第29話 ハーレム・ナイト・オブ・ファイヤー 汝の光によって我等は光を見る

文字数 8,277文字



二〇二五年四月三十日 水曜日

 軍用バイクのサイドバッグの中から、マクファーレンは拳銃五丁と大量の銃弾を取り出した。
「オマエ……」
 元刑事のエイジャックスはあきれる。マックが四人に武器を提供し、全員で銃を持つ。これで全員、犯罪者だ。
 ふと、ハリエットは光十字ペンダントをじっと見た。黄金色に輝き始めていた。
「近づいてくる! 何かが……」
 その直後、アベニューに何十台という大きなバイク音が響いた。
 車内照明を落として様子をうかがうと、目の前を白バイクがドロドロドロ……と通り過ぎていった。
「マズい……白服だ。妙だな、何でこんなに夜中に騒音立ててやがる?」
「逆カウンターシューティングってヤツ? 恣意行為かな」
「とにかくすぐ出てくる白装束集団だ。どこでも!」
 エイジャックスは頭を下げた。
「先回りされた、スクランブル・アタックだ!」
「スクランブル?」
「スクランブラーだ。要するに戦闘機のスクランブル発進だよ。人間ステルス戦闘鬼だ」
 バイクの大部隊はコロンビア大学の中へ、次々と吸い込まれていった。

コロンビア大学理工学部 ニューブライト研究所

 午後十一時を回ったころ、アイスター・ニューブライトは、中華デリバリー「香龍閣」のチャーハンと点心を食べながら、エナジードリンク「ブースター」を飲み、作業デスク上に置かれた小型の円筒形のマシンをいじっている。ヨレた白衣の黒人青年は、徹夜予定で実験をしていた。この時間まで大学に残っているのはほとんど彼と警備員だけだった。学生や教授陣たちはいない。
 コロンビア大は学生数三万、主に理工系に強く、一九三九年には初のウラニウム原子核分裂実験に成功。レーザー、MRIなどが開発され、ノーベル受賞者も三十五名を数えた。その舞台となったピューピンホールには、物理学科と天文学科があった。由緒ある建物に隣接する場所に、アイスターの研究所はあった。
 マンハッタンホーン内の資料を持ち、ハッカー「モナ・リザ」からの連絡で警告を受けたが、アイスター・ニューブライトは、資料をNYの【レジスタンス】に渡すつもりで準備していた。
 表向きは新エンジン開発の名目だが、その研究予算をつぎ込んでアイスター・ニューブライトは、フリーエネルギー装置を作り、完成させていた。
 なぜアイスターは危険なマンハッタンに残る決断をしたか。ここにしかない設備を使うために、コロンビア大学に居る必要があったのだ。

終わりなき「苺白書」

 無数のバイク音が鳴り響き、その後、バタバタバタ……と大勢の革靴の音が階段を走る音が館内に鳴り響いた。
 外に人影が見えた、そう思ったのもつかの間、スクランブラー隊長のアーガイル・ハイスミスを先頭に、部屋に白服の男たちがドドドッとなだれ込んで来た。どうやってここの警報機を鳴らさずに入ってこれたのか疑問に思いつつ、アイスターは相手が何者かすぐ気づいて、無言で両手を上げた。スワお終いかと観念して。
「アイスター・ニューブライトだな」
「どちらさまで?」
 不気味な白服たちの後ろに、ハンター署長をはじめとするNYPDのコップたちが控えめに集まっていた。
「すまんが今、研究の取り込み中でね。それとも宅配? ウーバーイーツならもう届いたけど」
「政府関係のモノだ」
「名前を言ってくれないか、お宅は?」
「俺はアーガイル・ニューパワー」
「レナード・ニュークリアだ」
「ふざけてるんなら帰ってくれ」
「ロートリックス本社マンハッタンホーンより、研究資料の持ち出しの告発があった」
「へぇ……物騒な世の中ですね」
「ここにあるんだろ? 我々は、何も今すぐ君をどうこうしようって訳じゃない。ただこちらに渡すか、渡さないか。それで運命は決まる。キミシダイだ」
「ちょっと何言ってるのか分からない」
「つまり青信号を渡るか、赤信号を渡るか」
「青か赤かか……。あ、つまり拘留中に出るパンのジャムがブルーベリーかストロベリーどっちがいいかって、今聞くの? 確かに甘味はムショで貴重で無視できないけど――捕まったら統計取って調べてみたいね」
「で、結局どっちなんだ?」
「俺は……ダブルベリーのどっちも好きでね。どっちかなんて選べない。一種類だけじゃ、栄養バランスが偏る。料理ってのは多様性が大事なんだよ。you know? ブルーベリーはビタミンE、食物繊維、アントシアニンがあるスーパーフードで、目の健康にいい。ストロベリー、ラズベリー(キイチゴ)はビタミンC、クランベリー(コケモモ)もビタミンCでお肌つるつる。かつて学生運動の時に、うちの学長がこう言ったらしいんだ。学生の意見なんて奴らがいちごが好きか嫌いか、その程度の次元でしかないだなんて! それで世間で炎上騒ぎさ。口は禍の元とは彼のこと。失礼な男だよな全く、ハハハ……! ……ハハ……ハ……」
「『いちご白書』か。お前はどうする?」
 警官隊に突入された学生運動家よろしく、眉間に銃を突きつけられて、
「あ~~~……、さっきから何のことだかさっぱり」
 アイスターはとぼけた。
「ならばアイスター・ニューブライト、お前を逮捕する」
 NYPD任せにするのではなく、白服の殺し屋は自らマンハッタンホーンから出向いてきた。これまでの失態を挽回するべく、アーガイル隊長が直々に現行犯逮捕に動いたのである。
「その前に資料を……研究所を家宅捜査する」
 アイスターは倉庫の一室に軟禁された。白服に率いられたNYPDたちは資料をあさり……いや、盛大に研究所内を荒らし始めた。

