第20話 猫revisited6

文字数 613文字

しろは飯を食わない。
僕が眠るまで、けして眠らない。
それでいて、健康的に程よくふっくらとした白い肌。
ほくろがあちこちにあった。
僕は、白い子猫の蚤取りみたいに、彼女の白い裸体の隅々までほくろを探してつついて、数えた。
彼女はそれを、いちばん喜んで、時に僕をかぷりと噛んだ。
かわいいな。
まるで、白い子猫のようだ。
白い
子猫。
なんだろう?そう思うんだ。
もともと金はなかった。
学歴もなく、人生に破れ、自信もない僕は、いくつかの末端の仕事の面接さえ受からなかった。
じりじり焦った。
食べ物を、買えなくなった。
やたらと腹が下った。
動きたくなくて、彼女の冷たい肌に寄り添っていた。
さむいね。
もう、冬かな?
ガレージの真ん中に紙くずやダンボール、ゴミをまとめて、ライターで火を付けた。
タバコを吸うためのライター。
あ、酒もタバコも、やってないな。
燃えていた。
彼女を守りたかった。
動けない。
しろ、逃げて
かすかな声で。
買い物への誘いを断る時の、あの強情さ。
こんな時に。
彼女は動かない。
僕は、もう、動けなかった。
死んでしまうんだよ、わかってくれ
わかってくれるのはあなたの方、わたし、生きてないよ
はじめて、彼女の声を聴いた。
僕が抱いてたのは、猫の骸。
白い子猫の、白い骨。
ああ、シロか。
今まで思い出せなくて、ごめんね。
ありがとう、たのしい夢だったよ。
そっちへ行くよ、少しだけ、待っててね。

赤い暗闇。
ぱちぱち燃える炎の隙間から、
「さよなら」
ちいさく聴こえた気がした。
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