第8話 暗闇の中の二人(Two in the dark)
文字数 4,256文字
ニューヨーク マンハッタン
New York Manhattan
イエローキャブ
Yellow cab
「嵌 められたわね」
真っ暗で、指先さえ見えないキャブの車内でマギーが呟く。
「僕の学績 、研究の利用、それが目的!?」
ジャックが応えた。
「案外、私を狙った産業スパイかもよ?」
「いや、運転手が立ち去るとき『教授、手荒なことはいたしません』と断りを入れていた。彼らは僕に用事があるんだ。
「カフェから歩いても帰れたのに、私がモンテビアンコを買って帰りたいなんて遠回りを言ったから悪いの…」
マギーは吐息を吐いた。
「何を言うんだ。トラブルに君を巻き込んでしまって。謝りたいのは僕の方だよ」
「好いのよ。私は平気」
「いいかい、マギー。チャンスは必ず訪れる!」
暗闇の中、ジャックは手探りでマギーの手を見つけ握りしめる。
「その時、一気に逃げるから準備をして置いて欲しい。君の事は命に代えても必ず守り通すから」
ジャックはマギーに、確かな口調で言葉を伝えた。
「頼もしいのね」
マギーはジャックのあたたかなからだに寄り添う。
暗闇と騒音の中で、二人は人肌の温もりのありがたさを実感する。
「僕は孤児でね。ちょっとの事ではへこたれない」
ジャックはそう話した。
「18年前のクリスマス・イヴ。予約したレストランにパトカーが突っ込んでいた時にも、貴方はアクエリアスの前でとてもタフな男だった」
マギーが告げる過去の指摘に、ジャックは静かに微笑んでいた。
「私も意外と頼りになるのよ」
二人はイエローキャブの後部座席で、互いの手を強く握り合っていた。
楽しく過ごしたカフェを出て、傘を差し掛けてくれたウエイターに別れを告げると、二人は揃ってイエローキャブの後部座席へと掛け込んだ。運転手は、行き先を告げたマギーにお愛想よく振る舞い、街並へと乗り出して行く。何時もの街角の風景。楽し気に会話を続ける二人。とても自然に、車は街角を右に曲がる。しかし一瞬にして、キャブは大型トレーラーコンテナの中に車体を乗り入れていた。
どんな周到な準備がなされていたのだろうか? 周囲が真っ暗になった瞬間、運転手は「教授、手荒なことはいたしません」と断りを入れ出て行った。
運転席と後部座席の間には、硬化プラスチックにて隔たりが設 けられていた。後部座席のドアはロックされ、キャブの窓からなんとか車外 に這い出た時には、既にコンテナの後部扉は閉められていた。スマホは圏外の表示。後は走り続けるトレーラーの振動と騒音が、暗闇の中に響くだけであった。
「今はどう足掻 いても無駄のようだ」
暗闇と騒音の中でコンテナの内部を調査してきたジャックがマギーに話した。
「そう… 仕方ないわね」
「それにこれはコンテナではない。これは荷台をアルミ製箱形に改良した大型車載 トレーラーだと思う」
ジャックはキャブのトランクを開け、携帯された工具一式を取り出し、自らの手に携 えていた。
「貴方、車にも詳しいのね!?」
マギーが後部座席のドアから顔を覗かせる。
「このキャブはとても旧式で、おんぼろな車だね。ハンドル脇のエンジンキーは既に取り外されている。運転手が立ち去るときに抜き取って行ったのだろう」
ジャックはイエローキャブの運転席側のドアを開け、スマートフォンに内蔵された照明機能を使用して車内を調べている。
「いや待てよ、おんぼろだから出来る事もある。マギー、前に来てくれ! 後部座席の窓を閉めて助手席に座って」
何かを思い付いたジャックがマギーに指示する。
ジャックは携えた工具箱の中から丸ペンチを取り出し、逆さまの体勢となり、運転席ハンドルの下に潜り込んだ。
「ジャック、大丈夫?」
走行するトレーラーの振動が、時折ジャックの首筋に衝撃を与えた。マギーもスマホのライトを灯して、作業を続けるジャックのアシストを続ける。
「ありがとう、マギー。もう少しだ!」
ジャックは元気に言葉を返した。
