第21話 バミューダ(Bermuda) 秘密の地下施設
文字数 3,261文字
アトランティック オーシャン バミューダ
Atlantic 0cean Bermuda
秘密の地下施設
地底の空間は、ひんやりとした冷たい空気に満たされていた。
暗闇の底に到達したイザベルは、燃え盛る薪 を手に持ち、地底の空間をどんどんと歩いてゆく。先々、岩道の脇に備えられた燭台 に火を灯 しながらの道程である。
一から順番に火を灯し、十二番目の燭台に火を灯すと、次の燭台には火を灯さずに十四番目の燭台に火を灯す。すると地鳴りのような音と共に突き当りの岩肌が裂け、整備された通路が現れる。そのような、からくりになっていた。
イザベルは、手に持つ薪を洞窟内に投げ捨てると、整備された通路へと入っていった。
通路の先には巨大で近代的な施設が建造されている。その中で、肉体を持つ魔族が忙しそうに作業を進めていた。
「順調だね!?」
イザベルが歩く床面 の左右にはアクリル製円柱機器が立ち並ぶ。高さ3m、直径1.8m、機器の土台には精密な計器類が所狭しと嵌め込まれていた。
それがこの施設には80台設置されていた。
「見学に来ている新入りがいるだろう!? 今日、来ている筈だ。連れておいで!」
作業を続ける魔族の男にイザベルが指示を飛ばす。
「居たね。あんたの事はマギーから聞いているよ。本社ビルの一階、インフォメーションデスクに勤めるキャサリンだね。とても気が利く可愛い娘 だって、マギーがたいそう褒 めてた」
ライズ ゴールド ムーン コーポレーション、本社秘書課のキャサリン アレクシス コリンズが、可愛い仕草でイザベルに挨拶をする。
「今日は少し案内をしてやるよ。見所があれば、いずれマギーに着けてもいいね。付いてきな!」
そう言うと、イザベルは施設の中をどんどんと歩いてゆく。
「オーナーに肉体を授 けられる悪魔は、まずは赤子のからだを与えられる。全ての自我 や意識は継続したまま、からだだけが幼くアンバランスだけど… それは周囲には隠しながらね! そこから徐々に肉体を成長させる。しかし、これからは培養 容器の中で成長したクローンの肉体に、そのまま我らの霊と魂が入り込む事が出来るようになる。凄い事だろう? キャサリン」
「はい。イザベル会長」
キャサリンは素直に頷 く。
「それだけ我らの科学技術が進歩したのさ。だけど油断 は出来ないよ。いつ何時 天使がそこに人間の生まれ変わりの霊と魂を運んでくるかもしれないからね。勿論、地下施設には天使など入り込めないように、幾重 にも結界は張り巡らせてはいる。けれどね油断は禁物 さ。最近は人間もクローンの人間を造っているよ。そのからだにも天使は人間の魂と霊を運んでくる。あいつらは自然のものにも人工的なものにも区別なく霊と魂を運び続けている。地球に生れ出たい霊と魂は霊界で首を長くして順番を待って居るからね。それも解るよ」
キャサリンは、姿勢、表情、仕草の全てに気を配 って、イザベルの話を傾聴 している。
「だけど我等のクローンは魔族のみが憑依できる唯一貴重な肉体だ。1体だって掠 め取られてなるものか!!」
イザベルは剥 きになって話した。
「さあここまでだ。ここから先は選ばれた者しか入れない。あんた、これからも励 みなよ!」
キャサリンに別れを告げると、イザベルは登録者専用のエスカレータに乗り込んで行った。
イザベルを乗せたエスカレータが着いた先には、広々とした敷地に建つ邸宅があった。頭上には空のかわりに高くそびえる岩肌があるだけで、照明が照らす周囲の庭園の景色は、地上の風景と比べても何ら遜色 のないものであった。
そして邸宅の隣には、医療施設が建造されていた。
医療施設の内部に入ると、その中央には麻酔機器 を装備した電動油圧式 の手術台、分娩用 の手術台が並ぶように設置されていた。その隣には3台の保育器が置かれ、周囲のキャビネットにはあらゆる医療に必要な材料 が整 えられている。緊急用医薬品を詰めたカートの上には、トレイごと滅菌 パックに入れられた手術器材 が置かれていた。
施設のロビーには、2台並べ置かれた大きなアクリル製円柱容器がある。容器の前で美しい佇 まいを見せる一人の男が、培養液が入れられた円柱容器を見詰めている。
男はフォーマルなスーツを見事に着こなしていた。
「セラヌ様」
