第5話 I’m a boy

文字数 425文字

髪は母親が切っていた。
坊ちゃん刈り。
貧乏なのに、あだ名は「坊ちゃん」。
気の利いた冗談だ。
赤い暗闇から目を開けると、鏡に映った自分。
スポーツ刈り。
駄々をこねた。
みんな被ってる野球帽。
誰も被ってない、カープのが欲しかった。
母親にねだったのは、生涯この一度きり。
母親は無理をした。
銀座バーバー。
評判の、安い床屋。
似合わない。
耳がでかい僕は、髪がなくなったら宇宙人の様だった。
その影に意気消沈しながら、スポーツ用品店へ。
carpと書いてあるのしかなく、そうでないのが欲しかったが、仕方なかった。
被ってみると、余計に耳が目立った。
影の角度が変わると、鼻がでかいのも気になった。
ドワーフ。
耳と鼻のおばけ。
いずれにせよ人間の姿ではなかった。
帰宅した子の姿に、母親は笑った。
「似合わないんじゃない?」
「どうせ中学生になったら坊主頭なんだから」
ぷりぷり怒って不貞寝。
貧乏人は金の使い方を知らない。
そして、母親は女の子が欲しかったようだ。
夕暮れ、赤い暗闇は少し暗かった。
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