「助手席のダッシュボードの下に発煙筒がある筈。マギー、それは確保しておいて。きっと何かの役に立つ!」
「これね。あったわ!」
マギーが発煙筒を確保する。
「よし、それは君のバックに入れておくんだ」
「了解よ!」
その時、「ルルルルッ、ルルッ」エンジンのスタート音とその振動が鳴り響いた。しかし再び沈黙する。
「準備はOK」
ジャックはハンドルの下から這い出て来て逆さまの姿勢を正す。そして運転席のドアを閉めシートベルトを装着すると、ハンドルの下に手を入れ配線をまさぐる。
再び、「ルルルルッ、ルルッ」エンジンのスタート音とその振動が鳴り響いた。
「キャブのエンジンが掛けられるのね!?」
「そうだ。このむき出しにした導線をねじり合わせれば、キャブのエンジンはスタートする」
ジャックは再び導線のねじりを引き離し、キャブのエンジンを切る。
「マギー。シートベルトをしっかりと装着して。もう解っただろう!?」
「ええ。チャンスが来た時に、素早くエンジンを掛けバックギアで飛び出すのね!」
「そう。その時はしっかり掴まっていて! 激しい衝撃は覚悟しなければならない」
「大丈夫よ!」
マギーは助手席のシートベルトを装着しながら応えた。
「遠慮はいらない。僕らが被害者だ!」
ジャックはキャブに携帯されていた工具箱の中から、大きなスパナを取り出してマギーに手渡す。そして自分はタイヤ交換用のレンチを取り出して装備する。
「ワクワクするわね。日本のロボットアニメのセリフで言えば、『やってやるぜ!!』って感じね!」
スパナを渡されたマギーが、ジャックに応える。
二人の心はやる気で満たされていた。
しかしその後は又、暗闇と騒音の中で沈黙が続いた。
「何処迄連れて行く積りかしら?」
マギーが口を開く。
「話でもしていよう。僕ら二人にとってはとても大切な時間だ!」
ジャックが騒音や不安や暗闇をかき消すような明るさで話した。
「そうだ。とても聴きたかったのよ!」
マギーは急に何かを思い出して、大きな声を上げる。
「あなた料理は誰に習ったの?」
「料理? 料理は僕の足長おじさんに習った」
ジャックはそう答えた。
「足長おじさん?」
「そう。僕は自分を生んでくれた両親を知らない」
「貴方。自分が孤児だと言ったものね…」
マギーが話す。
「まだミルクが必要な赤ん坊の頃に、比較的裕福な家庭の軒先に置かれていた」
「ミルクが必要な頃に?」
マギーが聞き返す。
「そうらしい」
「何か事情があったのね…」
労りの言葉を掛けるマギーの前で、ジャックは暫し沈黙をする。
「母親の代わりに、大きな体格をした豪快なイザベルおばさんが、ミルクを飲ませてくれた。その時、おばさんは僕を入れて三人の赤ん坊にミルクを飲ませていたらしい。健康で大食家だったから、ミルクもきっとたくさん出たんだ」
「あら、私の母親もイザベルと言う名前なの。これも何かの縁ね!?」
「ふっ。そうだね。きっと僕らには何か良い縁があるんだ!」
ジャックもそれに同意する。
「そして僕を養子にしてくれたのが、おばさんの友人でもある素敵なおじさんだ。おじさんとは呼びがたい。おじさんは何時お会いしても若く美しい、礼儀作法も超一流だ、洋服のセンスは誰よりも好い、そして不思議と歳を取らない」
「ふーん。ジャックが言うなら、間違いはないわね!」
マギーは感心してジャックの話を聴いている。
「サルティンボッカに使う生ハムは必ず使用する直前にナイフを入れる。フライパンに入れるオリーブオイルの量は衣肉が隠れる程度に、油の温度は160℃に整え、両面が狐色になるように仕上げる。そう教えてくれた。僕の料理好きな所も、宇宙や航空物理学に興味を抱くようになったのも、それはすべておじさんの影響だ。子供の頃から、そして今も僕は、彼をとても尊敬している」
ジャックは嬉しそうに話した。
「貴方はその男性 と共に暮らしていたの?」
ジャックの手を握りしめながらマギーが尋ねる。
