【2-3】そんなつもりじゃ 3

文字数 1,043文字

 駅で電車を待ってると。
お前、本気で画材なんか買う気? 初心者だろ
だって本に載ってたし
あんなん真に受けるなよ。
だいたいさ、スマホでもゲーム機でも絵が描けるご時世だぞ。
フリーソフトなら初期投資ゼロだ
デジタルはイヤだし。
画材買うって決めたし
んー……。
アナログやるにしたって、いきなり高いスケッチブックとか、高級鉛筆とか要らねえよ。
100均で揃うぞ。
高級画材は腕が上がってからでいいよ
安物だとやる気でない
それホントに絵が描きたいのか? 
そういう気分になってるだけだろ。
すぐ飽きるんだから、安いのにしとけ。
っつーか、コピー用紙でいいじゃねえか
ぐちゃぐちゃになるからヤダ
裏にスプレー糊でも吹けば、板でもなんでもくっついて、ぐちゃぐちゃになんかならないから。スプレー糊とイラストボードだけ画材屋で買え
ちょっと
なに
私が自分のお金で何を買おうと勝手でしょ? 
なんでいちいちあんたに説教されないといけないわけ? 
なんか恨みでもあんの?

 イライラして、まくし立ててしまった。

 でもイライラさせるほうが悪い。

ない……いや、これから恨むかもしれない
それどーいうことよ
あんまさ
ん?
雑に扱ってほしくないんだよ、画材を
だってあんたの物じゃないでしょ
そういう問題じゃねえ
人がせっかく新しい趣味始めようと思ってんのに文句ばっか言って
お前、なんで僕を誘ったわけ
だから画材を買うからオススメとかしてもらおうと
 彼は真顔でじっと私を見た。
……。やっぱ帰るわ
ちょ、なに
ネットで調べるなり、店の人に聞くなりして買えばいい。
僕の意見を聞く気がないんだから、僕がお前と一緒に居る必要ないだろ
 彼はベンチから立ち上がって、階段に向かって足を踏み出した。
いや、でも、ちょっと
なに
 足がぴたりと止まる。
ついてきてくれるって言ったじゃない
必要がなければ、行かないのは当然だろ?
なんで、なんで帰るの?
 彼は大きなため息をついた。
お前、自分が何言ってるか分かってる?
はあ?
お前は――絵描きを侮辱してんだよ

 あ……。

 え……。

 でも……。なにが、侮辱、なの?

ご大層な本があるんだろ? だったらそっくりそのまま、ネットでポチればいいだろ。好きにすればいい
ごめん……その……
僕は実家に帰ってきたんだ。自分の夏休みのために。
お前のわがままに付き合うためじゃない。
そういうのは、彼氏にでも頼め
 彼はふたたび足を踏み出した。
そんなのいるわけ――
 私の言葉が通過電車にかき消されたとき、彼の姿は、なかば駅の階段に沈んでいた。
そんなつもりじゃ…………なかったのに
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登場人物紹介

高校一年生。地元の普通科に通っている。
最近、絵を描こうと思い立った。
あいつのことを弟分だと思っている。
とある銘柄の、ペットボトルの紅茶が好き。

あいつ

の近所に住んでいた幼馴染み。高校一年生。
美術科のある県外の私立高校に進学した。普段は学生寮に住んでいる。
夏休みになり、実家に戻って来た。
なぜか100均に詳しい。

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