【8-2】パンドラの箱 2
文字数 1,192文字
彼はいままでのうっぷんを晴らすかのように、淡々と、しかしよどみなく語った。
だが、まるまる一年間、視力のせいで存在を認識出来なかったとしても、一切のアプローチもなく完全無視されたら、普通傷つくよな?
この多感なお年頃で難しい受験も控えたこの僕が、一体どういう気持ちだったかお前に分かるか?
私は、追い詰められた小動物みたいな気分だった。
私が彼を苦しめた張本人だったなんて――。
言いたいことを吐き出したせいか、ちょっと落ち着いた彼は、すこし冷めたカプチーノをぐいっと飲んだ。
彼はちら、と周囲を伺うと、メニューで隠しながら――。
触れるぐらいのキスをした。
私は何が起こったのか理解出来ず、ただ固まっていた。
だけどあいつは、うれしさでとろけそうな、そんな顔で。
彼はふん、と鼻で笑った。
――この、この私が、誰かに惚れられるなんて、キスされるなんて、そ、それもよりによって、恋愛感情のかけらもなかったこの男に!?
べ、別に嫌いなわけじゃないし、それはそれで悪いとは思わないし、こいつの家は金持ちだし、付き合いも長いから気兼ねもないし……って、そういう問題じゃ……。
そんな大混乱な私を見透かしてか、 彼は指先で私のおでこをツン、と突いた。
彼は両手で頬杖をして、ちょっとねっとりした笑顔で私を見ている。
うそお………………。
頭のてっぺんまで血が昇っていくのをかんじた。
見たこともないような妖艶な顔で、彼がささやいた。