒のワンピース、君にとてもよく似合うよ! 髪型も少し変えたんだ!?」
ジャックは円形のテーブル席に着くなり直ぐにそう話した。
「貴方の赤いタートルネックのセーターも、とても素敵よ!」
ジャックの前で頬を赤らめたマギーが言葉を返す。
イタリアン レストランの2階、モダンなインテリアで統一された店内、静かな空間で二人は共に店のメニューを眺めている。
「ジャック、貴方今日は余り食欲がないのね!?」
マギーは、どことなく愁 いを帯びた表情を見せるジャックにそう尋ねる。
「そんな事無いよ! シングルモルトで頂いたショコラの甘味が、きっと僕に空腹を忘れさせているんだ!」
ジャックはマギーの前で強がって見せる。
「好いのよ。白ワインで魚介類でもいただきましょう」
マギーが優しく微笑む。
「白ワインに魚介類、それは大賛成だ」
ジャックが応える。
「そしてお腹が空いてきたら、もっとボリュームのあるものを頼みましょう」
マギーは努 めて明るい表情で話した。ジャックの寂し気な心を優しく包み込むマギーの心根 が言葉に溢れ出ていた。
二人のテーブルには蛤 の白ワイン蒸しと、スカンピ のグリルが届けられた。ソムリエは完熟したぶどうで造られたサルデーニャ島産の白ワインを二人にセレクトしてくれた 。マギーは器用に海老の半身をフォークとナイフで外して、ジャックの口に運んでみせる。二人はグラスを重ねスカンピのグリルと蛤の白ワイン蒸しを楽しんだ。
「貴方嫌なのね?」
マギーは優しい瞳でジャックを見詰めている。
「連邦に従う事はないわ!」
更にそう話した。
「僕もその積りだ! 核のデブリ を空に打ち上げる事は出来ない! 大地に硫黄と火を降らせることは、死んでも出来はしない‼」
ジャックはそう答えた。
「当然よね!」
マギーが同意を示す。
「そうだ!! 君にはっきり言って貰えて嬉しいよ。僕は人生の冷や飯を食う覚悟は既に出来ているのだから」
ジャックはそう言って笑った。
マギーはジャックのブルーの瞳を見詰めている。
「只 、唯一 の心残りを嘆 いてはいるけれど…」
ジャックはその言葉を付け加えた。
「何なのジャック? 貴方の心残りは…」
マギーがグラスに残る白ワインを飲み干した。まろやかな葡萄の果実感がマギーの味覚に余韻 を残した。
「ねえ。マギー」
ジャックは真剣な表情を見せ、目の前に座る美しい女性の名前を呼んだ。
マギーは何かの予感を感じて構 えたような表情をしている。
「僕は今、もの凄い勇気を持って君に聞いているんだ。もしかして君は、僕とこれからも逢いたいとか、もう少し僕と触れ合ってみたいとか、そんな風 に僕の事を感じてくれては居ないだろうか?」
ジャックはマギーの瞳を真剣に見詰めている。
「たとえば、僕たちは出会ってからまだ3日しか共に時間を過ごしてはいない。それに僕は君から見て、17歳も年上だ。だけど君のその、僕を見詰めてくれる優しい笑顔を見ていると、きっと僕は勘違 いをしてしまうんだ。君も僕と同じ気持ちでいてくれているんじゃないかって、そんな風に誤解をしてしまうんだ」
マギーに自分の思いを告げたジャックは静かに瞼を閉じる。
「いいえ、誤解じゃないわ。私も貴方と同じ気持ちを持っている。それに私は貴方が言う、人生の冷や飯を食う予感なんかに尻込みはしないわ。唯、貴方は本当に私を受け入れてくれる? 私が誰でも、私がどのような存在でも、貴方は私を受け入れてくれるの?」
とても切ない表情を見せて、マギーはジャックにその言葉を繋いだ。
「とても長い話になるわ…」
マギーは大いなる世界の話を始めた。
かつて宇宙 に大きな戦いがあった。
宇宙の運行のあり方を巡る論議の末
我等は二つに別れて争いを繰り広げた。
どちらが正義でどちらが邪悪であった訳ではない。
唯、宇宙 の運行に対する考え方に
相違や見解の差が生じただけ。
その戦いに敗れたのが我が一門。
勝者である天使群にこの大地に落とされ
地上に縛り付けられた。
