1_74 在原

文字数 3,046文字

キュィィィイイイイイイイイイイイ!
とてつもない金切声が戦場に響き渡る。
それは痛々しい鉄の山、城塞・姫路城mk-Ⅱ・ダイアモンドヘッドの天守より放たれたレーザー光線。
眩いばかりの青白い閃光は一瞬にして辺りを一周する。
「な、なんだっ?!」
”二階堂っ・・目を塞げっ!、はやく―――”
言い終わる前に二階堂の付けているVRゴーグルは防御機能が作動し銀色の幕がバイザーを覆った。
「何が起こった?!状況は?!そっちから確認を―――」
視界が遮られているため状況を把握できずにうろたえた二階堂だったが自ずと耳に入ってきた
隊員たちの強烈な叫び声によりその答えが導き出された。
”ぎゃぁあああああああ!!”
”前が、前が見えないぃぃいいいいいい!”
”目がっ目が見えない!だ、誰かったすっけっ”
”うわぁぁぁっぁっぁあ!来るな!くるな!くるな!助けっ”
”オオオオオオオオオォ!!!”
悲痛な叫び声、助けを求める声、錯乱する声、狂乱する声、銃を乱射する音。
ともすれば激しい墜落音や爆発音・衝突音が響く。
それはこちらに到着寸前であったオスプレイ群パイロットの視界が不能となり、
対空砲火を回避することができずに撃墜・墜落してゆく様子であることは間違いなかった。
「まさか・・・こいつら・・・まさか・・・」
二階堂のワナワナした震え声に省吾が答えた。
”あいつらは やばたにえん とか訳の分からない言葉を使ってましたが
あれはアメリカで冷戦終結後に開発され、そのあまりに非人道的な威力から
国際条約にて禁止された核兵器と同格の対人兵器・アイズブルー”
「戦場の兵士の目を一瞬にして焼いて失明させ戦意喪失兵器・・・
だが実際は戦意喪失どころか二度と視界が回復しない”戦場での即時盲目”」
南山も震え声をあげる。
”話には聞いていても・・・実際に使用されているのを目の当たりにすると戦慄を覚える・・・
もしもあの中に自分がいたと思うと生きた心地がしない”
二階堂は、VRゴーグルをあちこち触って何とかして防御バイザーを解除しモニターを見た。
そこには両目に手を当てながら走り回る隊員やのたうち回る隊員。
視界を失って血の涙を流しながらも仲間と手を取り合い、何とか正気を保ちながら遠くへ離れようとする隊員
・・・・だけではなかった。
”あああああああぁぁぁ!!!”
”うぐううぅぅぅ!ふ、ふふはははははは!”
”ひひひひぃぃぃ!いーひひひひ!”
モニターには目を焼かれた帝国兵士も写っていたのである。
「なんだこいつら、敵味方も関係なしに発射しているじゃないか!」
そして、次の瞬間二階堂は帝国陸軍兵士の真の恐ろしさを見る。
「はあああああ・・・・もはや我が軍は勝ったも同然!古今少佐!後は頼みますぞ!・・・・ばんざーーーーい!!」
ズガ――――ン!!!
兵士が大きな火柱を上げて爆発した。
逃げ惑っていた隊員や仲間の兵士もお構いなしに。
「日本帝国!ばんざーい!!」
「古今少佐、万歳!万歳!ばんざーい!」
「ばんざあああぁああぁぁっぁぁあい!」
目を焼かれたであろう兵士たちが次々と万歳万歳と言いながら自爆してゆく。
辺りの人間を巻き込みながら。
「・・・・なんの、何の冗談だよ、これは・・・あいつら・・・もしや人間爆弾なのか?!」
帝国兵士は皆歓喜の表情で自身の大将である古今少佐や大日本帝国を賛辞しながらはじけ飛ぶ。
「なんでこんなことできんだよ?!ふざけてんのか?!くるってんのか?!大馬鹿野郎なのか?!なあおい―――」
”見たか二階堂、これぞ本物の"万歳"だ!”
無線に在原の自信に満ち溢れた声が飛び込んでくる。
”貴様らが祝い事や喜びごとで使う万歳などではない、自らの身を捧げ、一心同体としての喜び、奉仕の喜び、それは真の万歳。