「おじさんはとても忙しい。遺伝子の研究と財団の仕事で世界中を飛び回っている。そこで彼は、幼少の僕を世界有数の寄宿学校 に入れてくれた。それでも暇を見つけては足繁 く僕に逢いに来てくれた。十分に時間のある時には、それこそ世界中を案内してくれたよ」
「そう、素敵な話ね! ジャック。何時か私の生い立ちや境遇についても… 貴方に聴いて貰いたい! そして、私にもサルティンボッカを料理して食べさせてね!? サクサクして、本当に美味しそうだもの」
マギー デュナミス ロペスはそう話した。
その時であった。
「あっ。止まったようね!」
トレーラーが停車したことを素早く察知したマギーが呟く。
二人はキャブの窓に耳を傾け、注意深く外部の状況を想像する。
トレーラーが走っている時には、騒音と振動で外部の状況は何も解らないのだ。
「信号待ちかしら?」
マギーが口を開く。
「いいや。これは信号待ちよりも更にもっと長い停車だ!」
「アジトに着いたのかしら?」
「トレーラーのエンジンは掛けられたままだ。運転手がドアを開けた音は聞こえない」
ジャックが応える。
「あら。じゃらじゃらと鎖を引き上げる音が聴こえる。同時にシャッターが上がる音も聴こえるわね!? 錆ついて金属の擦れ合う嫌な音も聞こえてきた」
「なる程、随分旧式の倉庫に連れてこられたようだ」
ジャックが聴こえる音を頼りに推測をする。
その後トレーラーは動きを再開し少し進んだ所で停車をする。今度はエンジンも切り、運転手がドアを開け外に降り立つ音も二人の耳には聴こえていた。
「トレーラーから二人降りたよ。それと周囲にいる何台かの車のドアが開かれ閉じられる音が四回聞こえた。倉庫には全部で六人の人間がいるのかな?」
ジャックがマギーに小声で囁く。
「ジャック。トレーラーの周囲で話す男達の声も聞こえる。『暗闇に押し込み連れまわせば、後はブルって萎 れた野菜のようになって降りてくるぜ!』コンテナを叩きながら生意気な事を言っている奴がいるわ。あいつ許さないかな!?」
マギーの口調が凶暴化してきた。
「よし、僕たちも戦闘態勢だ。幸い倉庫の旧式シャッターが閉じた音も聞こえない。もう助手席の窓は閉めて。シートベルトを確認して。衝撃に備えて。やるよマギー!」
ジャックが勇ましく宣誓 をした。
「了解。貴方の強い意思は世界中に伝わったわ!」
マギーはジャックの首元に一瞬強く抱き着くと即座にからだを離し、助手席ドア上部に設置されたアシストグリップにしがみついた。
New York Manhattan
イエローキャブ
Yellow cab
「
真っ暗で、指先さえ見えないキャブの車内でマギーが呟く。
「僕の
ジャックが応えた。
「案外、私を狙った産業スパイかもよ?」
「いや、運転手が立ち去るとき『教授、手荒なことはいたしません』と断りを入れていた。彼らは僕に用事があるんだ。
「カフェから歩いても帰れたのに、私がモンテビアンコを買って帰りたいなんて遠回りを言ったから悪いの…」
マギーは吐息を吐いた。
「何を言うんだ。トラブルに君を巻き込んでしまって。謝りたいのは僕の方だよ」
「好いのよ。私は平気」
「いいかい、マギー。チャンスは必ず訪れる!」
暗闇の中、ジャックは手探りでマギーの手を見つけ握りしめる。
「その時、一気に逃げるから準備をして置いて欲しい。君の事は命に代えても必ず守り通すから」
ジャックはマギーに、確かな口調で言葉を伝えた。
「頼もしいのね」
マギーはジャックのあたたかなからだに寄り添う。
暗闇と騒音の中で、二人は人肌の温もりのありがたさを実感する。
「僕は孤児でね。ちょっとの事ではへこたれない」
ジャックはそう話した。
「18年前のクリスマス・イヴ。予約したレストランにパトカーが突っ込んでいた時にも、貴方はアクエリアスの前でとてもタフな男だった」
マギーが告げる過去の指摘に、ジャックは静かに微笑んでいた。
「私も意外と頼りになるのよ」
二人はイエローキャブの後部座席で、互いの手を強く握り合っていた。