その戦いも性急に起こされた訳ではない。
遥か昔にその布陣はあったの。
それは嘗て
神の御座 の隣に位置した最上位の神的存在
ルシフェル様の天界からの追放。
皆はそれを堕天 と呼ぶ
堕天使ルシフェルと。
ルシフェル様が神の行為を真似 て
宇宙の果てに新たな世界を創造した為とも
ルシフェル様が神の計画に従わず
人間に自ら考え行動する自由を
与えたからとも言われている。
でも果たしてそうかしら。
ルシフェル様を天界から追放したのも
我ら一門を地上に突き落としたのも
神の行為ではない。
神は動いていない。
私達も神とは対峙 などしてはいない。
私達を創造してくれたのは神なのよ。
神はまず世界を創造したわ。
あらゆる森羅万象 を
それを統治する為に神が創造したのが
神的な僕 、天使や私達魔族。
嘗てはそんな呼び名も無かった。
我等は同じ神的存在として
宇宙 を統治していた。
貴方たちが言う天使も悪魔も
嘗ては同じ神的存在だったの。
我が一門がこの大地に封印されるまではね。
神が創造した
第一ヒエラルキア 存在
第二ヒエラルキア 存在
第三ヒエラルキア 存在
その天使群は、遠く神の御座まで続いている。
その次に創られたのが
第四ヒエラルキア 存在
それは人間。
それがこの世界。
それなのに世界は神と悪魔
そのような対峙の構図 で私達を見るの。
もう一度言うわ。
我等は神と対峙などしていない。
正しい構図はこう。
対峙しているのは天使群と魔族
それを天使は隠してるの
人間の眼を、世界の眼をくらませる為に。
魔族やルシフェル族は
貴方の考えているような存在じゃない。
全ては天使が企 てた
人間世界に刷込 まれてきた
記憶の操作なのよ。
ルシフェル様の時も
我等の族長の時も
神は何ら関与はしていない。
何故なら神は世界の総てを創造して
ただそこに留まっているのだから。
神は動かないの
あとは神に創造された全てが
神の意志で時間の中を流れゆく
それがこの世界なの。
私達はこの国の国家権力の中枢 には
入り込んではいないわ。
戦争も、勿論私達が起こしている訳じゃない。
それなのに戦争が起こると
総てが、魔族が暗躍 したように世界は見るの。
荒鷲の連邦の裏には
大天使ミカエルが力を貸していると云うのに。
でもね
もうすぐ私達はこの地球から解き放たれる
再び天空を翔 ける時が近づいているの。
私達は月に上がり
月からこの地球を統治する。
そして火星を皮切りに
総ての惑星に広がるの。
地球 は地球 のままで
緑と水の惑星のままでいるといいわ。
月 は人類科学最高の結晶になる。
火星 は我等と第三ヒエラルキー との
戦場になるかも知れない。
或 いはそれは木星 に
イオ(Jupiter I Io)
エウロパ(Jupiter II Europa)
ガニメデ(Jupiter III Ganymede)
カリスト(Jupiter IV Callisto)を巻き込んで
戦禍 は拡大するかもしれないけど。
「ジャック。貴方にプロジェクターやプレゼンテーションソフトを使用した説明が必要のない事には、直ぐに解った! 貴方はギリシャ神話に出て来るアルテミス の事を、知っている?」
「全能の神ゼウス の娘、太陽神アポロン の双子の妹」
ジャックが答えた。
「そう。弓を使い、狩りと月を司 る神よ」
マギーは魅惑的な瞳でジャックを見詰めている。
「貴方の力がそれよ! 世界を変える為に貴方の力が必要なの!」
ジャックは何かを考えている。
「ジャック。月から矢を放って! 火星へ、そして全ての惑星に」
マギーが魔族の悲願を話した。
「この国の権力を恐れる必要は無いわ。今この地球を治めている力、それは崩壊 する。世界の秩序 と価値観、その全てがもうすぐ転換点 を迎えるの」
「そして君達が新しい秩序を構築 する?」
ジャックが呟く。
「ジャック、お願い。私達を偏見 や誤解した目では見ないで!」
マギーはそれを恐れていた。
