【4-1】なくしたものの正体 1

文字数 743文字

ちょっと、めんつゆ買ってきてくれない?

 ママがドアをノックした音で目が覚めた。

 気付いたら、机で寝落ちしてたらしい。

めんつゆ?
買うの忘れちゃったのよねえ。はい、これ。急いでるからそこでいいわ
ふわぁい……
☆ ☆ ☆

 ふらふらと日の暮れた外に出た私は、ママから渡された財布をエコバッグに入れ、自転車のハンドルにぶら下げた。


 前カゴに入れなかったのは、一応の防犯教育のなせる技で。

 さいきんこのへんでも、ひったくりとか増えてるって、町内会の掲示板に貼ってあった。

 ママの言う『そこで』とは、つまり昼間寄ったコンビニのこと。

 スーパーのほうが幾分安いけど、往復で買い物時間も含めて二十分はかかってしまう。

 今晩はそうめんらしいんだけど、もう天ぷらが揚がってるそうで。

 麺なんてすぐ茹で上がるから、晩ご飯は実質、私のめんつゆ待ち。

 自転車だからすぐ到着。

 自転車置き場はほぼ満員状態。なんとかあいてる場所を見つけて、前輪をねじ込む。カギを掛けていると、すぐ隣の自転車から、シャカッと、カギを外した音が。

よう

 ふと声を掛けられて、驚いて顔をあげると、目の前にあいつのむっとした顔が。

 その距離、15センチ。

ぎゃッ! ち、ちかいよ!
急に頭を突き出してきたの、おまえだよ。なに言ってんの
え、あ、そう……
それ
え?
買い物袋
あー……エコバッグ?
それ。

すれ違いざまに引っぱって、自転車倒すやついるからやめろ。
父さんの会社の人、それでこないだケガしたんだと
え……マジ
そういうの、前カゴに入れて防犯ネットしろ。
100均でも売ってるから
あ……うん。こんど買うよ
じゃ
 それだけ言うと、彼はすっと自転車を引いて、駐輪場から去って行った。
あ……

 そういえば、あいつ。

 カゴにそのままペットボトル入れてた。

 あの、紅茶――。

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登場人物紹介

高校一年生。地元の普通科に通っている。
最近、絵を描こうと思い立った。
あいつのことを弟分だと思っている。
とある銘柄の、ペットボトルの紅茶が好き。

あいつ

の近所に住んでいた幼馴染み。高校一年生。
美術科のある県外の私立高校に進学した。普段は学生寮に住んでいる。
夏休みになり、実家に戻って来た。
なぜか100均に詳しい。

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