     *

「マズい、先を越されたぞ!」
 のんびりしている訳でもなかったが、マックと鉢合わせしてお互いに敵だと思って戦っている隙に、当の研究員アイスター・ニューブライトが、白服共に指揮されたNYPDに取り囲まれ、捕まった。ただその結果、かをると再会できたのだ。――やむをえない。
「NYPDを操っている!」
 エイジャックスはかつて自分が所属していた組織が、いつものテロ狩りを行っている様を見つめていた。
「ヤレヤレ……一足遅かったか」
「研究所を占拠されたな! あのスピード出撃こそが奴らの特徴だ」
 マックは銃を構えながら言った。
「お前も知ってんのか?」
 エイジャックスはまじまじとマックを観た。
「警察にも軍にも所属していない、噂の影の特殊部隊だ。ロック市長を暗殺犯した殺し屋。俺たち軍の間でも噂になっている。凄腕の集団としてな。暗殺はスナイパー以外にも、毒殺・事故死――と、総合暗殺部隊だ」
 マクファーレンは静かに説明する。
「クロード記者も、奴らに消されたわ……」
 エスメラルダが言った。
「ヤツらは……あたしを追ってきた。MIBとNYPDじゃあたしを倒せないと分かったから、本隊が動いたのよ!」
 ヴィッキー・スーが告白する。
「ど、どーいうコト?」
 エスメラルダは当惑気味に、華奢なヴィッキーを観た。ヴィッキーは特殊部隊を全員のしたのだと、簡潔に答えた。
「…………」
 誰もが半信半疑だったが、ヴィッキーはあくまでまじめな顔だった。
「そんな! 確かに撃ち殺したぞ。防弾か?」
 白服の中に、地下鉄戦で死んだはずのレナードが参加していた。
「不死身か?」
「なんだアイツ! 回復魔法でも使ったの?」
 エスメラルダはゾッとして顔を背ける。
「いや、違う。スクランブラーは一発二発じゃ倒れん。少なくとも五発は必要だ」
 マクファーレンはとんでもないことを言い出したが、それはエスメラルダとエイジャックスが必死で銃撃したにも関わらず、追われた経験で分かっていた。
「撃っても死なねェ? って人間か?」
「二十四時間で大抵の傷は治ってしまう。強化兵(スーパーソルジャー)はそう簡単には死なないんだ。完全に殺すには頭部を切断するくらいしかない」
「どうやら今は、彼を殺すつもりはないらしいようね」
 ハリエットが大学の様子をうかがっていると、敵の動きは慎重だった。
「何かを探している……すべてを奪い去ろうというんだ。ヤツらもうかつに研究所を攻撃できない、爆破なんか起こしたら研究資料がフッ飛ぶ」
「我々が襲撃すれば、一網打尽にされる。最初からそれを計算に入れている」
「彼をマンハッタンホーンに護送されたらおしまいよ! 二度と戻って来れない」
 ハリエットは呟く。現状、こちらの“戦力”では、マンハッタンホーンへ直接侵入して戦うことは不可能に近い。かをるを救出できたのは、本当に奇蹟だった。
「困ったわ、大学のネット回線を切られた。今、研究所はあらゆる外部との通信が、一切ダメになってる」
 スーはスマホのハッキング画面を眺めてグチッた。
「ハッカー<モナ・リザ>の動きを警戒しているのねェ……」
 エスメラルダは大学の夜景を見回した。
「相手は人間ステルス戦闘機だぞ。で、どうやって戦う?」
 マクファーレンも慎重になっていた。
「任せてくれない」
 ハリエットは光十字を使って祈った。四人はポカンとして見守った。しばらくして、ハリエットは白鳩を呼び寄せた。
「――鳩?」
「その鳩は?」
「父よ。父の魂が……鳩で私に道を示してくれる」
「ううう……うわ~ん!!」
 エスメラルダの涙腺が崩壊した。
「あっロッキーね?」
 かをるの表情がパッと明るくなった。
「本当にうまくいくのカナ。こんなので」
 スーは、その足管にUSBメモリをつけた。秘密通信に使用するためだ。
「伝書鳩? いや無理だ、帰巣本能の訓練もなしに」
 エイジャックスは呆れていった。
「伝書鳩として使うけど……、仕組みは少し違うの、ロッキーが私の眼になるんだ」
 ハリエットの両手からは解き放たれたロッキーは、夜空へ向かって飛んでいった。鳩と磁気には関係があるというが、ハリエットの言葉は謎めいている。
 ハリエットは光十字を両手に握りしめて、目を瞑った。光十字に念を込めて、鳩の意識を乗っ取ると、眼を借りた。
「生物ドローン?」
「鳩ビューイングよ」
 一同は半信半疑ながら、ハリエットの様子を見守った。ただし、かをる以外は。