「ジャック。お願い信じて! 私を信じて欲しいの」
マギーは自分を信じて話を続ける。
「私達は多面体の大気圏 突入用収納ボールを開発した。超低温で原子番号22のチタンとある物質を結合させた最高の硬度を誇る超合金よ。地球の大気圏突入時の高温高圧に曝 されても更に自らの強度を高め破壊や崩壊は起こさない。詰り外部からの圧力でこれを破壊する事は不可能。当然内部にも熱を通さない耐熱仕様 が成されている。しかし内部からの圧力には容易 に崩壊する。一 昔前のサッカーボールに模様された構造を立体に変換し想像してみて。勿論、もっと複雑な構造ではあるけど、貴方にはもう解るわよね。貴方が計画している落下傘を付けた包装植物などは山ほど収納できるわ。更に内部より破裂した収納ボールのチタン合金は、火星の資源として大切に再利用が出来る」
マギーは力説する。
「プルトニウムの臨界 量は16 kg。現在の技術で、それを10 kgにまで減らすことができる。君達は何 kgの239Pu を使用した小型核爆弾を、どれだけ納める事が可能な大気圏突入用ボールを開発したと言うのか?」
そこには、優しいジャックの表情は既に消え失せていた。
「決して地球周回軌道を汚すような真似はしない。総ては月面から行うの。火星に対しても、地球の対しても、総ては月から統治をする積りよ。敏 い貴方ならもうお分かりでしょう? これはライズ ゴールド ムーン コーポレーションの依頼と言うよりは、私達のオーナーよりの依頼。私は我等の魔王から貴方に遣 わされた魔女」
マギーの瞼は溢れそうな涙を止めていた。
「魔女? 君が魔女!?」
「そう。私は魔女マギー」
「私達のオーナー、我等の魔王は月からの大気圏突入用ボールに、核を入れる必要のない事を祈っている。月から落とされる超合金ボールの威力は、そのものだけでも凄まじい。地球 は地球 のままで。漆黒 の宇宙に浮かぶ美しい惑星を、私達は汚しなどしない!」
ジャックは沈黙を貫いている。
怯 や驚きの感情は不思議と湧き上がっては来なかった。
唯、自然に彼の口が動いた。
悪魔は最もなことを言い
人間を誑 かすという。
美しい毛皮を纏い
耳障 りの良い優しい言葉で
その者を惑 わすという。
魅入られた人間に待ち受けるのは
破滅。
ジャックの口から漏れ出た言葉に、マギーの麗しい表情は凍り付いて行く。
マギーの形の良い唇が微かに震えていた。
「魅入られた人間に待ち受けるのは破滅」
ジャックはそう言うと席を立って行った。
「さよなら。君と過ごした3日間は、とても素晴らしい体験だった」
背中越しにその言葉を告げたジャックがマギーを振り向くことはなかった。
ひとり残されたマギーの瞼には涙が溜まっていた。
「このシャツが無駄になってしまった…」
マギーは座席の脇に置いた手提 げ袋を抱き抱える。
「ジャックに、とてもよく似合うと思って」
マギーの大きな瞳から涙があふれ出た。
「喜んで着てくれると思ったのに…」
そう言うと、マギーはひとり鼻をすすって泣きはじめた。
マギー以外には客の居ないイタリアン レストランの2階フロアー。若いバーテンダーはマギーのテーブルに近づくと、ティッシュの箱をそっと差し出し、そのままそこを立ち去って行った。
New York Manhattan Columbus Avenue
イタリアン レストラン2階
Italian Restaurant second floor
レストラン1階の店員に付き添われ、
「ごめんなさい。随分待たせていたようね!?」
真っ白なドレストレンチコートを脱いだマギーが、ジャックに話し掛ける。コートの下には、蝶ネクタイの付いたエナメルのベルトと、リボンの
(その黒猫のような素敵なワンピースはきっと世界で一着、マギーの為だけに作られたのだ)
最高に似合うマギーの着こなしを見て、ジャックはそう感じていた。
「ジャック、西側の
カウンター席の前で立ち上がったジャックの腕を