イザベルが男に声を掛ける。
アクリル製円柱容器、培養液の中には、イザベルにセラヌと呼ばれた男自身の裸体 が保管されていた。
「大婆様。この肉体の管理を続けて下さっている事に、深く感謝を申し上げます」
男はアクリル製円柱容器、培養液の中に保管される自身の裸体を見詰めながら話した。
「大丈夫です。セラヌ様のその御からだには、誰にも手出しはさせません。私が信頼の置ける部下に直 に指示をして、厳重 に管理をさせておりますとも」
イザベルが愛情のこもったまなざしをして答えた。
「頼りにしています」
まだ20代前半にしか見えない若い男が大魔女イザベルに謝意 を示す。
目の前の培養容器に収められた裸体の男と、その前に立つ20代前半にしか見えない男は、同じ人物なのだが、その年齢は大きく異なる。
「セラヌ様もご自身のクローンを量産すれば良いのですよ」
大魔女イザベルは魔王セラヌに意見を述べる。
「もう1500年以上にもなりますか… 死の門をくぐることをやめた私は、ひとつの身体を新たに産み替えて、これまで命を繋いできました。それもすべて大婆様のお守りがあってこその事、いずれ自身のクローン化についても考えて行きましょう」
男は確かに1500年もの長き時間を、一つのからだを新たに産みかえて、乗り継いで来ていた。そこには男とイザベルにしか分からない秘密が隠されていた。
「婆も、もう回数も忘れてしまいました。何度、赤子のセラヌ様を御守 させていただいたのか… 大丈夫です。私がセラヌ様を必ずお守り致します。例えこの婆が死に絶えようとも、後には娘のマギーが控えています。マギーは喜んで私の役目を継いでくれることでしょう」
大魔女イザベルはそう話した。
「大婆様。一 つ、お願いがあります」
「何でしょう?」
「私の旧い肉体の隣に眠る、この少年の覚醒 の準備を始めて下さい」
セラヌの瞳は、自身の肉体が保管された容器の隣に、もう一台置かれたアクリル製円柱容器を見詰めている。その中には、ブルーの瞳を持つ少年の裸体が眠るように納められていた。
「高貴な霊と魂が、この少年の肉体に何時でも侵入出来るように…」
男はそれを、イザベルに依頼する。
「はい。仰 る通りに直ぐにでも準備を始めましょう。唯、地上ではまだ… ジャック坊やを我らの陣営に迎え入れる事が、出来てはいないのです」
イザベルは沈痛な面持 ちで話した。
「マギーにはとても可哀想な事をしました…」
セラヌがつぶやく。
「セラヌ様。言わずとも既に、全てを悟 っておられましたか!?」
イザベルがセラヌに話す。
「大婆様」
セラヌはイザベルに悲しそうな表情を見せる。
「いいのですよ。娘の気持ちなど気になさらないでください。娘にはセラヌ様の御蔭でどんなに幸せな時間が与えられている事か」
「いいえ大婆様。私は、何よりも大切なマギーの心を傷つけてしまいました。それをお許しください」
セラヌの瞳より涙が零 れ頬を伝い落ちた。
「残念ながら娘はジャック坊やの心をつかみ損 ねた。ただ、セラヌ様が流した涙の意味を知れば、娘がそれをどれだけ喜ぶ事か… セラヌ様、何時かあの娘 に、あの娘の本当の姿を与えてあげてください。誰よりも美しい、あの娘の本当の姿をこの婆の目に再び見せて下さいませ…」
そう言って笑うイザベルの頬にも涙が伝った。
「大婆様。私はこれからイギリスに向かいます。ジャックを我らの世界に迎える為の、最後の使者を呼びに行って参ります。そしてお約束いたします。我らの悲願が叶 った先に、魔族、デーモン、ルシフェル様の郎党が本来の姿を取り戻せることを… それを必ずや、やり遂 げてみせると」
魔王セラヌはイザベルの瞳をしっかりと見詰め、話した。
Atlantic 0cean Bermuda
秘密の地下施設
地底の空間は、ひんやりとした冷たい空気に満たされていた。
暗闇の底に到達したイザベルは、燃え盛る
一から順番に火を灯し、十二番目の燭台に火を灯すと、次の燭台には火を灯さずに十四番目の燭台に火を灯す。すると地鳴りのような音と共に突き当りの岩肌が裂け、整備された通路が現れる。そのような、からくりになっていた。
イザベルは、手に持つ薪を洞窟内に投げ捨てると、整備された通路へと入っていった。
通路の先には巨大で近代的な施設が建造されている。その中で、肉体を持つ魔族が忙しそうに作業を進めていた。
