【5-2】忘れっぱなしだったわけじゃない 2

文字数 801文字

 あいつが帰ってきてから、顔を合わさないように、私は極力家の中にいた。
 宿題をやってるから、と言えば、親もとやかくは言わない。

 とはいえ、おなかが空けば台所には行くわけで。
おなかすいたー。
お昼なにー……あれ? ママー?

「こっちよー」

 玄関の方から声がする。

 スリッパをペタペタさせながら玄関に行くと――
げっ! なんでいるし
いちゃ悪いかよ。親に頼まれて来てんだよ。
文句ならうちの親に言え
 あいつがいた。
なあに、あんたたち。ケンカしてるの? せっかく地元に帰ってきたってのに
いえ、なにも
べつにそういうわけじゃないし
土曜日にバーベキューやるから来ないかって、お誘いよ。それと、これ
あ、スイカだ
配ってこいって。あとまだ二軒ある
 彼は両手にぶら下げたスイカを持ち上げて見せた。
あ……そう。がんばってね
お、おう。
じゃ、後があるんでこれで
はーい。土曜日にみんなで伺うわ~。
お母さんによろしくね~。
あ、ドアはそのままでいいわよ
はい。では、おじゃましました
 ぺこりと頭を下げると、スイカを揺らしながら彼は玄関から出ていった。
なに、バーベキューって
お父さんが最近お庭にピザの石窯を作ったんですって。それでお披露目と、息子さんの里帰りパーティを兼ねて、バーベキューやるから来て下さいって
里帰りって、お嫁に行ったんでもあるまいに。
……石窯のピザ、か。おいしそう
でしょう? すごいわよねえ。そんなの作ってたなんて
お金持ちの考えることはわかんないよ~
そうお? ホームセンターにキットで売ってるらしいわよ
石窯が?
うん
じゃーうちも作ろうよ
誰がやんのよ。お父さんドがつくほどの不器用なのよ?
じゃーママ
いやよ。力仕事だし。腰でも痛めたら、だれがあんたとパパの面倒を見るのよ
あー…………
いいからこれ、お風呂場持ってって、たらいに入れて冷やしといて
うん。いつ食べるの
ごはんの後で
はーい
 私はスイカを持って、風呂場まで廊下をぺたぺた歩いてった。
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登場人物紹介

高校一年生。地元の普通科に通っている。
最近、絵を描こうと思い立った。
あいつのことを弟分だと思っている。
とある銘柄の、ペットボトルの紅茶が好き。

あいつ

の近所に住んでいた幼馴染み。高校一年生。
美術科のある県外の私立高校に進学した。普段は学生寮に住んでいる。
夏休みになり、実家に戻って来た。
なぜか100均に詳しい。

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