第１２話：スキー旅行と松本に家を買う

　長女は、さのさかスキー場をバンバン滑って、スピードにも、かなり慣れてきた。超速の進歩である。奥さんは相変わらず、次女、長男と一緒にソリをしていた。景色が良いので、気分は良かった。昼食をとって、帰りは、混雑するのを避けるため１４時過ぎに出発する事にした。案の定、１４時頃は、まだ、それ程混んでいなかった。

　それでも、家に着いたのは１７時過ぎだった。帰って、長女が、今度は、栂池のロープウェイで一番上まで上がって、４キロのスキーコースを一番下まで滑りたいと勝手な事を言っていた。
しかし、もしかすると滑れる様になるかもしれないと思った。機会があれば、連れて行ってあげたいと、思った。

　その後、２月、売上コンクールで、ついに、全国伸び率トップとなった。あと１ヶ月、トップで逃げ切れば、支店長の接待と営業所立ち上げが現実となる。いつのまにか信心深くない、村下も、この時は、近くの神社に願をかけに行った位だ。その甲斐あってか、ついに、伸び率、全国トップを手にした。

　松本に赴任の４年目は、伸び率、日本一になり今年の臨時ボーナスも１６０万円、報奨金が５０万円と､通常ボーナスが１１０万円、給料が５００万円、出張＋外勤手当が１２０万円、合計９４０万円と過去最高。もう少しで年収１０００万円となった。それを記念して日本一受賞の慰労会を東京の支店長が来て、開いてくれたのは、言うまでもない。
　　
　その後、ＳＫＳハウスの女房の友人が、また、村下家を訪ねてき、松本の農協さんが、大規模に農地を宅地化した分譲地で、県外の人でも買える良い物件が出たので是非、見に来てと言った。奥さんが乗り気で今週末に見学する事にした。そこは、松本市南部の郊外で大学病院まで、車で二十分程度のかかる所である。

　松本市南部は、最近開発が進んでいる地域で、中華料理の旨い四川乃華は、南松本駅の近くである。家の中を見ると、豪華で吹き抜けの玄関に、シャンデリア、６ＬＤＫで、お風呂は４人も入れる大型浴槽。１階は大型の２重サッシが、２カ所、リビング・ダイニングは、南向きで広い、１６畳リビングと８畳の和室。

　大きなウオークイン・クローゼット、作り付けの大型靴箱、大型の押し入れと、充分な収納施設も備えている。玄関の２階は、吹き抜けで、シャンデリア風の照明がついていた。２階の南側が、バルコニーになっていて３つの洋室あり、土地は１００坪強だった。総額５０００万円を何回かの交渉で４３００万円まで値下げ交渉に応じてくれた。

　実は、後でわかった事だが、約１年近く買い手がつかなくて県外の人でも買える様になった物件であったのである。今度は、農協で、頭金と支払いの話になり急に、雲行きが怪しくなった。
勤務先、年齢、役職と年収など具体的な話となった。その時、まず会社の事を聞いてきた。上場してない事を話すと、そうですかと暗い返事がかえってきた。

　あなたの、ご出身はと聞かれ、北関東ですと答えると、県外ですか・・・。では、頭金は、半分以上お持ちですかと矢継ぎ早の質問攻めにあった。頭金は１千万円位、では、残金は、どうですかと聞くのでローンを利用すると言うと、笑いながら、そりゃー無理だと述べた。他県の人に、そんな大金を融資してくれる銀行は、ここには、ないよと言うのである。

　担当者が、ところで、あなたと奥さんの両親は、何をしてるのと聞くので、女房の父が、
会社を経営していると答えると、担当者の顔が、急に明るくなるではないか。それをもっと早く言ってよ、という始末だった。電話番号聞かれ、確認された。

　あれだけ嫌な顔していた人が、上機嫌にかわり商談成立となった。村下から担当者に詳細を聞いても、にこやかに大丈夫ですの一言だった。そして無事、購入となった。その後、銀行でローンの相談、もし、あなただけなら１千万円までしか貸せません。奥さんの両親が、保証人なら、５千万円まで貸せると言いだした。

　それを聞いて、村島は、心の中で激怒した。これで松本に、あこがれの戸建てのマイホームを手に入れられた。しかし、その後、冬将軍との闘いや凍結、湿気との対決が、待ち構えている事を想像できない程、夢ごこちだった。この冬は、松本の厳しい冬将軍の攻撃が、容赦なく、半年も続いた。灯油の消費量が、半端な量でなかった。

　厳寒期は、５００リットルの屋外タンクを満タンにしても、１ヶ月持たず補充する有様だった。冬場の暖房手当が、月に７万円では、足らない。家の庭には、巨大な、霜柱がびっしりと、立っているのだった。また、夢のような、１度に４人も入れる大型浴槽と大きな風呂場が、冬になると、寒さという凶器となって、みんなを震い上がらせたのだ。