     *

 アイスターは、窓辺で所在なく外を眺めている。何度もあくびが出てしまう。コンコンと、白鳩が窓ガラスをつつく。鳩は平和の象徴……いや、妙だ。
「?」
 足に何かがついていた。アイスターは左右をキョロキョロと見回して、窓を上にスライドさせると、下部を少し開けた。足についていたのは、USBメモリだ。中に、秘密通信アプリが入っていた。
 アイスターは急造の秘密回線でスーと連絡した。
(必ず助ける。だから抵抗しないで。今動けば殺されるから)
(――あんた誰!? おいおい、俺は殺しのウーバーなんかポチってないぜ!?)
 アイスターは声を潜めた。
(向こうはポチッたと勘違いしてるぞ)
(キャンセルする!)
 ドン、と何かの爆発音が響いた。まさか研究所で、奴らが何か触ったのか?
(キャンセルもお断りだってよ!)
「ンな理不尽な!」
 助けてくれるのはありがたい。だが……、
(一足遅かったぜ!)
(今からそちらに……)
(だからどうやって!)
 アイスターは身をかがめ、声を潜めて抗議する。
(今ならいける。……そこから少しでも移動できない?)
(俺はスクランブラーに捕まってるんだ!! ここ四階だし――スパイダーマンならともかく、窓から降りるなんて無理だよ!)

     *

 連絡したが手も足も出ない。発明品は奪われ、アイスター・ニューブライトはマンハッタンホーンへ連行される。もう二度と娑婆には戻れない。
 八極拳の使い手、ヴィッキー・スーならワンチャン助け出せるかもしれない。でも白服と鉢合わせれば、スーでもNYPD特殊部隊相手のようにはいかない。
(そうだな――、この階にも一応裏口がある。けど見張りが多すぎて無理だヨ!)
 館内を、白鳩ロッキーが“忍”のように飛んでいく。やがて手すりに停まった。
(大丈夫、今は居ない。そこから行けば抜けられる!)
 ハリエットは力説した。
(そっから分かるのか?)
 アイスターは、ただの伝書鳩じゃないと気づいた。
(えぇ――)
 ハリエットの眼が光った。鳩ビューイングを研ぎ澄ます。
(……少しこちらで相談するから待ってて)
 ハリエットは皆の顔を見て、
「やりましょう。一刻を争うわ」
「よし分かった。今度は俺がスナイパーになる。スナイパーは敵だけじゃない」
 マックはライフルを構えた。

