第51話 人馬一体 YES <Yankee Extreme Soldier>

文字数 7,112文字

二〇二五年六月十日 火曜日 夜

切り込み隊長ハティ

 レギュレーション第二条の支配下で、市街戦で戦車は使えず、 “人間戦闘機”スクランブラーのステルスバイク部隊の独擅場だった。アウローラの現状の戦力では、NY南軍に勝てなかった。
ミサイルで攻撃対象を動く対象に絞るにしても、市街戦では限界があった。だが、ハティがPMFの光十字で解放区にすれば、敵のミサイルの精度をコントロールし、無効にすることができた。敵がミサイル搭載のハイテクバイクを使う以上、PMFの電磁パルス攻撃で制すれば勝てるはずだ。PMFを使えるのはハティだけで、敵はハックするしかない。
 スーのハックによる調査の結果、「塔の計画」によって、MHだけでなく、マンハッタン島そのものが、丸ごとNYユグドラシルの機能を動かす都市システムへと変わっていたことが判明した。それは電力、通信、防衛機能がセットになったもので、都市全体がアップグレードした5Gシステムとなって、塔の計画を補佐していた。
 とはいえ、町中のカメラは国連安保理のAIキララが独占的にを監視していて、こちらの動向は帝国側にはバレないはずだ。スーが偽動画を流す必要はない。
 正面のエレクトラタワーに対し、マドックス軍は車両を装甲車やバイクに切り替え、分散しながら再突撃した。レナード隊との戦闘が激化する中、ハティ率いるアウローラのバイク軍団は、ゆっくりと迂回する。
 ステルスバイク・Sトロンとどう戦うべきか? アウローラの戦闘バイク・ロードスターが起動するまで、正面からの対決は避けなければならない。敵マシンは音も電気で、静穏。電気だからPMFの電磁パルス攻撃が可能となるが……。それと携帯するプラズマガンに注意しなければならない。敵は大軍なので、ゲリラ戦法が必須だ。ハティは、エレクトラタワーの背後に地下から周り、伝書鳩ロッキーで抜け道を確定すると、タワー守備隊に奇襲を仕掛けた。
 タワーの裏側はNYPD帝国軍だけで固められ、スクランブラーは配備されていなかった。NYPDの一斉射撃の銃弾は、ハティのPMFによって跳ね返されていった。避けきれないほどの量の銃撃を喰らいながら、ハリエットは銃弾をプラズマで包み込み、すべてPMFで跳ね返した。
 タワーにはすでに、屋上にアイスターが設置したアクセラトロンがあったので、配電盤を探して、新たに設置する必要はなかった。ハティはバイクに乗って、PMFを展開すると、タワーに入っただけで力がみなぎっていった。膨大なエネルギーに恍惚感に浸る。エレクトラタワーの上空に巨大な火の玉が浮かび上がった。テスラコイルが原理の装置は、稲妻と青白い光球を生み出した。そしてそれが、オレンジ色の光十字の形に結んだ。
「よし、セカンド・クルセイドだ! ヨロレイヒー!」
 アイスターは快哉を叫んだ。
 エレクトラタワー上空の光十字が、拡大して輝いた。エレクトラタワーは特大の強力なPMFに包まれた。
 ハローの光エネルギーが観る者の心にすごく響いてくる。その中心にはジャンヌのハートが輝いていた。
 ハティは、NYの5G網に流れるダークエネルギーを、光十字のPMFでコントロールして、ライトエネルギーへと変換した。
「敵を無効化するぞッ!」
 スーがただちにハッキングを開始した。光十字で5Gは完全にジ・エンドに。サウスパーク・エリアは解放された。エレクトラタワー、自家発電装置と光十字が同期すると5G支配から逃れ、その支配を受けなくなったのだ。
「やはりな!」
 エイジャックスが気づいた。スクランブラーたちが動けなくなっている。エイジャックス隊が一斉射撃すると、たちまち敵の陣形は崩れ去った!
「5Gを解除されたスクランブラーは、AI戦闘予想を使えないんだ」
 跳弾を気にしなくてよくなったばかりか、NYPD帝国軍さえも、武器という武器が使えなくなっている。車両、銃器、それらが全く使用できなくなったのでだ。一部の敵兵が反撃を試みたが、あっさりと撃ち取られた。
 スクランブラーは残された機動力ですぐさま撤退を開始した。
「力を失ったからタワーを出たんだ」
 エイジャックスに余裕の笑みが浮かんだころ、マック隊はセントラルパーク中央の地下工場に潜入していた。

