第23話 arushandapushandthelandishours

文字数 745文字

やあ、僕は18ヶ月前にその白く細い頸を吊って死んだジョーの亡霊だよ
そんな風に幕を開けるthe smithのラストアルバムの一曲目a rush and a push and the land is ours。
僕はずっと、oursをhoursだと勘違いしていた。
で、それで良い、と、今は思う。
僕は戻らない時間を無駄に過ごした。
取り返そう、もとに戻そう、といくら躍起になっても、物事は静かに綻びて行くばかり。
時間を行き来するなんて、想像の中でしか出来ない。

先日家族の引っ越し先にはじめて行った。
外壁も内壁も綺麗にリフォームされ、小綺麗だった。
ドアも綺麗に塗られていたが、築年数を伺わせる鉄の重い扉。
僕には開かずの扉に見えた。
あの時から僕は、外からしか解錠できないこんな扉の向こうの、正方形の狭い、コンクリートの独房の中に居る。
ひとつだけの、ちいさな鉄格子付きの窓。
そこからすこしの励ましと、たくさんの罵詈雑言が聴こえてくる。
この地獄の扉の鍵は、看守である君が持っていて、君だけが僕のいのちを握っている。
餌をねだるのも、死を懇願するのも、君に。
僕の罪は重かった。
けれど、ここは天国だったのかもしれない。
執行猶予の間、君にだけ会っていた。
そろそろ刑が執行される。
君は鍵を開けたまま、ここへ誰の侵入も許して去って行く。
時は戻らない。
進むしかない。
ボコボコになって、死にかけて、それでもまた君たちの家の、あの開かずの扉を開けに行くよ。
進んでれば戻れはしないのだし、止まりさえしなければ、いつかはたどり着く。
だから、待っててくれ。
先に死なないで。
そしたら僕を、また抱きしめてくれるかい?

親愛なる、僕の妻、まみちゃん。
君と一緒の人生を、向こうへ、進みたいんだ。
愛してるよ。
一旦、サイナラだ。
時々は、逢えるさ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み