     *

(今から荒々しくなる。外から攻撃するから、鳩を追って館内を移動して!)
(鳩が誘導? 感動したよ。実行は到底無理だけど)
 アイスターは不安げな返事を返してから、
(私たちを信じて! そうでなきゃあなたを援けられない!)
(陽動作戦か? 敵さんそんな簡単に騙されてくれるかな)
(凄腕がいるから大丈夫)
(そういうあんた誰なんだよ)
(……ロック・ヴァレリアンの娘)
(ホントか?!)
(信じなさい)
(……分かったよ。信じましょう)

     *

「始めよう」
「OK……!」
 マクファーレンが精密射撃を開始した。それを合図に、NYPDからも一斉射撃を受けた。それも数千発という……まるで稲妻だ。パトカーを盾に特殊部隊や警官隊が撃ってくる。ガラスが床に散乱し、街路樹の葉が宙に飛び散る。スクランブラーも精密射撃を開始した。
 マクファーレン・ラグーン、二十八歳、エイジャックス・ブレイク、三九歳。エイジャックス刑事の方が歳は十以上うえだが、銃器の訓練を積んでいるのはこの二人しかない。
 駐車場の車が大爆発。しかし火力が足りない。こちらがいくら優秀でも、いずれやられてしまう。夜のハーレムは赤い炎に包まれた。
「私も戦うわ! 運動神経はある方なのよ、中学(ミドルスクール)時代から乗馬とフェンシングとフィッシングを――」
 ハティも銃を構えた。
「射撃は?」
 さっきの腕前では心もとない。
「いいえ。でもこんなのハーバードのダーツトーナメントに比べたら楽勝よ! とか、言ったりシテ……」
「云うぢゃないか! まぁいい。なら相手が的だと思って撃て!」
 マックから銃の撃ち方を教わり、ハリエットは銃を構えると、引き金を引いた。弾はパトカーのエンジンに当たり、爆発した。警官が避難する姿が見えた。
「……筋がいいな、その調子で撃て!」
 さっきよりも上達していた。ハリエットの根拠なき自信は、先のカーチェイスの際に気づいた自分自身の変化――動体視力と、今まで経験したことのない反射神経で跳弾を避けた体験から始まっていた。
「――ホントに初めてか!? ソレ」
「ええそうだけど……習うより慣れろよ」
 エイジャックス刑事も、ハリエットの自信に満ちた表情とまっすぐな視線に感心している。
「あたしも撃つわ! オンライン対戦ゲームしか経験ないけどね――」
 かをるは銃を取ると、猛然と撃ち始めた。恐ろしくためらいがない。
「安心したよ、君もなかなかのものだ……」
 マックは右舷を二人に任せた。かをるの場合は、本当にシューティングゲームをやり込んだ成果であったことをハティは知っている。
 ハリエットは反乱者たちを守りながら、自身も命を狙われていたが、この勇気がどこから湧いてくるのか、自分でも分からなかった。エイジャックスは、少女たちの勇気に逆に助けられたようだ。どうやらハティはずっと平気な顔をしているらしく、男たちは驚いている。
 NYPDが迫って前線を撤退することにした。エイジャックスもできるだけ警官は撃ちたくなかった。
「ごめんあそばせ……」
 スーは集まってきたNYPDの特殊部隊を、壁を使った三角飛び蹴りで倒したのを皮切りに、バッタバッタと八極拳で倒し始めた。
「――このボケナスがぁッ!!」
 次々と四、五人の男たちが倒れていった。
「君は何でそんなに強いんだ!」
 エイジャックスは不審がる。
「ハッ、ハッカーが強くて悪い?」
 百六十四センチ強しかなく、一番小柄なヴィッキー・スーが、百九十センチで丸々太ったラグビー選手体形の警官を跳ね飛ばしているのだから、二人の男がおっどろくのも無理はなかった。スーの八極拳は、スクランブラー相手に通用するのか、はまだ分からない。ただ、銃を使わない限りにおいては、その可能性があるのでは――と思わせた。
「どっかの組織に所属してたな? どこだ?」
 エイジャックスは撤退しながら尋ねた。
「あたし一応、元CIAだけど」
 スーがそう答えると、駐車場の敵の車両という車両が十数台分、派手に爆発を起こして炎上した。インフラを銃撃し、爆破するマクファーレンの仕業だった。
「待て待て! セントラルパークを爆破したのオマエだろ!」
 エイジャックスは慌てて止めようとした。
「……あぁ」
「ここには、全米屈指の大学の研究施設があるんだぞ! 破壊すんな!」
「ここまで来て警官気取りか? 甘いな。敵は白服なんだ」
 スクランブラーの強化兵ぶりに、エイジャックスやマックのような熟練のプロでさえ手こずっている。だからこそ、マクファーレンはルールや常識なんか気にしてられなかった。が、程度というものがある。
「今後のことも考えろよ! お前のせいで俺たちの正当性が危うくなるだろうが!」
「別に俺だけのせいではない――」
「ほとんどオマエのせいだろ!!」
 エイジャックスの方が正しかった。敵を倒すには武装や設備を破壊すればいいというのは真実だろうが、程度の問題である。