「了解――起動する!」
 ハティ隊がタワーに光十字を灯した報を受け、ハウエル社長の指示通り、新造バイク・ロードスターに起動プログラムを流し込む。マクファーレンはエンジンを入れ、パーク地上へと上がった。ヘルメットは三六〇度、後ろも見える仕様だ。
 ヒートブルーのロードスター軍団はアップタウンを南下し、たちまちタワー周辺をうずめていった。ハティはロードスターに乗り換え、ただちにマドックスに群がるスクランブラーの残党兵と、NYPD帝国軍へと襲い掛かった。
 ビル上階からの砲撃が止み、スクランブラーたちが迫った。タワーの光十字の効果が、徐々に拡大する中、パーク中部ではまだ不完全なのか、彼らのステルスバイク・Sトロンはレールガンを放った。マックは敵のレールガンに対して、ミサイルを発射する。スクランブラーに対抗するため、ハティはロードスターにミサイルを搭載するようにハウエルに要請していた。
 戦場が間近に迫った刹那、レナード・シカティックがプラズマ弾を撃ってきた。
 ハリエットの光十字は短剣へと変化し、さらにレイピアへと進化した。影の世界政府の目論見の一切を粉砕する、この世で最強、物質カーストの頂点、光十字のPMFは、何人たりとも抗えないのだ。たとえ、万全のスクランブラーが立ちはだかったとしても、白兵戦で互角に戦う自信があった。
「ミサイルなら私でも撃てる!!」
 ハティのロードマスターは、ミサイルを発射した。それはスクランブラーのレールガンよりはるかに強力だった。シカティックはUターンして避けた。ハティは単騎となったシカティックと一騎打ちになった。
 ハティはしっかりと光十字剣を構え、モトクロスジャンプをしながら相手の頭上へと振り下ろした。レナードの剣が宙を走り、斬り返す。ハティは再度旋回すると、もう一度近づいて振り下ろした。
 レナードの銃剣が下から光の軌道を描いて、猛烈に回転しながら斬りかかってきた。ハティはマシンで二-三十メートル引き下がると、またバイクで旋回しながらブウンとレイピアを振りかざし、相手の頭を狙う。レナードも引き、また近づいて剣撃した。二人の剣は初速が早く、光と光の軌道が眩くぶつかり合って、辺りを照らし出した。
「ハーバードでフェンシング!? フン! 多少運動神経がいい程度の、素人の小娘が強化兵のスピードに勝てる訳が――」
「ハァッ!!」
 ハティは光十字剣を振り切った。バチバチバチと音を立てて、レイピアを撃つ、また撃つ! レナードが剣で受けながらなで斬りし、ハティはジャンプして避けた。そこへまた剣が斬り上がってきた。ハティは宙に浮かんだままレナードの胸にキックをくらわし、さらに斬りつけた。
 ハティは下段へ斬り、上段へ撃ちあげる。パン! パン! そこへ、目に見えぬ速さでレナードの剣が飛び込んできた。ハティはハッとしてエビそりし、喉元へ迫った銃剣を避けた。
 二人はいったん距離を取って、間合いを保ったままにらみ合った。先にハティが仕掛けた。マシンを急接近させ、腕を大きく伸ばして切りつけ、旋回しながらまたレイピアを撃つ! レナードは身を低くして除け、こちらも剣を回転して襲う。両者の剣が宙で切り結んだまま、電圧で稲妻がショートした。
「何というスタミナかッ」
 またハティの剣が伸びた。レナードは様子を見ようと再度下がったが、ハティのレイピアはそのまま追った。
「ク……クソ!!」
 ハティのレイピアの剣圧が次第に強くなっていくのを、レナードは必死に受け止めたが、さらに何撃もハティは攻め立てた。
「バカな……」
 カン! カン! 遂にハティの剣がレナードの喉をかすめた。かろうじて避けると、今度は頭の上で激しく稲妻がスパークして、レナードの顔面に降りかかった。
「はっ早い、見えない……」
 ハティはレナードの残像を追いかけて、予想してレイピアを斬っていたのだ。
「お前一体……何者だぁぁ――――ッッ!!」
 レナードの剣を跳ね返すと、マシン上のチャンバラの果し合いの末、勝利の女神はハティに微笑んだ。レナード・シカティックは吹っ飛ばされ、ビルの外壁に激突すると、討ち死にした。
その直後、スクランブラーのステルス機能は、ハティのPMFの突撃を受けて、無効化された。