楽しく過ごしたカフェを出て、傘を差し掛けてくれたウエイターに別れを告げると、二人は揃ってイエローキャブの後部座席へと掛け込んだ。運転手は、行き先を告げたマギーにお愛想よく振る舞い、街並へと乗り出して行く。何時もの街角の風景。楽し気に会話を続ける二人。とても自然に、車は街角を右に曲がる。しかし一瞬にして、キャブは大型トレーラーコンテナの中に車体を乗り入れていた。
どんな周到な準備がなされていたのだろうか? 周囲が真っ暗になった瞬間、運転手は「教授、手荒なことはいたしません」と断りを入れ出て行った。
運転席と後部座席の間には、硬化プラスチックにて隔たりが
「今はどう
暗闇と騒音の中でコンテナの内部を調査してきたジャックがマギーに話した。
「そう… 仕方ないわね」
「それにこれはコンテナではない。これは荷台をアルミ製箱形に改良した大型
ジャックはキャブのトランクを開け、携帯された工具一式を取り出し、自らの手に
「貴方、車にも詳しいのね!?」
マギーが後部座席のドアから顔を覗かせる。
「このキャブはとても旧式で、おんぼろな車だね。ハンドル脇のエンジンキーは既に取り外されている。運転手が立ち去るときに抜き取って行ったのだろう」
ジャックはイエローキャブの運転席側のドアを開け、スマートフォンに内蔵された照明機能を使用して車内を調べている。
「いや待てよ、おんぼろだから出来る事もある。マギー、前に来てくれ! 後部座席の窓を閉めて助手席に座って」
何かを思い付いたジャックがマギーに指示する。
ジャックは携えた工具箱の中から丸ペンチを取り出し、逆さまの体勢となり、運転席ハンドルの下に潜り込んだ。
「ジャック、大丈夫?」
走行するトレーラーの振動が、時折ジャックの首筋に衝撃を与えた。マギーもスマホのライトを灯して、作業を続けるジャックのアシストを続ける。
「ありがとう、マギー。もう少しだ!」
ジャックは元気に言葉を返した。
「助手席のダッシュボードの下に発煙筒がある筈。マギー、それは確保しておいて。きっと何かの役に立つ!」
「これね。あったわ!」
マギーが発煙筒を確保する。
「よし、それは君のバックに入れておくんだ」
「了解よ!」
その時、「ルルルルッ、ルルッ」エンジンのスタート音とその振動が鳴り響いた。しかし再び沈黙する。
「準備はOK」
ジャックはハンドルの下から這い出て来て逆さまの姿勢を正す。そして運転席のドアを閉めシートベルトを装着すると、ハンドルの下に手を入れ配線をまさぐる。
再び、「ルルルルッ、ルルッ」エンジンのスタート音とその振動が鳴り響いた。
「キャブのエンジンが掛けられるのね!?」
「そうだ。このむき出しにした導線をねじり合わせれば、キャブのエンジンはスタートする」
ジャックは再び導線のねじりを引き離し、キャブのエンジンを切る。
「マギー。シートベルトをしっかりと装着して。もう解っただろう!?」
「ええ。チャンスが来た時に、素早くエンジンを掛けバックギアで飛び出すのね!」
「そう。その時はしっかり掴まっていて! 激しい衝撃は覚悟しなければならない」
「大丈夫よ!」
マギーは助手席のシートベルトを装着しながら応えた。
「遠慮はいらない。僕らが被害者だ!」
ジャックはキャブに携帯されていた工具箱の中から、大きなスパナを取り出してマギーに手渡す。そして自分はタイヤ交換用のレンチを取り出して装備する。
「ワクワクするわね。日本のロボットアニメのセリフで言えば、『やってやるぜ!!』って感じね!」
スパナを渡されたマギーが、ジャックに応える。
二人の心はやる気で満たされていた。
しかしその後は又、暗闇と騒音の中で沈黙が続いた。
「何処迄連れて行く積りかしら?」
マギーが口を開く。
「話でもしていよう。僕ら二人にとってはとても大切な時間だ!」
ジャックが騒音や不安や暗闇をかき消すような明るさで話した。
「そうだ。とても聴きたかったのよ!」
マギーは急に何かを思い出して、大きな声を上げる。
「あなた料理は誰に習ったの?」
