第9話 映画と同じ

文字数 879文字

 ニュースで見た。
 大きな雹が降ってきた場面。
 テニスボール大の雹がびゅんびゅん降ってきて、家や車に穴をあけた。
 幸い人に被害はなかったけれど、以前観た地球の異変を描いた映画と同じだと思った。
 ニュースで見た。
 今までに見たことない大型台風が甚大な被害をもたらした場面。
 木や電柱がなぎ倒され、たくさんの家が倒壊し、何人か死者が出た。
 以前観た自然災害パニック映画と同じだと思った。
 ニュースで見た。
 大地震が起こり、言葉にできない被害をもたらした場面。
 たくさんの死者、行方不明者が出た。自分の住む地域には影響はなかったけれど、テレビを見てただ涙を流すしかなかった。
 以前観た映画と同じだと思ったが、これは映画ではない。
 ニュースで見た。
 竜巻に吹き飛ばされる車や建物。電線が引きちぎれ、灰色の渦に青い火花を散らす。
 ニュースで見た。
 ゲリラ豪雨。突然、恐ろしい量の雨が町に降る。
 道が泥川になり、茶色い濁流が文明を飲み込む。
 山が崩れ、土砂が家とそこに住む人々を飲み込む。
 これらも映画の一場面ではない。
 ニュースで見るいろいろな災害。
 数か月おきが、数週間おきになり、やがて数日おきになってくる。
 地球の危機を描いた映画と同じ異変の前触れが現実にやって来ているのだ。
 ノイズの走るテレビでニュースを見た。
 死んだ人間が死んだまま生き返り、人々を襲う場面。
 何かの研究施設がある一地方から始まったこの事件はだんだん地域を拡大していた。
 子供の頃、一緒にゾンビ映画を観た気の弱い弟は、もしこんなことが現実に起こったら喰われる前に自殺すると怖がっていた。
 こんなの映画じゃんと笑った自分に、「現実に起こるかもしれないだろっ」と憤った弟は先日、子供の頃の宣言通り自ら死を選んだ。
 自分は武器を手にゾンビと戦いながら、辛うじて日々を生きている。 
 せまりくる大災害とゾンビ。
 行きつく先は人類の滅亡、地球の最後。
 以前観た映画の主人公のような毎日。
 だが、これは映画ではない。
 目の前にある現実だ。
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