【1-1】15センチの再会 1

文字数 591文字

『キイィィィィィィィィィ――――ッ』

 自転車のブレーキを全力でかけた。



 とまれとまれとまれ。


 緊急事態。緊急事態。



 私は握力のかぎり、ブレーキレバーを握りしめる。


 全身から冷たい汗が噴き出した。

と、とまった……
 あやうく人を轢きそうになった。
 その距離、15センチ。
 駅前広場で不快なブレーキ音をまき散らした私は、生きた心地がしなかった。
 とろけそうに暑い、夏休みの昼下がり。
 歩道のアスファルトに、タイヤ跡を焼き付けながら。
す、すす、すみません!!
 制動で前につんのめった私の目の前には――
 夏物のライトグレーのズボンと、磨き上げられた革靴。
いや、僕の方こそ飛び出して……あれ?
……なに、か?
 恐る恐る見上げると。
 どこか見覚えのある面影が。
 はにかんだ笑顔。すこし幼さの残る中性的な面立ち。
ただいま
 ただい……ま?
 えっと……?
僕だよ、僕
? 新種のオレオレ詐欺?
ぷッ、んなわけあるかよ。こんな駅前で高校生相手に。
……ホントに誰だかわかんないの?
どちらさま、ですか?
 私よりも頭ひとつ背の高い、同年代ぐらいで困り顔の男の子は、ズボンのポケットから手帳のようなものを取り出し、開いて見せた。
 それは、県外にある私立高校の生徒手帳だった。
ほら。わかった?
う、うそだあああああああ!
 そんなはずはなかった。
 だって、最後に逢ったときって。

 ――私の方が15センチ、背が高かったんだから。
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登場人物紹介

高校一年生。地元の普通科に通っている。
最近、絵を描こうと思い立った。
あいつのことを弟分だと思っている。
とある銘柄の、ペットボトルの紅茶が好き。

あいつ

の近所に住んでいた幼馴染み。高校一年生。
美術科のある県外の私立高校に進学した。普段は学生寮に住んでいる。
夏休みになり、実家に戻って来た。
なぜか100均に詳しい。

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