【3-3】紅茶のボトル 3
文字数 434文字
自宅に帰ってシャワーを浴びたあと、私は自分の部屋であの本を眺めた。
文字通り、外から。
たしかに分厚い。
いま自分の部屋にある本の中で、辞典や教科書の次に厚い。
つまり自分で買った本の中で、一番厚い。
厚みは15ミリ。表紙も中の紙も上等で、とにかく厚い。
私なんて受験にかまけて、あいつのことすっかり忘れてたのに。
そしたら町からいなくなって。
あいつがいたことを思い出させられて。
べつに描きたいものなんかなかったし、美大行きたいとか専学行きたいとかイラストレーターなりたいとかそういうの全くなかったし。
ただ、あいつと同じようなことをしたかった、だけなのに。
『ここにいない』あいつと同じことを。
私はちらと、足下のゴミ箱の中を覗いた。
あの紅茶の、変わった形の空きボトルが、なにもないゴミ箱の底で、ころんと寝転がっていた。