【1-1】15センチの再会 1
文字数 591文字
『キイィィィィィィィィィ――――ッ』
自転車のブレーキを全力でかけた。
とまれとまれとまれ。
緊急事態。緊急事態。
私は握力のかぎり、ブレーキレバーを握りしめる。
全身から冷たい汗が噴き出した。
あやうく人を轢きそうになった。
その距離、15センチ。
駅前広場で不快なブレーキ音をまき散らした私は、生きた心地がしなかった。
とろけそうに暑い、夏休みの昼下がり。
歩道のアスファルトに、タイヤ跡を焼き付けながら。
制動で前につんのめった私の目の前には――
夏物のライトグレーのズボンと、磨き上げられた革靴。
恐る恐る見上げると。
どこか見覚えのある面影が。
はにかんだ笑顔。すこし幼さの残る中性的な面立ち。
ただい……ま?
えっと……?
私よりも頭ひとつ背の高い、同年代ぐらいで困り顔の男の子は、ズボンのポケットから手帳のようなものを取り出し、開いて見せた。
それは、県外にある私立高校の生徒手帳だった。
そんなはずはなかった。
だって、最後に逢ったときって。
――私の方が15センチ、背が高かったんだから。