【5-1】忘れっぱなしだったわけじゃない 1

文字数 674文字

 だからって、ずっと忘れっぱなしだったわけじゃない。
なに、お見送りに行かなかったの?

 中学を卒業した春休みのある日。

 朝起きてダイニングに行くと、ママが唐突にそんなことを言った。

え? なんの
 でも、それが最後のチャンスだった。

 あいつの進学した学校は、県外の芸術大学に付属してる高校で、通うには遠いからって、学生寮に入ることになった。


 その日はあいつが家を出る日で、荷物を満載したおじさんの車で出かけるところに、早朝から出かけていたうちのママが、帰宅途中に遭遇したのだと。


 それからだった。
 自分でも分からなかったけど、なんだかものすごい喪失感があって、でもこれは恋とかじゃあないし、一体なんなんだこれ、と。春休み中ずっと考えてた。
 だけど高校生活が始まると、あれこれ忙しいことも多くて、またしばらく忘れていた。というか、考えても答えの出る問題でもないから、忙しさにかまけて考えるのをやめていた、という方が正しいかもしれない。

 一学期の期末試験が終わって、試験休みになって、急に時間が出来て。

 そしたら――急に、また思い出した。

 なにかが『ない』ってことを。


 それで私は、ショッピングモールをうろうろしたり、夏物の服を出したり、ゴーヤに水をやったり、ショッピングモールをうろうろしたり、うろうろしたり、漫画喫茶でマンガ読んだり、ショッピングモールをうろうろしたり。

 夏休みに入って、あーやっぱこれじゃダメだ。私、ダメな人になっちゃう。

 そう思って、あの本を買って、それで……と思ったら、あいつが帰ってきた。

( ……なんなのもう。わけわかんないし。)
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登場人物紹介

高校一年生。地元の普通科に通っている。
最近、絵を描こうと思い立った。
あいつのことを弟分だと思っている。
とある銘柄の、ペットボトルの紅茶が好き。

あいつ

の近所に住んでいた幼馴染み。高校一年生。
美術科のある県外の私立高校に進学した。普段は学生寮に住んでいる。
夏休みになり、実家に戻って来た。
なぜか100均に詳しい。

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