「キュートな黒のワンピース、君にとてもよく似合うよ! 髪型も少し変えたんだ!?」
ジャックは円形のテーブル席に着くなり直ぐにそう話した。
「貴方の赤いタートルネックのセーターも、とても素敵よ!」
ジャックの前で頬を赤らめたマギーが言葉を返す。
イタリアン レストランの2階、モダンなインテリアで統一された店内、静かな空間で二人は共に店のメニューを眺めている。
「ジャック、貴方今日は余り食欲がないのね!?」
マギーは、どことなく
「そんな事無いよ! シングルモルトで頂いたショコラの甘味が、きっと僕に空腹を忘れさせているんだ!」
ジャックはマギーの前で強がって見せる。
「好いのよ。白ワインで魚介類でもいただきましょう」
マギーが優しく微笑む。
「白ワインに魚介類、それは大賛成だ」
ジャックが応える。
「そしてお腹が空いてきたら、もっとボリュームのあるものを頼みましょう」
マギーは
二人のテーブルには
「貴方嫌なのね?」
マギーは優しい瞳でジャックを見詰めている。
「連邦に従う事はないわ!」
更にそう話した。
「僕もその積りだ! 核の
ジャックはそう答えた。
「当然よね!」
マギーが同意を示す。
「そうだ!! 君にはっきり言って貰えて嬉しいよ。僕は人生の冷や飯を食う覚悟は既に出来ているのだから」
ジャックはそう言って笑った。
マギーはジャックのブルーの瞳を見詰めている。
「
ジャックはその言葉を付け加えた。
「何なのジャック? 貴方の心残りは…」
マギーがグラスに残る白ワインを飲み干した。まろやかな葡萄の果実感がマギーの味覚に
「ねえ。マギー」
ジャックは真剣な表情を見せ、目の前に座る美しい女性の名前を呼んだ。
マギーは何かの予感を感じて
「僕は今、もの凄い勇気を持って君に聞いているんだ。もしかして君は、僕とこれからも逢いたいとか、もう少し僕と触れ合ってみたいとか、そんな
ジャックはマギーの瞳を真剣に見詰めている。
「たとえば、僕たちは出会ってからまだ3日しか共に時間を過ごしてはいない。それに僕は君から見て、17歳も年上だ。だけど君のその、僕を見詰めてくれる優しい笑顔を見ていると、きっと僕は
マギーに自分の思いを告げたジャックは静かに瞼を閉じる。
「いいえ、誤解じゃないわ。私も貴方と同じ気持ちを持っている。それに私は貴方が言う、人生の冷や飯を食う予感なんかに尻込みはしないわ。唯、貴方は本当に私を受け入れてくれる? 私が誰でも、私がどのような存在でも、貴方は私を受け入れてくれるの?」
とても切ない表情を見せて、マギーはジャックにその言葉を繋いだ。
「とても長い話になるわ…」
マギーは大いなる世界の話を始めた。
かつて
宇宙の運行のあり方を巡る論議の末
我等は二つに別れて争いを繰り広げた。
どちらが正義でどちらが邪悪であった訳ではない。
唯、
相違や見解の差が生じただけ。
その戦いに敗れたのが我が一門。
勝者である天使群にこの大地に落とされ
地上に縛り付けられた。
その戦いも性急に起こされた訳ではない。
遥か昔にその布陣はあったの。
それは嘗て
神の
ルシフェル様の天界からの追放。
皆はそれを
堕天使ルシフェルと。
ルシフェル様が神の行為を
宇宙の果てに新たな世界を創造した為とも
ルシフェル様が神の計画に従わず
人間に自ら考え行動する自由を
与えたからとも言われている。
でも果たしてそうかしら。
ルシフェル様を天界から追放したのも
我ら一門を地上に突き落としたのも
神の行為ではない。
神は動いていない。
私達も神とは
私達を創造してくれたのは神なのよ。
神はまず世界を創造したわ。
あらゆる
それを統治する為に神が創造したのが
神的な
嘗てはそんな呼び名も無かった。
我等は同じ神的存在として
貴方たちが言う天使も悪魔も
嘗ては同じ神的存在だったの。
我が一門がこの大地に封印されるまではね。
神が創造した
第一
第二
第三
その天使群は、遠く神の御座まで続いている。
その次に創られたのが
