第23話 眠り姫の回想
文字数 2,308文字
グレートブリテン及び北アイルランド連合王国
United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland
ウィンザー
Windsor
森と小川に囲まれた屋敷
A house surrounded by woods and streams
【眠り姫の回想 The recollection of the Sleeping beauty】
私を養護施設から連れ出してくれたおじさんとの共同生活がはじまった。勿論、5匹の子猫ちゃん達も一緒に、大きな屋敷で暮らしはじめた。住み込みのお手伝いシエナ やロージー 、管理人のシャーウッド 夫妻と共に、笑いが絶えない幸せな日々が続いた。
おじさんはとても忙しく、屋敷を留守にする事が多かったけれど、私が寂しい時には必ずと言っていい程、突然と目の前に現れた。
セラヌおじさんは本当に不思議な人。たくさんの会社のオーナーをしていて、別の名前でお仕事をしている。本当の名前は、遠い過去からセラヌなのだと私に告げてくれた。けれど、これは秘密の名前なのだと、おじさんは私に教えた。
12歳になった私に、おじさんはボーディングスクール への入学を勧めてくれた。仲良しのシエナやロージー、シャーウッド夫妻、猫ちゃんたちと離れて暮らすことがとても寂しかったけれど。人生の大切な予感が、私の心をアメリカへと向かわせた。
まだ子供の頃は、屋敷に帰省して過ごすバケーションの事ばかりを思い浮かべ、我慢して寮生活を続けていた。長期休暇の終わりには、また皆と離れて暮らすことになる。その寂しさもいつしか大人になるにつれ少しずつ薄らいでいった。
おじさんは仕事の合間を見て、私の住む寮にもよく訪れてくれた。たくさんの背伸びをするような場所にまで、私をこっそりと連れ出してくれて… お洋服の選び方やおしゃれの基本も全て、私にはおじさんが教えてくれたのだ。そのようにして、私の寄宿学校生活は過ぎていった。
ボーディングスクールを卒業した私は、おじさんの勧めもあり、ニューヨーク総合私立大学に進学をする。そこでとても照れや な男性に出会った。
遠く離れた席に座っていても、気が付くと不思議と彼とは視線が合っている。それなのに彼は直ぐに目を逸 らして、何事もなかったように振舞ったわ。そんな彼だから、私から挨拶を交わさなければ、二人が近付く事など永遠になかったのかもしれない。
ジャック、女の子の方から挨拶をして男の人に話し掛けるだなんて、それがどれだけ勇気が必要な事だったのか… 貴方にはそれが解かるかしら!? それをよく考えてみてよね。
けれど、シャイな貴方は、どこか大好きなセラヌおじさんに似ていた。
そんな風にして、私の幸せは訪れた。
【少女の部屋 Girl's Room】
静かな寝息をたて眠り続ける少女。
少女は自己の人生を回想する夢を見ていた。
「アクエリアス 」
フォーマルなスーツを着た美しい身なりの男が、部屋に置かれた椅子に腰掛け、眠り続ける少女を見詰めていた。
「16歳の今の君の寝顔は、二十数年前の、君が16歳であった時とやはり同じだ。僅 かな相違 もない」
セラヌは懐かしい日々を思い出していた。そして彼は、眠り続ける少女の深層意識 に介入をし、意図的 に、少女に過去の記憶を夢として見せているのだ。
嘗てのアクエリアスに遺伝子の研究施設を見せたのも、彼女が16歳の時だった。僕の見せるクローン技術と研究の成果に、君はとても驚いていた。そして何時しか君は僕の有能な助手へと成長していった。
雄 の関与しない、卵子だけから新しい命を造り出すことに成功した僕が、完全なる単一女性のクローン体誕生を進めていた時、それはマギーに人間女性の肉体をプレゼントすると決めた頃だが、その時、君は僕に自分の卵子の提供を申し出てくれた。
羊膜 の抽出 物質を用 い、体外で十分に成熟 させた卵子。その一つに遺伝子操作を加え、もう一つの卵子にその核を移植した。精子の介入を要せずに、卵子のみを用い見事に細胞分裂は開始された。その10か月後、アクエリアス、君の完全なるクローン体である赤子が代理出産母体から誕生する。
魔女マギーの精神エネルギーを霊魂 として持つ赤子が、順調に成長する様子を見て、君の心は興奮を隠せないでいた。それは当然だ。僕たちは不老不死を創り上げたのだから。そしてアクエリアス、君は霊の存在を、思考 する精神エネルギーの存在を認めるようになった。
【眠り姫の回想 The recollection of the Sleeping princess】
