【8-2】パンドラの箱 2

文字数 1,192文字

たた、単純って……
それに、事前に承諾もらってんだよ僕は
まさか……子供のたわごとだよね?
そう。話はやいじゃん。

だから、お前の分別がつくまで待ってた

だけどお前は僕を無視するし……まあ、これは誤解だと分かったからいい。


それに彼氏まで出来た。……これも誤解だからいいとする。


遠距離恋愛になるからと身を引こうとした。これは僕の判断だから仕方ない

 彼はいままでのうっぷんを晴らすかのように、淡々と、しかしよどみなく語った。
だが、まるまる一年間、視力のせいで存在を認識出来なかったとしても、一切のアプローチもなく完全無視されたら、普通傷つくよな? 

この多感なお年頃で難しい受験も控えたこの僕が、一体どういう気持ちだったかお前に分かるか?

 私は、追い詰められた小動物みたいな気分だった。

 私が彼を苦しめた張本人だったなんて――。

……そんな……ぜんぜん知らなかった……。ごめん
久しぶりに会ったお前が、唐突に絵なんか始めるとか言い出して、もしかして僕が恋しくなったのか、なんて期待させやがって……イライラさせやがって……
 言いたいことを吐き出したせいか、ちょっと落ち着いた彼は、すこし冷めたカプチーノをぐいっと飲んだ。
それは、その通りかもしんない
え?
ズバリそれだよ……

でも、たったいままで自分でもわかんなかった。


受験終わって、気付いたらあんたいなくなってて、ぽっかり穴が空いたカンジになって。だから、絵やろうって……。


……。


そっか。


恋しかったのか。


なんだ。そっか……

気付かなかったとか、バカだろお前
なにそれ
まだまだお子様だな
ちょ、なにバカにして
普通女子の方が色気づくの先だぞ、おま
 彼はちら、と周囲を伺うと、メニューで隠しながら――。
 触れるぐらいのキスをした。

 私は何が起こったのか理解出来ず、ただ固まっていた。

 だけどあいつは、うれしさでとろけそうな、そんな顔で。

無くしてから気付くなんて、バカなやつ
 彼はふん、と鼻で笑った。

 ――この、この私が、誰かに惚れられるなんて、キスされるなんて、そ、それもよりによって、恋愛感情のかけらもなかったこの男に!?


 べ、別に嫌いなわけじゃないし、それはそれで悪いとは思わないし、こいつの家は金持ちだし、付き合いも長いから気兼ねもないし……って、そういう問題じゃ……。

 そんな大混乱な私を見透かしてか、 彼は指先で私のおでこをツン、と突いた。
いたっ。なにすんのもう
やっぱお前は、僕がもらってやらないとダメだな
 彼は両手で頬杖をして、ちょっとねっとりした笑顔で私を見ている。
ファ、ファーストキスなのにっ、なに! なんでこんなとこで!?
ははは。知らないの?
……なに
二度目だぞ。
お前とキスすんの。

前回はお前からだったんだが

 うそお………………。

 頭のてっぺんまで血が昇っていくのをかんじた。

責任取ってくれよな
 見たこともないような妖艶な顔で、彼がささやいた。
は、はい……
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登場人物紹介

高校一年生。地元の普通科に通っている。
最近、絵を描こうと思い立った。
あいつのことを弟分だと思っている。
とある銘柄の、ペットボトルの紅茶が好き。

あいつ

の近所に住んでいた幼馴染み。高校一年生。
美術科のある県外の私立高校に進学した。普段は学生寮に住んでいる。
夏休みになり、実家に戻って来た。
なぜか100均に詳しい。

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