第四
それは人間。
それがこの世界。
それなのに世界は神と悪魔
そのような対峙の
もう一度言うわ。
我等は神と対峙などしていない。
正しい構図はこう。
対峙しているのは天使群と魔族
それを天使は隠してるの
人間の眼を、世界の眼をくらませる為に。
魔族やルシフェル族は
貴方の考えているような存在じゃない。
全ては天使が
人間世界に
記憶の操作なのよ。
ルシフェル様の時も
我等の族長の時も
神は何ら関与はしていない。
何故なら神は世界の総てを創造して
ただそこに留まっているのだから。
神は動かないの
あとは神に創造された全てが
神の意志で時間の中を流れゆく
それがこの世界なの。
私達はこの国の国家権力の
入り込んではいないわ。
戦争も、勿論私達が起こしている訳じゃない。
それなのに戦争が起こると
総てが、魔族が
荒鷲の連邦の裏には
大天使ミカエルが力を貸していると云うのに。
でもね
もうすぐ私達はこの地球から解き放たれる
再び天空を
私達は月に上がり
月からこの地球を統治する。
そして火星を皮切りに
総ての惑星に広がるの。
緑と水の惑星のままでいるといいわ。
戦場になるかも知れない。
イオ(Jupiter I Io)
エウロパ(Jupiter II Europa)
ガニメデ(Jupiter III Ganymede)
カリスト(Jupiter IV Callisto)を巻き込んで
「ジャック。貴方にプロジェクターやプレゼンテーションソフトを使用した説明が必要のない事には、直ぐに解った! 貴方はギリシャ神話に出て来る
「全能の神
ジャックが答えた。
「そう。弓を使い、狩りと月を
マギーは魅惑的な瞳でジャックを見詰めている。
「貴方の力がそれよ! 世界を変える為に貴方の力が必要なの!」
ジャックは何かを考えている。
「ジャック。月から矢を放って! 火星へ、そして全ての惑星に」
マギーが魔族の悲願を話した。
「この国の権力を恐れる必要は無いわ。今この地球を治めている力、それは
「そして君達が新しい秩序を
ジャックが呟く。
「ジャック、お願い。私達を
マギーはそれを恐れていた。
「ジャック。お願い信じて! 私を信じて欲しいの」
マギーは自分を信じて話を続ける。
「私達は多面体の
マギーは力説する。
「プルトニウムの
そこには、優しいジャックの表情は既に消え失せていた。
「決して地球周回軌道を汚すような真似はしない。総ては月面から行うの。火星に対しても、地球の対しても、総ては月から統治をする積りよ。
マギーの瞼は溢れそうな涙を止めていた。
「魔女? 君が魔女!?」
「そう。私は魔女マギー」
「私達のオーナー、我等の魔王は月からの大気圏突入用ボールに、核を入れる必要のない事を祈っている。月から落とされる超合金ボールの威力は、そのものだけでも凄まじい。
ジャックは沈黙を貫いている。
唯、自然に彼の口が動いた。
悪魔は最もなことを言い
人間を
美しい毛皮を纏い
その者を
魅入られた人間に待ち受けるのは
破滅。
ジャックの口から漏れ出た言葉に、マギーの麗しい表情は凍り付いて行く。
マギーの形の良い唇が微かに震えていた。
「魅入られた人間に待ち受けるのは破滅」
ジャックはそう言うと席を立って行った。
「さよなら。君と過ごした3日間は、とても素晴らしい体験だった」
背中越しにその言葉を告げたジャックがマギーを振り向くことはなかった。
ひとり残されたマギーの瞼には涙が溜まっていた。
「このシャツが無駄になってしまった…」
マギーは座席の脇に置いた
「ジャックに、とてもよく似合うと思って」
マギーの大きな瞳から涙があふれ出た。
「喜んで着てくれると思ったのに…」
そう言うと、マギーはひとり鼻をすすって泣きはじめた。
マギー以外には客の居ないイタリアン レストランの2階フロアー。若いバーテンダーはマギーのテーブルに近づくと、ティッシュの箱をそっと差し出し、そのままそこを立ち去って行った。