第17話 猫revisited3

文字数 652文字

双葉紫明、そう名乗ったあなたは忘れちゃったみたいけど、わたしはすぐにわかったよ。
あのひとだ。
わたしたちを拾って、そのうちわたしを大事に大事に抱いて家に連れて来たあの夏休みの日。
また、わたしはあなたが兄弟たちと秘密基地にしてわたしたちきょうだいを匿い、牛乳やおかかごはんを家からくすねてせっせと運んでたこの場所に戻してくれる筈だった。
当時、ここはまだ工事中で、資材置き場だった。
たまたま遊びに来てたイサオくん。
あなたは、2つ年上の彼が、好きだったんだよね。
子供の無邪気は時に残酷。
イサオくんは、あなたの家の小さな庭に置いてあった要らない箪笥の引き出しにわたしを閉じ込めて、ぐらぐら、ぐらぐら、揺すった。
ぐらぐら、
ぐらぐら、
目がまわる。
ぐらぐら、
ぐらぐら、
げろ吐いちゃった。
それでも、ぐらぐら、ぐらぐら
気が遠くなる。
わたしは、なんだか赤い暗闇のなか気を失って、そしたら、ちゃんとここに戻ってたの。
あれから、20年。
実体のない、年も取らない、たましい?みたいになって、ずっとここに居る。
きょうだいたちが死んだり、居なくなっても。
きっと、あなたにこうしてまた逢う為だったんだよ。

哀れ、白い子猫は死んでしまった。
あっけなく、数ヶ月の命。
首の骨が、捻れて折れていた。
イサオは引き出しを開け、親に用事を頼まれてたのを思い出したとその場を立ち去った。
彼はすぐに子猫の骸を抱いてイサオを追いかけた。
イサ公!イサ公!
イサオは家に入ったきり、出てこなかった。
しょんぼり歩いて、あの秘密基地へ。
シロを、そこに埋めた。
泣いていた。
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