俺は今喜びの絶頂を迎えている。・・・ぐすっ、おおおおお、なんと誇り高き帝国軍人達だ・・・貴様らの魂は俺と・・・古今少佐と共に
生き続けることを約束しよう、そう、永久に・・・・”
在原の姿を見ることができれば今頃は涙と鼻水を垂れ流しながら敬礼をしているに違いないと
二階堂は侮蔑の表情を浮かべた。
”・・・二階堂、間接的とはいえ貴様には贅沢すぎるが・・・帝国軍人としてわが誇り高き艦に抱かれ死ぬがいい・・・万歳!”
在原の乗る902甲の主砲、対空機関砲、対艦ミサイルが一斉に火を噴いた。
「ヤバい!イーノ!可能な限り総火力!弾幕をっ!」
”間に合うのッ?!”
ドンッドンッドンッ!!!
バンバンバンッ!!!
お互いの戦艦間を飛び交う弾の数々。
それは、外れるものあれば甲板を直撃するもの、スンで爆発するものなどもはやそこは火事場と化していた。
「そういえばイーノあれは使えるか?!あれだ対地魚雷!俺に考えがある」
”どうする気ですか二階堂さん、この魚雷は主に戦車用ですヨ。足止めならまだしも撃墜なんて・・・”
「いいから!俺に合わせてくれ!」
二階堂の操る902乙のキャタピラー群角度を変えて大きく船首を振り、902甲から距離を取るように行動をとった。
”逃げる気か二階堂っ!日本男児の風下にもおけんその振る舞い、軽蔑に値する!面舵一杯---!!”
”おもーーーーかじーーーー!!”
902甲も機敏に反応し、すぐさま後を追う。
そしてすぐに902乙の左舷側に付き、両艦は横並びのようになった。
”てぇーーーー!!”
ダァアアアアアアン!!
902甲の放った主砲が902乙の艦首付近を直撃する。
「くそっ直撃か?!だがチャンスだ、イーノ頼む」
”姉にかなう妹などいない!!お前が妹の方が好きというなら話が別だがなっガハッハハハアハ!
(ガンガンガンガンッ!)---あああぁぁあ?!”
902乙が火柱を上げて沈黙する直前、その船尾より放たれた魚雷艦は902甲の右舷キャタピラーに直撃した。
”右舷五時キャタピラー被弾、損害軽微、至急被弾キャタピラー脱却処理!”
”窮鼠猫を嚙む愚か者が・・・我艦を落とすなど千年・・・・ん、どうした”
在原の元に連絡管が駆け寄る。
”報告します。サーバールームのセキュリティロックの解除が間もなく終わります!
突入号令を!”
”なんというまるで合わせたかのような好機・・・別同班には勲章を与えねば。
よし、さぁばぁるうむ突入後、二階堂を死なない程度に血祭りにあげて連行するのだ!”
902甲のモニターがサーバールームの正面扉を映し出す。
そこには今まさに突入せんとする帝国軍人の姿があった。
”セキュリティロック・・・解除確認!!”
”よしっ!トツゲキィィィィイイイイ!!!”
重厚な対核ゲージが重々しく開き兵士たちがなだれ込んで辺りを掌握していった。
”確認よし!”
”確認よしっ!”
そして、班長を含めた三人がっパーティションに区切られたコントロール席へなだれ込む。
”?!いない・・・なぜ・・・なぜだ!!探せ!”
モニターを凝視していた在原もカラになったコントロール席を見て唖然とした。
”そんなまさかっ、直前まで艦は動いていたんだっ!しらみつぶしに探せっ―――”
モニターに映る狼狽した帝国兵に命令した矢先。
バゴンッ!バゴンッ!バゴンッ!バゴンッ!
針銃の凄まじい射出音が艦首操舵室内響き渡る。
「んなどい?!んーーーなんどい?!」
在原は突然のことに驚愕した。
辺りにいた通信兵、砲手、連絡兵の頭に針銃の針が直撃して貫き、兵たちは目をひん剥いて
カレーパンを食べた罪で処刑されたレーダー技士よろしく舌を出して伏した。
そして、射撃方向であろう艦首出入り口を見て唖然とした。

「二階堂・・・どうして・・・なぜここに」
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