第14話:新居生活と営業開設祝い

文字数 1,600文字

 また夕方、小学校の娘が、交代制で一番下の息子を保育園に自転車で迎えに行く生活が始まった。4~5月の桜のシーズンになって、朝の霜がなくなると若葉が芽を出す5月中旬になると、良いシーズンが始まる。女房も働いて数ヶ月たって何人が友人もできた様で楽しく働いている様だった。

 そんなある日、その友人の一人が、プルーンの木をあげるから、取りに来てと言って下さったので、早速、村下は夫妻は、一緒に、車で、出かけた。そして1メートルを超えるプルーンの苗木をスペースギアの荷台に入れて運んで、家に帰り、庭の真ん中に植えた、すぐ大きくなるからと言われていたが、2年目には、2~3メートルにもなった。

 ただ、虫が、葉っぱの裏側に、つくので、専用の薬剤で消毒したりと手がかかった。実は、村下は、毛虫が、大嫌いで、そばに近づけない弱虫だった。そこで消毒作業は、全て、奥さんの担当になった。このプルーンの木は、強い木で、数年で、2階まで、届く位、大きくなるとの話だった。

 そして、植えてから、2年目には、バケツいっぱいの、プルーンが採れた。うちの女性達が大好きで、腹一杯、食べていた。食べきれないと、近所に、おっそ分けをした。もちろん収穫作業には、村下も参加して、プルーンのみを取っては、段ボールの箱に、どんどん詰め込んだ。しかし、ある程度は、食べたが、一番食べるのは、決まって、長女だった。

 夏が過ぎ、9月下旬に東京の支店長から松本営業所開設の祝賀会をするから用意する様に
と連絡が入った。当地に詳しい長野市担当の山下君に上山田温泉での宴会の席と宿を予約してもらった。当日、16時過ぎに支店長が、お見えになり、ゆっくりと温泉につかっていただいた。
18時から念願の松本営業所の祝賀パーティーが、始まった。

 松本営業所の4人と支店長の5人で芸者さん5人がついてもらい宴会が始まった。最初に、支店長からの祝いの言葉と所員の活躍を褒め称える話をしてくれた。その後、乾杯し、今夜は、無礼講という事で、みんな盛り上がった。芸者さんの歌や踊りが披露され、みんな大喜びだった。

 そのうちに宴会が、お開きになりカラオケに行く人や温泉に入る人芸者さんと、もっと遊ぶ人にわかれ楽しんだ。その後、山下君が支店長のお供をして面倒を見てくれた。後日談だが、支店長が、もっと芸者さんと遊びたいというので、山下君が、一晩中つきあってくれる芸者さんの事を思い出し手配した。

 そして、無粋だからという事で、2人きりにした様だった。翌朝、支店長が、眠い目をこすりながら起きてきた。楽しんでいただきましたかと、村下が、聞くと、良かったよとの事だった。
その後、その噂が、耳に入るほど、昨晩は、大活躍したようで満面、笑みで上機嫌だった。

「後日、山下君が、笑いながら芸者さんが、京都弁で、山下君に、あんな、お強い人の接待は、大変でしたわと、みんなに伝わると、大笑いとなった」
 村下が、支払いはと聞くと、支店長に伺うと、会社の方に請求書まわしてと言っておられた。
 詳しく聞くのは失礼と思い、お礼だけを述べた様だ。

 その後、山下君の耳に支店長の詳しい武勇伝が伝わった様で、偉くなる人は、元気で、スタミナ抜群なんですねと言った。そう言う話は、広がりやすいので、もちろん、口止めしておいた。
松本に赴任の4年目は、松本営業所を開設し、売上も3年連続10%以上と絶好調。今年の臨時ボーナスも170万円、報奨金が30万円で、遂に年収が、1千万円を超えた。

 村下が、プロの営業マンとして、やっと、認められたのだと思うと、数々の苦労が走馬燈のように、頭の中を駆け巡った。思えば、身重の身体で転勤。村下が、1週間出張で家に帰れない日々も愚痴もこぼさず、子供の病院、幼稚園、買い物、炊事、洗濯をして家を守った。数々の苦労もこの1千万円に入っているんだと、思うと自然と熱いものが、こみ上げて来た。
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