 ハティ隊のロードスターがミサイル発射、と同時に光十字レイピアを輝かせた。華麗な剣技でマドックスを救出!
「ハティのPMFが、あれほど強力に……!? ロックとて、その力を発揮することは敵わなかった!」
 アランは驚嘆しながらその光景を見つめていた。ハティは、光十字レイピアを武器にしてからは向かう処敵なしだった。当初、マックが拳銃指南をしていたうちはPMFが射撃を正確なものにしていたが、戦場では予想をはるかに上回り、ハティの戦闘力は何者をも圧倒していた。
「PFMレーダーは、〝気〟を感じ取るハティの能力だよ」
 中国拳法の習得者、ヴィッキー・スーをも感動させている。気は、「道」、「プラナ」、「ヴリル」等の言葉で古今東西で語られている。
 マドックスは、
「このバイクがそれか?」
 とハティに尋ねた。
「YES、Yankee Extreme Soldierよ!」
 ハティはロードスター部隊を、コールサイン、YESと名付けた。前もって考えていた名前だった。マドックスを救ったハティは微笑んだ。
「そして通信に白鳩が大活躍!」
 アイスターが付け加える。
「光十字PMFなら、最終的にMHにも勝てるだろう!」
 とアランも、マドックスに保証する。
 すでに、パーク以北の5Gは完全にハティの光十字の支配下に入っていた。マドックスはスクランブラーの策にかかり、結果的にハティの陽動の役割を担った。ハティにやられた格好で、プロ軍人として面目丸つぶれという結果になった。マドックス戦車に陽動の役割を押し付け、光十字の作用でエレクトラタワーの奪還に成功した形に、マドックスはムッとして押し黙った。
 Tスクエア以南に位置するロートリックス・シティで、タワーへのハティの奇襲を目撃したアーガイル・ハイスミスは、ベランダから空を舞う白鳩をじっと見て考え込んでいたが、踵を返して部屋の中へと入った。

