第112話 黒いクネクネ

文字数 692文字

 クネクネいうの知ってますか? そうです。田圃(たんぼ)(あぜ)にいるなんや白いのがくねくね動いてて、見たら発狂してしまういうあの都市伝説のやつです。
 都市伝説いうのは若い子が怖がって楽しむやつや思いますけど、わしみたいな年寄りでも、結構面白がらせてもろてますわ。
 ほいで、そのクネクネやけど、わしこの間、夜中に散歩してしまいまして、細い川――まあ田圃の用水路いうほうが()うてる思いますけど、薄暗い街灯の明りに浮かぶその縁にえらいくねくねと動いてるもん見たんですわ。
 ま、こんな年寄りになったら、怖い思うより先に、危ないことも考えやんと見に行ってしまうんやろね。
 実際、セイタカアワダチソウ言うんですか? それがその辺に生えてまして、その枯れた長い茎がふらふら風に揺れてるんもよう見るもんですから、まあそれやろ思いながら――風にしたらえらいくねくねしてるなぁとも思たんですけど――近寄って見たんですわ。
 いつも家族には、夜に家出ていったらあかん、水路のほうへ行ったらあかんって、口すっぱぁなるくらい言われてんのに、なんでかつい行ってしもて――年寄りの悪いとこですわ。
 で、見たらそれ、セイタカアワダチソウやなかったんです。ほな何か言われても、わからへん。
 くねくねしてるけども、わしの聞いたクネクネでもない。白い色やのうて真っ黒やったさけね――
 うーん。そやけどやっぱりそれもクネクネやったんかな思いますわ。
 なんでか? 理由ですか? まあ、わし見てもろたらわかるかなぁ――
 白やのうて黒いやつやったで、(さわ)りも反対なんやろねぇ。
 今は、お祖父ちゃん元に戻った言うて、息子も嫁も孫も喜んでくれてます。
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