第6話 what the world is waiting for

文字数 679文字

銃声。
慣れた痛み。
目を醒ますと、拘束され、首筋を撃たれた。
もう逃れられなかった。
慣れていないのだろう。
これが2回目。
こんな下手くそに撃たれては、慣れているとはいえ痛い。
「どうした?ちゃんと狙え」
敵兵はガタガタ震えながら部屋を出て行ってしまった。

思えば死に場所を探していた。
コンゴ、そしてあの、インディオ解放の時に味わった活気の欠片も消えたボリビア。
仮に成功したとして、おれは嬉しかっただろうか?
子供たちは残した。
妻がうまくやってくれるだろう。
家族の中で、どうしても逃れられない理想を押し付けて苦しめるのが嫌だった。
たまに会うくらいが良い。
どんな集団の中でも、この理想中毒は分かち合えなかった。
おれひとり、たったのひとりが追う理想。
その為に命を賭すカタルシス。
すっかり酔って、麻痺して、依存していた。
ずっとよそ者。
誰も望まない革命を成す為に、争い事を巻き起こす厄介なよそ者。
前線の部隊ではいくらかマシだけど、マルクス、トロッキー、他に理解者のない闘争。
ただ、おれひとりが求める殺し合い。
死にたいやつが、死ねばいい。
それだけだ。
良かった。
やっと終わる。

さっきの敵兵が戻って来た。
「今度はちゃんと狙えよ」
左胸、惜しかった。
仕方ない、といった風情で選手交代。
「残念だ、エルネスト。君を殺人者として尊敬していたし、誰だって手は汚したくないもんだよ。きみ以外の"人間"は」
押し付けられた銃口。
心臓。
はじめて理解された。
緩む口元、ゆっくり目を閉じる。
赤い暗闇は血の色。
おれのせいで流れた血。
薄れる意識とあの飛蚊。
ここなら何度でも連れてきてくれ。

最後の銃声は聞こえなかった。

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