【8-1】パンドラの箱 1

文字数 950文字

聞いたら、お前も責任取れよ。いいな?
え? ちょ、責任って
僕も、責任取るから。


聞くの? 
聞かないの?
 ここまできて、聞かずに帰れるかっての。
聞く
いいな? もう後戻りは出来ないぞ

 私はこくりとうなづいた。


 彼がぐっと身を乗り出した。


 私は、胸がものすごく苦しくなって、なんだかわかんないけど泣きそうになって。

 彼の顔が、目の前に来て――15センチもの近くに。


 そして、ささやく。

好きだ。僕の奥さんになって
 えええ??
一生、お前といたい

 ど、どういう、どういうことなのこれ?


 妻ってナニ? 一生ってナニ?


 こ、告白通り越して、プ、ププ、プロポーズ????


 というか、こいつ、そんなこと考えてたわけ!?


 あああ……、めまいがしそう。

 私はイスからずっこけそうになった。
なにがおかしい? 僕はずっと思ってたけど
 あきれ顔の彼は、イスに深く腰掛けなおし、組んだ手をテーブルの上に置いた。

遠距離になったらお前が可愛そうだから、諦めようとしたんだ。


丁度彼氏も出来たみたいだし、って踏ん切りがついた。


お前が僕を忘れたように、僕もお前を忘れようとしたんだ。


――必死にな

 忘れ……ようと?

それがムリだったのは、紅茶を見ればわかるだろ。

去年お前が飲んでた奴だ。

何故僕があれを好んで買っていたのか、その理由を言わなかった訳

 それって……それってぇ……。
つまりそれは……お前への未練だ

 あああ……。

 涙がちょちょ切れそうになってきた。

なのにお前は僕の古傷をごりごりと。
ったくなんてやつだ
 彼はほんとにつらそうな顔で言う。
ええええ……あのそれって……あわわわわわ……
 そして、私を指差した。
お前のせいだ。

パンドラの箱を開けた、お前が責任を取れ。

この僕の、この気持ちの責任を取れ。

お前に苦しめられたこの二年あまりの責任をな!
せ、せ、せせ責任ってあの……あのあの……二年って……なに
僕が進路を決めて、諦めるって決めてからだ。

好きになったのはずっと前だけど
……前、って……いつ
小学校から。つまり、ここに住むようになってから、ずっと
えええ……十年もってこと?
僕は十年越しの気持ちを捨てたんだ。
それをお前が蒸し返した。
だから責任を取って僕と結婚してもらう。

単純な話だよ
 もう失うものはない、そんな潔ささえ感じる笑みを浮かべながら彼は言った。
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登場人物紹介

高校一年生。地元の普通科に通っている。
最近、絵を描こうと思い立った。
あいつのことを弟分だと思っている。
とある銘柄の、ペットボトルの紅茶が好き。

あいつ

の近所に住んでいた幼馴染み。高校一年生。
美術科のある県外の私立高校に進学した。普段は学生寮に住んでいる。
夏休みになり、実家に戻って来た。
なぜか100均に詳しい。

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