【3-2】紅茶のボトル 2

文字数 865文字

 買い物後、少し遠回りをして、彼の家の前を通った。

 彼の家はうちから歩いて数分。

 うちのある区画の、1ブロック隣だった。

 閉め出されてるっていうから、少し心配だった。

 子供でもないのに、心配もないけど。

あ……
おかえり

 彼は家の玄関先に、庭用のプラスチックのイスを置いて座っていた。

 たしか庭の芝生のとこにあったやつだ。

 ものすごく気まずい。

 ……こんなことなら、遠くから見るだけにすりゃよかった。

 日陰に置かれたリゾート用のゆったりしたイス。

 少しぐったりと腰掛けてる彼の片手には、紅茶のペットボトル。

 中身はもう三分の一ぐらいしか残ってない。

 ――私が好きな銘柄だった。ボトルの形が変わってるからすぐ分かる。
 気まずい私は、彼の顔を見ないように言った。
まだ、帰らないんだ。おじさんとおばさん
ああ。親、携帯持ってかなかったみたいで、いつ帰るかわかんね
そか。

あんたさ、コーヒー党じゃなかったっけ
売り切れてた

 ――ウソ。


 コーヒーなんて売り切れるわけない。

 だいたい歩いて五分ぐらいのとこにコンビニあるんだし。

 というか、さっき寄ったけど、コーヒーなんて山ほど売ってたし。

あの……さっきは
それ。

あそこの大きい100均行ったんか。
けっこう揃ってたろ

 彼は私の荷物を指さして言った。

 品揃えを分かってて、ああ言ったんだ。

 ちゃんと分かってて。

……うん。揃ってた
なんで画材屋行って、本載ってたのと同じの買わなかったの
 …………。
まあいいよ。お前が好きで買ったんだし? 
僕がとやかく言う立場じゃない
 …………。

 ひどい奴。

 私があやまるスキも与えてはくれない。

早く帰れよ。
安物は熱に弱い。
使う前に傷んだらムダんなるだろ
……そだね
 彼はけだるそうに、しっしと私を追い払った。

 彼の家を出て、すぐ近くの交差点で信号待ちをしていると、彼の両親の乗った車が通り過ぎていった。


 おじさんたち、私には気付かなかったみたい。


 リアウィンドウ越しに、後部座席に詰め込んだ、たくさんの買い物の荷物が見えた。

 車はすぐにウィンカーを出して、家の車庫に入ってった。

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登場人物紹介

高校一年生。地元の普通科に通っている。
最近、絵を描こうと思い立った。
あいつのことを弟分だと思っている。
とある銘柄の、ペットボトルの紅茶が好き。

あいつ

の近所に住んでいた幼馴染み。高校一年生。
美術科のある県外の私立高校に進学した。普段は学生寮に住んでいる。
夏休みになり、実家に戻って来た。
なぜか100均に詳しい。

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