 アイスターは白鳩を追って、前かがみに幾つかの階段と廊下を進み、無事、地下の倉庫へとたどり着いた。カギを開け、フリーエネルギー装置を機動した。電波塔を伝って、夜空に、巨大な赤い火の玉が浮かび上がった。直径数十メートルはあった。テスラコイルが原理のこの装置は、無数の稲妻と赤い光球を生み出していた。NYPDは上空に出現した火球を見上げ、戦闘を一時中断した。
「今だっ」
 アイスターは館の脱出に成功――、外のメンバーと合流を目指して走った。
 エイジャックスたちの援護射撃に加え、研究所から飛び出した異様な赤い光の爆発で、白服たちが一瞬ひるんだところで、アイスターがアタッシュケースを持って出てきた。
「――こっちこっち! 外でもロッキーに誘導させる」
 白鳩を光十字で操ったハリエットは、ロッキーを先導に、戦場と化したコロンビア大のキャンパスで、ロッキーを先々の木の枝から枝へと、さらに街灯に停まらせて、アイスターに安全な脱出ルートを教えていった。
「向かいの倉庫の裏に走って!!」
「いつ?」
「今すぐ!!」
 前傾姿勢のアイスターがアタッシュケースを持って走り込むと、その直後、後ろから来た三人の警官が通り過ぎていった。
「止まって!! そこに隠れるの」
 十秒間そこにうずくまり、さらに進んでいく。
 後ろからの射撃は続いたが、狙いは定まっていなかった。アイスターの居場所はバレていない。ようやく、アイスターはハティのところへ合流した。

 依然として、大学上空に赤い光は輝いている。倉庫が炎にまかれ、崩れ始めた。
「なんてこったッ!!」
 エイジャックスは頭を抱える。刑事としての自責の念に駆られていた。
「汝の光によって我等は光を見る……」
 アイスターがつぶやいた。
「ン?」
 かをるが博士の顔を見た。
「コロンビア大の校訓だよ……」
 メンバーたちは屋上まで逃げると、呆然とした表情で大学を見下ろしている。コロンビア大学の一角が、炎に包まれていた。恐るべき白服たちが相手だったとはいえ、大学に甚大な被害がもたらされたのは確かだった。
「なかなか面白いことをしてくれるね」
 アイスターはボヤいた。
 マックによる爆破を使った大胆不敵な作戦で、包囲を突破することはできたが、この先がますます思いやられる結果になった。
「やれやれ、完全に犯罪者になった。お前のお陰でこっちまでテロ犯だ!!」
 エイジャックスはムッとした顔でマックを観た。
 本当に犯罪まがいのことをするマクファーレン、これじゃ本当にテロリストだ。こんな男が一緒でいいのか?
「ヤツらには恨みがあるんでネ」
 火から離れながら、マックは答えた。
 近所の野次馬たちが集まっていた。消防隊が集まり、鎮火する中、大学とその周辺の街は、静寂を取り戻しつつあった。白服たちは引き上げたらしかった。彼らは追跡を、一時中断した。戦闘が派手になり過ぎて、これ以上隠ぺいできないと判断した白服の隊長が撤退を決めたのだろう。前回の副長レナードに引き続き、派手にやりすぎだ。ま、それでもアイスターを救出できたのは幸いだった。ハリエットが光十字で、ロッキーをコントロールしたお陰だった。
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