 エレクトラタワーから脱出したあの夜以来、久しぶりにアウローラの精鋭・将校達が会議室Bへと集結した。
 アウローラ連合軍。それは、もともとのレジスタンス軍にNYPD捜査本部と、マドックスの州軍反乱部隊の三軍が組み合わさったもので、各リーダーたちが会議に集結している。
 屋上から間近で見上げた、タワーの頂上に建つ光十字の中心には、ハートが輝いている。ハティはそれを、ジャンヌのハートだと言った。アラン知事は、あの夜ハティが屋上で演説して、自分たちを鼓舞したことを思い出していた。
「やはり……」
 アーネスト・ハウエル社長がおもむろに口を開いた。
「エレクトロニクス企業エレクトラ社は、天災に備えた自家発電能力によって、天災のみならず、おしよせる5G網から身を守る、我々のNYの最後の砦だった」
 エレクトラ社の電源及びインフラは災害時対応で、もともと独立していたが、それをロートリックスは、街全体がセットになったシステムデザインに組み込んでいた。
 ハティによってエレクトラタワーは独立系へと切り替わり、光十字は巨大化した。これで5Gに監視されたNY市内のエリア解放で、自在に動き回ることができる。アイスターの仮説は検証された。逆に言うとそれをPMFで解放し、光十字を立てていく戦いである。これでNY内戦を有利に進め、南下することが可能になる。
「しかし、5Gに接続された兵器や車が動けなくなるのは分かる。ところが敵軍のただの銃や接続されていない機器まで妨害するってのはどういうコトなんだ? まるで魔法だ。光十字が敵の5Gの武力攻撃を跳ねのける理由って? 5Gに接続されていないはずの銃器まで使えなくなるってのは、ハッキングの限界超えてるぞ?
 エイジャックスが手を挙げた。
「うん……UFO現象の電磁波障害と同じだろう。まだ仮説だが、5Gには5GのPMFが存在するんだ。そこに、どこかで接続している限り、その人間は影響を受けるらしい」
「何の? エネルギーに質があるってか」
「ある。ハティの光十字のPMFがライトエネルギーだとすると、5Gはダークエネルギーだ」
「光を照らせば、闇は自然と消退する……」
「オーディンの魔術の話じゃないんだぜ」
「イヤーまーなんつーかー、ハッキングっていうより物質カーストなんだ。ハティのPMFの場合」
 アイスターが答えた。
「なんだそりゃ」
「どんな物質も、その力関係において上下関係がある。PM(サイキック・メタル)はこの宇宙で、あらゆる物質の上位に位置するんだ。UFOが出現すると、一時的に建物や車の電源系統に影響が出るのも同じ現象さ。それが彼女の光十字のペンダント、オリハルコンの力だ。ケルト神話のオーディンの魔術の話なんかもそうなのかもな。アクセラトロンのフリーエネルギーも、PMFだ。それと彼女の光十字が感応した」
「物質のカースト?」
「5G基地ランドマークをアクセラトロンのPMFで磁化することで、物質カーストにより、他の一切の攻撃が不能になるエリア――解放区を作り出す。これでスクランブラーの攻撃を無力化し、防ぐんだ」
 エイジャックスの理解を超えているので、彼はこれ以上考えるのをやめた。
「レナード戦で分かった通り、PMFには射程距離がある。その後、光十字の影響力の範囲は拡大したが」
 アクセラトロンと光十字のPMFで5G網のエネルギーを奪うためには、かなり近づかないといけない。それは、ハティにしかできない仕事だ。
「ここから南下し、マンハッタン島の各ランドマークをYESが占拠し、アクセラトロンを運び込ぶ。電源系統へと設置し、ハティがPMFで建物を磁化して独立系に切り替える。上空に光十字が灯る。すると、そのエリア一帯が独立し、5G解放区となる。PMFでエネルギーを奪って、5G網はシャットダウン、兵糧攻めすることができる」
 アイスターはまとめた。
 スクランブラーは、PMFの力が使えない代わりに科学力で武装しているが、ハティのPMF下では、ミサイルだけでなく、銃撃やバイクまですべての物質がPMFジャミングを受けてしまい、彼らはその地区を捨てて撤退せねばならなかった。
「そうなりゃ、PMFが使えないスクランブラーは次々力を失っていく。ハティに勝つには、同じくPM使いでなきゃいけないが、敵側にはいない」
 ハティ以外の部隊が自由に動けて、南下できるためには、そのエリアを解除する必要がある。そのために、5Gランドマークの攻略は避けては通れなかった。それは、単なるNYのランドマークではなかった。
「では、ハティを正式に将校の一員とすることに、異議はないな?」
「あぁ……」
 マドックス陸将は頷いたものの、その表情は硬い。
「右腕と呼ばれるように――君を援ける」
 と、マックがハティに言い、ハティは微笑んだ。
 ハッキングとPMFと戦闘は常にセットだ。だからハティが常に先頭に立つ必要があった。索敵及び全軍、ハティの指示通りに動くこと。事実上の戦略参謀長である。
「限定内戦を想定してなかった我々に航空戦力はなく、海路も封鎖されているとすれば、バイクで下るだけだが……」
 マクファーレンはガラ・ガーラを口に運んだ。
「砦攻略……中世の戦いと同じだな」
「百年戦争のジャンヌの時代の砦攻めと変わってない」
 それが二〇二五年のNYの戦いの現実だった。
「鎖帷子でも用意するか?」
「そんなものあるか。博物館で借りるしか」
「自然史博物館にあるのは骨だけだ。ステゴザウルスの骨でもまといな」
 PMFの城攻め。戦争の勝敗が、NY市内の主要ランドマークの制圧にかかっていた。ハティに、アイスターが同行する。建物のシステムと接続するために人の手が必要だ。置いておけばいい訳ではなく、電源を押さえて乗っ取らないといけない。工作員を忍び込ませる。人とPMとアクセラトロンの共同作戦だった。
「タワー奪還と同じく、陽動して配電盤の奪取だ!」
 NYPD、マンハッタンに残った敵兵一万対三千人の部隊が激突……。
 アウローラ軍、三千の兵。各中隊、二百名が十五組。
「エレクトラタワーで学んだ通り、敵の弱点に対する我が戦力の集中だ。電源室さえ押さえればスクランブラーは力を失う。これが基本原理だよ」
 スーが言った。
「タイムリミット付きデスマッチだ。敵の電源を奪えるか、敵が塔を再起動するか。敵は豊富な火力と兵士で、無期限でMHを守ればそれで済む。しかしこっちはそうはいかん。塔が再起動するわずか十日後、それまでにMHを制圧しなきゃいかん」
 アランはみんなの顔を見て言った。
「よーし、アクセラトロンの設計図をくれれば、二十四時間で製造しよう」
 ハウエル社長の指示で、アイスター・ニューブライトはMHの設計図を用い、アクセラトロンを製造した。地下工場の工作マシンで二十四時間で急造する。
 だが、ハティを中心に作戦が立てられることに、マドックスは依然不満そうな表情を抱えていた。
 アウローラ軍は、一日の休暇を取ることにした。ハリエットは久しぶりに眠りに就いた。
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