第10話 マギーのお家(Maggie’s House ) -最高の夜景-
文字数 2,118文字
ニューヨーク マンハッタン アッパーウエストサイド
New York Manhattan Upper West Side
マギーの住む超高層ビル
The skyscraper where Maggie lives
それはまるで世界中の宝石箱を引っくり返したような光景だった。ジャックは円形に形取られたジャグジー の中央に立ち上がり、高層の窓辺からニューヨーク市街の夜景を眺めている。
浴槽に嵌め込まれたライトが、揺れ動くバブルを淡いライム色に照らしていた。
「ジャック。何か解らない事はない?」
マギーがバスルームと脱衣室を隔てた厚い仕切りガラスに近づいて来る。バスタブに立つジャックは慌てて浴槽に身を沈め、バブルの中に裸体を隠した。
「解るよ。大丈夫!」
ジャックが短めに答える。
「そう!?」
ジャックの返事を確認したマギーは、脱衣室から離れて行く。
ジャックは浴室の仕切りガラスをスモーク仕様に切り替える。そして又、ジャグジーの中央に立ち上がり、高層の窓辺からニューヨーク市街の夜景を見詰めていた。
「最高の眺めだ」
ジャックは眼下に広がる素晴らしい光景を飽きる事なく眺め続けていた。
「ジャック!!」
マギーが再び、バスルームに近づいて来る。
「貴方の好きな紳士服メーカーのシャツ、トランクス、ソックス、ボタンダウンシャツ、ブランドのジャケットにデニム、総て纏 めてクリーニングに出して置いたわよ!」
「えっ!?」
ジャックは絶句する。
「開けても好い?」
マギーがバスルームのドアに手を掛けて尋ねる、そしてジャックの返事も聞かぬまま浴室のドアを開ける。
ジャックは慌てて浴槽のバブルに身を隠した。
「隣接するホテルのランドリーサービス、ドライクリーニングサービスが利用出来るの!」
浴室のドアが少し開き、隙間からマギーの可愛らしい顔が覗いた。
「衣類に鉄さびや油、排気ガスなんかの臭いも染みついていたわ。だから私のものと一緒に全部クリーニングに出して置いたの。でも心配しないで、衣類は3時間もしないでここに戻ってくるから。さて、私も入浴の用意をするわね!」
「えっ?」
驚いたジャックは、思わず浴槽から立ち上がりそうになる。
「ジャック、誤解しないで。バスルームはもう一つあるのよ。ここに浴後の部屋着を置いておくわね! 後は勝手にくつろいで居て頂戴!」
マギーはそう告げると、バスルームのドアを閉め脱衣所から引き上げて行った。
ジャックは両腕で力こぶを作り、上半身の筋肉に力を籠める。
(十分な筋肉がある。何も泡に隠れる事などないのだ)
堂々としていればよかったと、ジャックは後から反省をした。
(それにしても、ドアから顔を覗かせたマギーの表情は凄く可愛かった。こうしていると、まるでアクエリアスと今の時代を共に過ごしているような錯覚に陥る)
ジャックは窓の外の夜景を見ながら、遠い日の懐かしい記憶を思い出していた。
18年前のクリスマスイブ、その翌日より僕らの世界は一変していた。世界はまさに二人の為に存在し、僕たちはもう片時も離れる事が出来ずにいた。
「ジャック、不思議ね⁉ 私達って、どうしてこんなにぴったりと合うのかしら!?」
12月が過ぎてニューイヤー を迎えて、それからひと月経ったある日、アクエリアスが僕の隣でそう呟いた。
寒い冬の室内、二人は同じ毛布に包 まり温かいコーヒーを飲んでいた。
「不思議な感覚、まさにぴったりと言う言葉が、僕らの関係を的確に表現している。僕たちはきっと生まれてくる前に一つだったんだ!」
二人の相性の良さを、僕はそう表現した。
「そうね! もっと早く出会っていたのに少し損をしたわ!」
とてもやわらかで、あたたかい、優しいにおいのする… アクエリアスが僕に寄り添い話す。
「互いに存在は知っていたのに… 僕が君に、声を掛ける勇気がなかったんだ!」
僕はアクエリアスにそう答えた。
「私も貴方の事を良く知っていた。何時も校舎中庭の階段に座って、こちらを見ていたもの…」
アクエリアスが、手に持つコーヒーカップの陶器で手のひらを温めている。
「コンクリートの階段に座り、地面に落ちている小石をいじりながら… 君が教室から出てくるのを黙って見ていたんだ!」
「本当?」
「今日こそは君に話しかけられるかどうかって!? 考えながら、いつも一人で階段に座っていたんだ!」
「それって信じられない! ジャック。本当に?」
アクエリアスのグラマラスな瞳が、この世界の僕だけを見詰めた。
「ごめんよ。僕は臆病者だったんだ。君を誘うのに、二年の歳月を掛けてしまった…」
「いいのよ、ジャック。とても嬉しいの!」
アクエリアスの指先が優しく僕の唇に触れた。その言葉が今でも耳に残っている。
アクエリアスはとても華やかで… その頃の僕なんかには、まるで手の届かない遠い存在だった。あの日もの凄い勇気を奮い彼女を誘うことが出来たのは、僕にとってそれは奇跡のような行動だった。