アメリカの研究施設で、おじさんは私の卵子から一人の人間を創り出した。男性の存在を必要としない生殖 。おじさんはまるで神のようにその行為を完成させた。
けれど、それよりも実在する霊的エネルギーの存在を知った事の方が、私にはより衝撃的 だった。
おじさんが造りあげた胎芽 に入り込む霊的エネルギー、そして私自身も思考する霊的エネルギー存在の一人だと気付かされた。
肉体= 人間ではないのだ。
世界中の人間は皆、そうとは知らずに生きているだけ。
私は確かに憧れた。老いる前に再び再生できる体に、そして永遠の命に…
唯、ジャックと出逢ってからは、自然とセラヌおじさんとの距離は離れた。あんなに夢中になっていた遺伝子の研究にさえ、急に興味が失せてしまった。私は永遠の命よりも、いまこの時の愛に総てを捧 げたかったのだ。
それなのに、突然に運命は私を手招きに来た。肉親の愛情を渇望 してきた私には、その運命を受け入れるしか他に術 がなかった。
United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland
ウィンザー
Windsor
森と小川に囲まれた屋敷
A house surrounded by woods and streams
【眠り姫の
私を養護施設から連れ出してくれたおじさんとの共同生活がはじまった。勿論、5匹の子猫ちゃん達も一緒に、大きな屋敷で暮らしはじめた。住み込みのお手伝い
おじさんはとても忙しく、屋敷を留守にする事が多かったけれど、私が寂しい時には必ずと言っていい程、突然と目の前に現れた。
セラヌおじさんは本当に不思議な人。たくさんの会社のオーナーをしていて、別の名前でお仕事をしている。本当の名前は、遠い過去からセラヌなのだと私に告げてくれた。けれど、これは秘密の名前なのだと、おじさんは私に教えた。
12歳になった私に、おじさんは
まだ子供の頃は、屋敷に帰省して過ごすバケーションの事ばかりを思い浮かべ、我慢して寮生活を続けていた。長期休暇の終わりには、また皆と離れて暮らすことになる。その寂しさもいつしか大人になるにつれ少しずつ薄らいでいった。
おじさんは仕事の合間を見て、私の住む寮にもよく訪れてくれた。たくさんの背伸びをするような場所にまで、私をこっそりと連れ出してくれて… お洋服の選び方やおしゃれの基本も全て、私にはおじさんが教えてくれたのだ。そのようにして、私の寄宿学校生活は過ぎていった。
ボーディングスクールを卒業した私は、おじさんの勧めもあり、ニューヨーク総合私立大学に進学をする。そこでとても
遠く離れた席に座っていても、気が付くと不思議と彼とは視線が合っている。それなのに彼は直ぐに目を
ジャック、女の子の方から挨拶をして男の人に話し掛けるだなんて、それがどれだけ勇気が必要な事だったのか… 貴方にはそれが解かるかしら!? それをよく考えてみてよね。
けれど、シャイな貴方は、どこか大好きなセラヌおじさんに似ていた。
そんな風にして、私の幸せは訪れた。
【少女の部屋 Girl's Room】
静かな寝息をたて眠り続ける少女。
少女は自己の人生を回想する夢を見ていた。
「
フォーマルなスーツを着た美しい身なりの男が、部屋に置かれた椅子に腰掛け、眠り続ける少女を見詰めていた。
「16歳の今の君の寝顔は、二十数年前の、君が16歳であった時とやはり同じだ。
セラヌは懐かしい日々を思い出していた。そして彼は、眠り続ける少女の
嘗てのアクエリアスに遺伝子の研究施設を見せたのも、彼女が16歳の時だった。僕の見せるクローン技術と研究の成果に、君はとても驚いていた。そして何時しか君は僕の有能な助手へと成長していった。
魔女マギーの精神エネルギーを
【眠り姫の回想 The recollection of the Sleeping princess】
アメリカの研究施設で、おじさんは私の卵子から一人の人間を創り出した。男性の存在を必要としない
けれど、それよりも実在する霊的エネルギーの存在を知った事の方が、私にはより
おじさんが造りあげた
肉体
世界中の人間は皆、そうとは知らずに生きているだけ。
私は確かに憧れた。老いる前に再び再生できる体に、そして永遠の命に…
唯、ジャックと出逢ってからは、自然とセラヌおじさんとの距離は離れた。あんなに夢中になっていた遺伝子の研究にさえ、急に興味が失せてしまった。私は永遠の命よりも、いまこの時の愛に総てを
それなのに、突然に運命は私を手招きに来た。肉親の愛情を