「順調だね!?」
イザベルが歩く
それがこの施設には80台設置されていた。
「見学に来ている新入りがいるだろう!? 今日、来ている筈だ。連れておいで!」
作業を続ける魔族の男にイザベルが指示を飛ばす。
「居たね。あんたの事はマギーから聞いているよ。本社ビルの一階、インフォメーションデスクに勤めるキャサリンだね。とても気が利く可愛い
ライズ ゴールド ムーン コーポレーション、本社秘書課のキャサリン アレクシス コリンズが、可愛い仕草でイザベルに挨拶をする。
「今日は少し案内をしてやるよ。見所があれば、いずれマギーに着けてもいいね。付いてきな!」
そう言うと、イザベルは施設の中をどんどんと歩いてゆく。
「オーナーに肉体を
「はい。イザベル会長」
キャサリンは素直に
「それだけ我らの科学技術が進歩したのさ。だけど
キャサリンは、姿勢、表情、仕草の全てに気を
「だけど我等のクローンは魔族のみが憑依できる唯一貴重な肉体だ。1体だって
イザベルは
「さあここまでだ。ここから先は選ばれた者しか入れない。あんた、これからも
キャサリンに別れを告げると、イザベルは登録者専用のエスカレータに乗り込んで行った。
イザベルを乗せたエスカレータが着いた先には、広々とした敷地に建つ邸宅があった。頭上には空のかわりに高くそびえる岩肌があるだけで、照明が照らす周囲の庭園の景色は、地上の風景と比べても何ら
そして邸宅の隣には、医療施設が建造されていた。
医療施設の内部に入ると、その中央には
施設のロビーには、2台並べ置かれた大きなアクリル製円柱容器がある。容器の前で美しい
男はフォーマルなスーツを見事に着こなしていた。
「セラヌ様」
イザベルが男に声を掛ける。
アクリル製円柱容器、培養液の中には、イザベルにセラヌと呼ばれた男自身の
「大婆様。この肉体の管理を続けて下さっている事に、深く感謝を申し上げます」
男はアクリル製円柱容器、培養液の中に保管される自身の裸体を見詰めながら話した。
「大丈夫です。セラヌ様のその御からだには、誰にも手出しはさせません。私が信頼の置ける部下に
イザベルが愛情のこもったまなざしをして答えた。
「頼りにしています」
まだ20代前半にしか見えない若い男が大魔女イザベルに
目の前の培養容器に収められた裸体の男と、その前に立つ20代前半にしか見えない男は、同じ人物なのだが、その年齢は大きく異なる。
「セラヌ様もご自身のクローンを量産すれば良いのですよ」
大魔女イザベルは魔王セラヌに意見を述べる。
「もう1500年以上にもなりますか… 死の門をくぐることをやめた私は、ひとつの身体を新たに産み替えて、これまで命を繋いできました。それもすべて大婆様のお守りがあってこその事、いずれ自身のクローン化についても考えて行きましょう」
男は確かに1500年もの長き時間を、一つのからだを新たに産みかえて、乗り継いで来ていた。そこには男とイザベルにしか分からない秘密が隠されていた。
「婆も、もう回数も忘れてしまいました。何度、赤子のセラヌ様を
大魔女イザベルはそう話した。
「大婆様。
「何でしょう?」
「私の旧い肉体の隣に眠る、この少年の
セラヌの瞳は、自身の肉体が保管された容器の隣に、もう一台置かれたアクリル製円柱容器を見詰めている。その中には、ブルーの瞳を持つ少年の裸体が眠るように納められていた。
「高貴な霊と魂が、この少年の肉体に何時でも侵入出来るように…」
男はそれを、イザベルに依頼する。
「はい。
イザベルは沈痛な
「マギーにはとても可哀想な事をしました…」
セラヌがつぶやく。
「セラヌ様。言わずとも既に、全てを
イザベルがセラヌに話す。
「大婆様」
セラヌはイザベルに悲しそうな表情を見せる。
「いいのですよ。娘の気持ちなど気になさらないでください。娘にはセラヌ様の御蔭でどんなに幸せな時間が与えられている事か」
「いいえ大婆様。私は、何よりも大切なマギーの心を傷つけてしまいました。それをお許しください」
セラヌの瞳より涙が
「残念ながら娘はジャック坊やの心をつかみ
そう言って笑うイザベルの頬にも涙が伝った。
「大婆様。私はこれからイギリスに向かいます。ジャックを我らの世界に迎える為の、最後の使者を呼びに行って参ります。そしてお約束いたします。我らの悲願が
魔王セラヌはイザベルの瞳をしっかりと見詰め、話した。