『ジャック貴方って素敵よ!』
『ジャック貴方は更に素敵な男性になる。私には解るの!』
それがアクエリアスの口癖だった。
アクエリアスは魔法の呪文のように、何時も僕に勇気と自信を与えてくれた。
New York Manhattan Upper West Side
マギーの住む超高層ビル
The skyscraper where Maggie lives
それはまるで世界中の宝石箱を引っくり返したような光景だった。ジャックは円形に形取られた
浴槽に嵌め込まれたライトが、揺れ動くバブルを淡いライム色に照らしていた。
「ジャック。何か解らない事はない?」
マギーがバスルームと脱衣室を隔てた厚い仕切りガラスに近づいて来る。バスタブに立つジャックは慌てて浴槽に身を沈め、バブルの中に裸体を隠した。
「解るよ。大丈夫!」
ジャックが短めに答える。
「そう!?」
ジャックの返事を確認したマギーは、脱衣室から離れて行く。
ジャックは浴室の仕切りガラスをスモーク仕様に切り替える。そして又、ジャグジーの中央に立ち上がり、高層の窓辺からニューヨーク市街の夜景を見詰めていた。
「最高の眺めだ」
ジャックは眼下に広がる素晴らしい光景を飽きる事なく眺め続けていた。
「ジャック!!」
マギーが再び、バスルームに近づいて来る。
「貴方の好きな紳士服メーカーのシャツ、トランクス、ソックス、ボタンダウンシャツ、ブランドのジャケットにデニム、総て
「えっ!?」
ジャックは絶句する。
「開けても好い?」
マギーがバスルームのドアに手を掛けて尋ねる、そしてジャックの返事も聞かぬまま浴室のドアを開ける。
ジャックは慌てて浴槽のバブルに身を隠した。
「隣接するホテルのランドリーサービス、ドライクリーニングサービスが利用出来るの!」
浴室のドアが少し開き、隙間からマギーの可愛らしい顔が覗いた。
「衣類に鉄さびや油、排気ガスなんかの臭いも染みついていたわ。だから私のものと一緒に全部クリーニングに出して置いたの。でも心配しないで、衣類は3時間もしないでここに戻ってくるから。さて、私も入浴の用意をするわね!」
「えっ?」
驚いたジャックは、思わず浴槽から立ち上がりそうになる。
「ジャック、誤解しないで。バスルームはもう一つあるのよ。ここに浴後の部屋着を置いておくわね! 後は勝手にくつろいで居て頂戴!」
マギーはそう告げると、バスルームのドアを閉め脱衣所から引き上げて行った。
ジャックは両腕で力こぶを作り、上半身の筋肉に力を籠める。
(十分な筋肉がある。何も泡に隠れる事などないのだ)
堂々としていればよかったと、ジャックは後から反省をした。
(それにしても、ドアから顔を覗かせたマギーの表情は凄く可愛かった。こうしていると、まるでアクエリアスと今の時代を共に過ごしているような錯覚に陥る)
ジャックは窓の外の夜景を見ながら、遠い日の懐かしい記憶を思い出していた。
18年前のクリスマスイブ、その翌日より僕らの世界は一変していた。世界はまさに二人の為に存在し、僕たちはもう片時も離れる事が出来ずにいた。
「ジャック、不思議ね⁉ 私達って、どうしてこんなにぴったりと合うのかしら!?」
12月が過ぎて
寒い冬の室内、二人は同じ毛布に
「不思議な感覚、まさにぴったりと言う言葉が、僕らの関係を的確に表現している。僕たちはきっと生まれてくる前に一つだったんだ!」
二人の相性の良さを、僕はそう表現した。
「そうね! もっと早く出会っていたのに少し損をしたわ!」
とてもやわらかで、あたたかい、優しいにおいのする… アクエリアスが僕に寄り添い話す。
「互いに存在は知っていたのに… 僕が君に、声を掛ける勇気がなかったんだ!」
僕はアクエリアスにそう答えた。
「私も貴方の事を良く知っていた。何時も校舎中庭の階段に座って、こちらを見ていたもの…」
アクエリアスが、手に持つコーヒーカップの陶器で手のひらを温めている。
「コンクリートの階段に座り、地面に落ちている小石をいじりながら… 君が教室から出てくるのを黙って見ていたんだ!」
「本当?」
「今日こそは君に話しかけられるかどうかって!? 考えながら、いつも一人で階段に座っていたんだ!」
「それって信じられない! ジャック。本当に?」
アクエリアスのグラマラスな瞳が、この世界の僕だけを見詰めた。
「ごめんよ。僕は臆病者だったんだ。君を誘うのに、二年の歳月を掛けてしまった…」
「いいのよ、ジャック。とても嬉しいの!」
アクエリアスの指先が優しく僕の唇に触れた。その言葉が今でも耳に残っている。
アクエリアスはとても華やかで… その頃の僕なんかには、まるで手の届かない遠い存在だった。あの日もの凄い勇気を奮い彼女を誘うことが出来たのは、僕にとってそれは奇跡のような行動だった。
『ジャック貴方って素敵よ!』
『ジャック貴方は更に素敵な男性になる。私には解るの!』
それがアクエリアスの口癖だった。
アクエリアスは魔法の呪文のように、何時も僕に勇気と自信を与えてくれた。