第4話 俺が死んだ理由

文字数 917文字

 理由?
 そんなもん知るか。
 もしそんなものあるんだとしたら、こんな世界にしたお偉いさんたちが悪いってことじゃねえか?
 人類への警告ってもんが何度もあったろうが。
 オレみたいな頭の悪いやつでもこうなるってわかってたさ。
 たくさんの人間が犠牲になったよ。
 なのに、各国のお偉いさんたちは自分たちの保身ばかりでなーんも対策しなかった。大事になるまで隠ぺいしてたしな。
 その上、食料も水も何もかも準備された安全な場所へ自分らだけ避難しやがった。
 頭に来たのはオレたち庶民が逃げまどい、襲われていく様を防犯カメラで見ていたことだ。
 皆でワインでも飲みながら楽しく観賞してたんじゃねえの? 
 ふん、国民は虫けら以下っつーことさ。
 さらに最悪なのがオレ。こんな凶悪な顔してるだろ? そこへ血や泥にまみれてたもんだから――
 こんな顔でもオレは優しくて勇敢なんだ。逃げながら何人もの老若男女を助けていった。
 政府が見殺しにしようとした人々をな。
 ふっ、やっぱ容姿っつーのは大事ってことだよ。
 オレはまだ生きてたんだ。
 だがな、刑務所の塀の中に逃げ延びたやつらは遅れていったオレをゾンビだと言って入れてくれなかった――
 あの中には助けてやったやつもいたのに――
 オレ? もちろんその後、本物のゾンビにやられちまったよ。
 ああ。恨んじゃいねえ。仕方ねえよ。もし同じ立場だったらオレもそうする。
 だけどそんなことはどうでもいいんだ。塀の中のやつらも結局全員ゾンビになっちまったし、もうこの世界は生きてる死人だけで成り立ってんだよ。
 本当に生きているのは安全な場所に避難した一握りの人間だけ。あんなとこに閉じこもっていたって、いつか食料も水も尽きちまうっていうのにな。
 ふふ、そのいつかはもうすぐだ。
 なのにあいつらこの世界を恐れてあそこから出て来れねえんだぜ。気が小せえよな。
 あとは餓死を待つだけ――いや、もしかしてお互いを喰らいあうかもしれねえな。ゾンビでもねえのに。
 それでも最後の一人はやがて死ぬんだ――
 オレたちは死んだけど生きている。
 あいつらはただただ死ぬだけ。
 はっ、愉快じゃないか。
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