幻影の翅 (つばさ)
大好きだった母が、心理カウンセラーとして関わり合う人の心に寄り添う葛藤のなかで
自らが心身を病み、不測の最期を迎える結果となった。母と同じ職業の父を持つ 佐野 成未 は母の死から十年以上を経ても、人が人であるが故に抱える「心」に対する漠然とした絶望感を拭えぬまま日々を暮らしていた。春の訪れとともに、成未と周囲の人々は突然、日常とはかけ離れた奇異な事柄に相対する事となる。発端は、記憶の全てを喪った名前を持たない男の出現であった。彼が身に付けていたジーンズのポケットに、たった一つの手掛かりが遺されていた。それはハガキの半分ほどの小さな、色褪せた古い挿絵の切れはしであったー
目次
完結 全22話
2021年08月28日 14:27 更新
- 第1話 アインザッツ・ゲーベン2021年08月28日
- 第2話 開放弦2021年08月28日
- 第3話 連祷(れんとう)2021年08月28日
- 第4話 ファンタジア2021年08月28日
- 第5話 極 夜2021年08月28日
- 第6話 キリエ・エレイソン2021年08月28日
- 第7話 平行調2021年02月17日
- 第8話 カルミナ・ブラーナ2020年10月01日
- 第9話 ネィ・セカンド・スプリング・アゲィン2020年10月19日
- 第10話 愛 別2020年12月24日
- 第11話 狂瀾(きょうらん)2020年11月14日
- 第12話 paradoxa2020年12月01日
- 第13話 カルィビエーリナヤ(子守唄)2020年11月30日
- 第14話 『ラ・カンパネラ』2020年12月29日
- 第15話 哀 傷2021年03月01日
- 第16話 『 Parlez moi d’amour 』2021年01月12日
- 第17話 『小雨降る径』2021年02月02日
- 第18話 零露の文(あや)2021年03月20日
- 第19話 夜間飛行2021年04月23日
- 第20話 reflexion2021年03月11日
- 第21話 『恋ひ恋ひて』2021年05月17日
- 第22話 『魂の行方』2021年04月16日
登場人物
水樹 史也( みずき ふみや)
広告制作会社勤務のイラストレーター。26才。心療内科カウンセラー 佐野 悠介との出逢いがきっかけとなり、かつて深刻であった精神状態から快方へ導かれて以来、悠介へ深い信頼を寄せている。
並外れて繊細な神経に恵まれた一方で、一般的な常識にとらわれない大胆な行動力をも兼ね備えている。
佐野家隣家の牡猫コタロウ( 水樹は一方的にヴァンプと呼ぶ )は親友である。
コタロウ
佐野親娘が暮らすマンションの隣人・黒田さんが飼っている去勢済の牡猫。
遠出はしないが、何故か佐野家へだけはベランダを器用に伝って頻繁に訪ねて来る。穏やかで人なつこい性格で、ツンデレのツン要素はあまり持ち併せていないらしい。
大柄な水樹 史也が繰り広げるスキンシップを実のところは迷惑に感じている、かどうかは不明である。
佐野 成未( さの なるみ )
大手通信販売会社に勤務する27才。きょうだいは無く、臨床心理士の父・悠介と二人暮らし。
十代で母を亡くしたせいもあってか、日常の生活者として揺るぎのない堅実さを備えたしっかり者である。
職場の同僚で後輩にあたる 中村 宏太 に異性として好意を感じているが、適当な距離から見守っていたいとひそかに願っている。
亡くなった母の実姉で、関西在住の叔母・川瀬 愛子 の無敵な明るさも好き。
佐野 悠介( さの ゆうすけ )
臨床心理士を務める成未の父親。ある意味、純粋な少年時代のひたむきな向学心を持ち続けている。生来の気質としては朗らかで、性善説を信念とする。豪放と呼んでも可いマイペースと他人の反応をあまり意に介さない爽やかさが、弱点でもあり強みでもある。早世した妻の美穂をこよなく愛し、誰よりも傷みを背負っているが、忘れ形見の成未にも敢えて語った事はない。彼の血の通い合った心療の姿勢が、苦しむ者の拠り所となる。
中村 宏太( なかむら こうた )
成未の後輩にあたる同僚の青年。人間関係に於ける周旋などに、ややもすれば誤解を招くほど不器用な誠実さと真面目さが長所とも謂える。その一本気さゆえ逆境に弱そうに見られがちであるが、外見とは裏腹の不屈な意志の勁さを秘めてもいる。誰にも明かさないが、片親の家庭に育ち自身の努力によって現職を掴んだ不遇な経歴こそが、未来を生きる糧となるという誇りと信念を強く抱く。
その一方、他人知れず成未に対する深い愛情を日々確かめてもいる。
記憶を持たない謎の男
事故なのか、傷害の被害者であるのか、瀕死の重傷を負って忽然と現れ、救急病院へ収容される。
怪我の後遺症によるものなのか、彼の「記憶」には深刻な混沌が生じていた。
唯一の所持品である色褪せた挿絵らしい紙の切れ端と、彼の脳内から無作為に出現するワードを手掛かりに、悠介と里中は心療にあたろうとする。
ところが正体不明者が次々と現れ、彼の身辺はしだいに不条理な危険に晒されてゆく。並外れた体力と身体能力を備えている事実に関しては、疑う余地がない。
里中 睦( さとなか あつし )
悠介の同窓生で個人の臨床心理クリニックを経営する。佐野家とは美穂の在名中より親しい交流を持ち続けている。学生時代に培われた純粋な理念と悠介との信頼関係を自身の宝としており、悠介に臨床治療の片腕を託してもいる。成未にとっては、心の内を明かせる大切な存在である。
明朗な印象で独特の愛嬌の豊かさが魅力だが、外見とは裏腹のこまやかで緻密な神経を持ち合わせている。
澤村 泰弘( さわむら やすひろ )
悠介らの母校に附属する大学病院の心療内科で治療にあたる若手医師。緻密な頭脳と臨床医師としての適性から、周囲に将来を嘱望されている。公にはされていないが、不幸な幼年期に他家へ養子に迎えられた生い立ちを持つ。
心療を目指したきっかけは自らが幼い頃に負い、癒えることのない心の傷痕にある。少年時代に奏法を学んだヴァイオリンを愛し、多忙な中に於いても一人奏でて過ごす時間を大切にしている。
津久井 慎司( つくい しんじ )
佐野親娘が居住する地域を所轄する警察の刑事で巡査長。謎の男の身元や負傷した経緯などが究明されないままの現状に違和感が拭えず、真相を突きとめようとする。微塵な情報を見逃さない、物的な手掛かりに基づく公正な分析を規範とすべく自らを律する一方、現場の人間に対する直感的な印象や気付きにも重きを置く。真摯な責任感と誇りが、職務に取り組む信条である。学生時代より精進している空手道の段位は黒帯で三段。
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小説情報
幻影の翅 (つばさ)
- 執筆状況
- 完結
- エピソード
- 22話
- 種類
- 一般小説
- ジャンル
- 現代ドラマ・社会派
- タグ
- パラダイム, 手掛かり, 運命, 妄想, 喪失, 心理, つながり, 愛
- 総文字数
- 288,904文字
- 公開日
- 2020年07月07日 17:03
- 最終更新日
- 2021年08月28日 14:27
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