第10話:昇進と八ヶ岳が見える家の誘惑

文字数 1,701文字

 こうする事によって、村下の会社の実績も飛躍的に向上した。特に、仲の良くなった先生の移動先には、担当者同行で挨拶回りを欠かさずに行う様にした。波及効果が、出始めて、県内の売上も2年目がプラス10%、3年目がプラス25%と伸びてきた。そして念願の営業実績で、表彰の栄誉を得ることができた。

 6月、お祝いに松本郊外の温泉で一泊で慰労会を営業所全員で開いた。長く苦戦していた南信の吉川君も涙を流して喜んでくれたのは、感動的だった。吉川君が、負け犬では、終われない、これからですね。全国一を取り、営業所を作りましょうと、檄が飛んだ。その晩の、お酒のうまさは、村下にとって、今でも忘れられない。

 松本に赴任の3年目は、社内の等級が1つ上がり課長になった。今年の臨時ボーナスも120万円、報奨金が30万円と、通常ボーナスが100万円、給料が450万円、出張+外勤手当が100万円、合計800万円と過去最高だった。こうなったら年収1000万円突破を目標して頑張ろうと心に誓った。

 一方、村下のプライベートな事で、大きな事が起きた。それは、夏になり小学校の長女の友達のお母さんが、SKSハウスの人で、素敵な分譲住宅が、八ヶ岳の麓に完成したので、是非、見に来ないかと、招待状を持って来た。買う買わないは、別に見学者を捜してると話していた。その招待状もらったので家族全員で週末に出かける事にした。

 そこは、茅野インターから車15から20分、白樺湖や車山高原、蓼科高原へも、すぐ行ける所にあり、近くには、高級別荘地が数多くある場所。諏訪湖では、7年に一度、御柱祭「おんばしらさい」で、有名な諏訪大社がある。茅野駅には、山梨の岡島百貨店の支店のデパートもある。さらに下諏訪、上諏訪の温泉など、多くの有名な温泉がある。

 いつでも、気軽に温泉巡りができる素晴らしい場所であった。村下夫妻にとっては、まさに理想郷に映った。富裕層でもない、村下が、あたかも金持ちになった様な錯覚におちいる始末だった。高速で松本から、茅野インターチェンジで降りて15分くらいの所で、自宅から30~40分程度だ。

 9月初旬、その住宅街を村下一家で訪問すると、眼前に八ヶ岳がくっきりと見え、確かに絶景である。茅野市内のジャスコまで10分で、生活に支障はない。値段も4千万円前後で4LDKか5DKと広く、モダンな建物で、奥さんは、思わず、素敵と唸ったほどだった。もちろん、ローンも通常通り使えると言うことだった。 

  もちろん、家の中も見学したが、モダンであり素敵だった。女房は、いいねの連発だった。
 少し検討するからと言うので資料までもらってきた。資料を見て、女房は、7割方、買いたい方へ傾いた。そこで、帰って、近くに住む、友人に相談する事にした。すると、馬鹿だな、冬に、もう一度、見に行ってから決めろと言われた。

 あそこは、1000メートルの高原でマイナス15度、年によっては、マイナス20度になり、生活するには、大変だと言うのだ。まして、横浜の温かい気候で育った人間には、無理だと言うのだ。また、学校も僻地の学校であり子供達を田舎の学校に入れるのかと言われた。彼の忠告で、我に返り、12月、再度、見学する事にした。

 新興住宅街から通える小学校の場所と通学路などを見ると、やはり、友人の忠告の通り、田舎の学校で、農家の子どもばかりだった。また、通学路は、ほとんどが、田んぼのあぜ道で、学校まで子供の足では30分は、かかると聞かされた。その話を聞き、さすがに、奥さんも、あきらめ顔になった。

 しかし、その戸建て住宅は、約2週間で、全て、完売した。なんともいえない挫折感というか、悔しさが、残ったのは、いつわらざる気持ちだった。しかし、その半年~1年後、新聞に、その住宅の売り物件の広告が、新聞のチラシに、でかでかと出ているではないか・・・。

 都会育ちの、ぼんくら頭の、村下夫妻は、不動産屋さんの甘い罠に、すぐはまってしまいそうで、危なかったのだ。その点、頼れるのは、地元の友人のアドバイスだった。その後も、何かあるごとに、その友人に相談する村下夫妻だった。
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