「料理? 料理は僕の足長おじさんに習った」
ジャックはそう答えた。
「足長おじさん?」
「そう。僕は自分を生んでくれた両親を知らない」
「貴方。自分が孤児だと言ったものね…」
マギーが話す。
「まだミルクが必要な赤ん坊の頃に、比較的裕福な家庭の軒先に置かれていた」
「ミルクが必要な頃に?」
マギーが聞き返す。
「そうらしい」
「何か事情があったのね…」
労りの言葉を掛けるマギーの前で、ジャックは暫し沈黙をする。
「母親の代わりに、大きな体格をした豪快なイザベルおばさんが、ミルクを飲ませてくれた。その時、おばさんは僕を入れて三人の赤ん坊にミルクを飲ませていたらしい。健康で大食家だったから、ミルクもきっとたくさん出たんだ」
「あら、私の母親もイザベルと言う名前なの。これも何かの縁ね!?」
「ふっ。そうだね。きっと僕らには何か良い縁があるんだ!」
ジャックもそれに同意する。
「そして僕を養子にしてくれたのが、おばさんの友人でもある素敵なおじさんだ。おじさんとは呼びがたい。おじさんは何時お会いしても若く美しい、礼儀作法も超一流だ、洋服のセンスは誰よりも好い、そして不思議と歳を取らない」
「ふーん。ジャックが言うなら、間違いはないわね!」
マギーは感心してジャックの話を聴いている。
「サルティンボッカに使う生ハムは必ず使用する直前にナイフを入れる。フライパンに入れるオリーブオイルの量は衣肉が隠れる程度に、油の温度は160℃に整え、両面が狐色になるように仕上げる。そう教えてくれた。僕の料理好きな所も、宇宙や航空物理学に興味を抱くようになったのも、それはすべておじさんの影響だ。子供の頃から、そして今も僕は、彼をとても尊敬している」
ジャックは嬉しそうに話した。
「貴方はその
ジャックの手を握りしめながらマギーが尋ねる。
「おじさんはとても忙しい。遺伝子の研究と財団の仕事で世界中を飛び回っている。そこで彼は、幼少の僕を世界有数の
「そう、素敵な話ね! ジャック。何時か私の生い立ちや境遇についても… 貴方に聴いて貰いたい! そして、私にもサルティンボッカを料理して食べさせてね!? サクサクして、本当に美味しそうだもの」
マギー デュナミス ロペスはそう話した。
その時であった。
「あっ。止まったようね!」
トレーラーが停車したことを素早く察知したマギーが呟く。
二人はキャブの窓に耳を傾け、注意深く外部の状況を想像する。
トレーラーが走っている時には、騒音と振動で外部の状況は何も解らないのだ。
「信号待ちかしら?」
マギーが口を開く。
「いいや。これは信号待ちよりも更にもっと長い停車だ!」
「アジトに着いたのかしら?」
「トレーラーのエンジンは掛けられたままだ。運転手がドアを開けた音は聞こえない」
ジャックが応える。
「あら。じゃらじゃらと鎖を引き上げる音が聴こえる。同時にシャッターが上がる音も聴こえるわね!? 錆ついて金属の擦れ合う嫌な音も聞こえてきた」
「なる程、随分旧式の倉庫に連れてこられたようだ」
ジャックが聴こえる音を頼りに推測をする。
その後トレーラーは動きを再開し少し進んだ所で停車をする。今度はエンジンも切り、運転手がドアを開け外に降り立つ音も二人の耳には聴こえていた。
「トレーラーから二人降りたよ。それと周囲にいる何台かの車のドアが開かれ閉じられる音が四回聞こえた。倉庫には全部で六人の人間がいるのかな?」
ジャックがマギーに小声で囁く。
「ジャック。トレーラーの周囲で話す男達の声も聞こえる。『暗闇に押し込み連れまわせば、後はブルって
マギーの口調が凶暴化してきた。
「よし、僕たちも戦闘態勢だ。幸い倉庫の旧式シャッターが閉じた音も聞こえない。もう助手席の窓は閉めて。シートベルトを確認して。衝撃に備えて。やるよマギー!」
ジャックが勇ましく
「了解。貴方の強い意思は世界中に伝わったわ!」
マギーはジャックの首元に一瞬強く抱き着くと即座にからだを離し、助手席ドア上部に設置されたアシストグリップにしがみついた。