第7話 reel around the fountain

文字数 528文字

横浜、野毛。
スロットを打ちながら競馬中継に固唾を呑む。
結局どっちもは勝てやしないし、しばしばどっちも負ける。
うまく行かないバンド、金があれば。
そうして、なけなしの金をまた減らす。
くたびれ果ててパチンコ屋の2階の寮へ。
湯豆腐にビール。
冷蔵庫のビールは飲み放題だ。
ほろ酔い目を閉じ、赤い暗闇。

気付くと部屋で独り、天井を見上げていた。
家族が出て行った部屋。
早く片付けて、引き払わなきゃ。
うまく行かない事業。
さえない飲食店。
山を這いずり回って、割の悪いものを掻き集め、深夜のアルバイトに牛乳配達。
いたずらに心身を削るだけ。
ああ、そうだ。
うまれたときからずっとだ。
ただただ枯れた噴水の周りをうろつきまわるだけの人生。
何かを成す事を夢見ながら。
あと2時間。
眠れないけどアルバイトに備えて目を閉じる。
暗闇は黒かった。
頭がずーんと重い。

溝口に付いて貧しげな市営住宅の一室へ。
そういう場所で育ったから、察しが付く。
寝転ぶ若い妊婦。
他人の保険証を使う為の密談。
入れ墨の男に、注射器。
「お前らも打ちたいやろけど、我慢しいや」
見ちゃダメだ。
彼女の目を両手で後ろから塞ぐ。
もう嫌だ。
目を閉じてもあの赤い暗闇はない。
そうか、残されるんだ。
またここに。

彼女のほうに赤い暗闇が見えていた。
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