第1話 中古物件

文字数 746文字

 いわくつきの中古物件を手に入れ、住める程度にリフォームし引っ越した。
 不動産屋の担当者も工務店の大工たちや引っ越し業者も物好きなオレを笑っていたが気にしなかった。
 本物の事故物件に住み、心霊現象をずっと配信し続けるという夢がやっとかなうのだ。
 引っ越し早々、各部屋にカメラを仕掛けた。まだ昼間だからか何も映ってはいない。明るい日の下でも何か現象が起きるなら嬉しいのだが、やはりそうはいかないか。
 夜は元凶といわれる部屋に布団を敷いて寝た。
 深夜二時まで胸を躍らせ起きていたが、昼間と同様、何事もなく、その後も「何かの気配に起こされた!」ということもなく朝までぐっすり眠った。
 がっかりしながらも引っ越し疲れで気付かなかっただけかもしれないとビデオをチェックしたが、布団を敷いた部屋はもとより各部屋のどれにも何も映っていなかった。
 ま、初日だからなと気持ちを切り替え、二日目も三日目もあきらめずにビデオカメラを回し続け、徹夜もしてみたが期待したことは何一つ起こらない。
 その後も何も起こらず、ネットに配信もできなかったが、引っ越しして二か月、奇異の目で見ていたご近所とも挨拶を交わす仲になり、オレはごく普通のただの住人になっていた。
 クレームをつけてやろうと不動産屋に電話をかけた。
 呼び出し音が鳴っている最中、心霊現象が出るならまだしも、出ないと文句垂れるのはおかしいよなと思い直し、本来の価格より家を安く手に入れられたのだからこれはこれでいいじゃないかと、何も起きない事だけ報告することに決めた。
 だが電話に出た受付嬢は、オレを担当した社員はじめ大工や引っ越し業者など、この家に入った関係者全員が既に亡くなっていることを伝え、オレが生きていることにひどく驚いていた。
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