1_X3 古今少佐と二階堂 

文字数 5,575文字

タァ――――ン!

小気味いい音が広間に響き渡る。
それは吹き抜けのはるか先まで伝わるようなおとだった。
「に、に、二階、堂さん・・・なぜ・・・・?」

狙ったのは、中央コンソールでモニターする省吾だった。
決まっていた。
城塞すべての情報を掌握するのであれば。
この手の人間が司令官には適任なんだ。
「二、階、堂さん・・・・どうして・・・・?」
「本当の司令官は省吾、お前だろ。お前も神官なんだから」
それが影武者であれ何であれ。
そして、俺に最も近く、もっとも親しみを感じ、もっとも売りやすい。
「どうして・・・どうして・・・」
思えば気づくべきだった。
六火仙・・・六人だけだと思っていた。
だが、喜撰の弟と出くわした時。
強烈な違和感を感じた。
「にか・・・にかい・・・どう・・・さ」
六火仙隊だったんだ。
ここにいる全員。
そうさ、俺も、お前も。

「省吾・・・最後の最後に俺はツイてたみたいだ・・・・このペン型拳銃に入っていたのは・・・針銃弾だな」
ふと見れば二階堂のガントレットコンソールが激しく輝いていた。

NO.19 THE SUN (太陽) 正位置

「に、に、に゛に゛・・・に゛がい゛どう゛ざあ゛あ゛あああああああああああああ!!!!!!」
崩御する間際、省吾は中央コンソールのガラス版で守られたボタンをガシャンと割る様に叩いた。

ガ――――ン!
凄まじい音と共に、紫電20が二階堂を貫く。
同時にガントレットコンソールが凄まじい音を上げて絵柄が回りだした。

NO.1 THE FOOL
NO.2 THE MAGICIAN
NO.3 THE HIGH PRIESTESS
NO.4 THE EMPEROR
NO.5 THE HIEROPHANT
NO.6 THE LOVERS
NO.7 THE CHARIOT
NO.8 STRENGTH
NO.9 THE HERMIT
NO.10 WHEEL OF FORTUNE
NO.11 JUSTICE
NO.12 THE HANGED MAN
NO.13 DEATH
NO.14 TEMPERANCE
NO.15 THE DEVIL
NO.17 THE STAR
NO.18 THE MOON
NO.19 THE SUN
NO.20 JUDGEMENT
NO.21 THE WOELD



その刹那、二階堂の精神は崩御した―――――

雄々しくそびえる彼と言う名の大木
打ちのめされ、度重なるその痕は
その豊かな枝の葉を次々枯らせ、奪い去り
彼の心と言う名の幹を露わにした

天から飛来した雷はそれを真っ二つに裂き
地まで貫いたのである。

「ンキャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

NO.16 THE TOWER (血反吐・崩壊)逆位置


■■■■■■
■■■
■■■

生きているのか、死んでいるのか
何年経ったのか、何秒経ったのか
存在するのか、しないのか
だけど、自分と言う人間が
まだ存在することは理解できた

遠くの方から声が聞こえる
”・・・・ザー・・・・・・ザーー”

「・・・・・・・・・・・・・」

ノイズ交じりの音が 五感に響く
”にげ・・・・ダッシュツ・・・・”

「・・・・・あああ」

まるで遠い記憶の様だった

”おねが・・・・い・・・・にかい・・・・・・”
「俺は、俺は・・・・」

無線などとっくに壊れているのに
俺の中に入ってきた紫電が伝えているのか

”お願い二階堂さん!逃げて!お願い!・・・ここ迎えに・・・た”
「イー・・・・ノ・・・・」

”がんばれ二階堂!もしも彼らをやっつけたいなら今は逃げて!
逃げることは恥ずかしくなイ、生きて、逃げて生きろ!打ちのめされても!
どれだけ挫けても、逃げて、戦って、又逃げたらいい、そして・・・・生きて、生きて貴方を証明なさイ!
だから・・・・・お願い、上がってきて・・・・・ここ・・・・待ってる・・・地上へ・・・早く”

「・・・・・・・・・・・おれ・・・は」

”走れ二階堂!!駆け抜けろ!”
そのイーノの叫びが二階堂の脳を呼び覚ます。

「ウォオオオオオオオオオオ!!!!!!」


シレイカン シボウ 二 ヨリ トウ ジョウサイハ スミヤカニ イキ サレマス
ゼンタイインワ ハ キンキュウ テジュン 二 シタガイ タイヒ シテクダサイ

count 204.00
正気を取り戻したわけではなかったが二階堂の目に再び生気が宿った。
紫電は拒否反応を受けたかのように二階堂の身体からスルリと抜け出す。
彼はコンバットブーツを脱ぎ棄て、もはや弱まる鼓動を再起動させ、瀕死の身体に最後の鞭をうち、
全力疾走を開始した。
「何故だ二階堂!何故だ、何故なんだ――――――――!!!!」
南山の叫びを背中に受け、その勢いはさらに加速した。

「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
狂ったような叫び声をあげ、一目散に駆け出す二階堂。
先は一見行き止まりのようであったが二階堂が壁目前まで迫ると急にエマージェンシーコールを鳴らして
解放された。
「うううううっぅ!」
悲痛な声を上げながら、まるで何かにおびえる少年の様に逃げる二階堂。
「ひぃいいいい、待て、待て、お、俺も行くぞ二階堂!」
二階堂のすぐ後ろには先程まで集まっていた六火仙隊、帝国兵、果てはウバメまで一斉にこちらに向かって逃げ出していた。
「クソ、天井が、崩れっ、嫌だ、嫌だ、こんな地中深くに生き埋めなんてっ」
「助けっ、タスケテ、ひぃいいいい」
各々悲鳴を上げながらも駆ける帝国兵達。
だが電光石火の二階堂に足でかなう筈もなく息切れするもの、転倒するもの次々に脱落していった。
そしてすぐに先はやってくる。

count 167.21
 〇緊急脱出用シューター(一人用)
ロケットエンジンによる推力で地上まで急浮上します。
必ずベルトを締め、急な重力変化にご注意ください。
そこはパイプオルガンの様に数多くの不揃いのレールが天に向かって伸びていた。
まるで二階堂は吸い寄せられるようにシューターのハンドルを掴んでパネルを叩く。
電子音と共にエンジンに火がついて下部のバーニアが火柱を上げる。
二階堂が急上昇するのを追うように六火仙を始め帝国兵も次々と後に続く。
「ひぃ、ひぃ、ひぃ!」
ハンドルにしがみ付いたまま身体を震わせる二階堂。
下は既に爆発、崩壊が始まりけたたましい音が辺りに響き渡る。
そこに、ハリアー団大伴を始め、他の六火仙隊もがフライングハリアースーツで急上昇して二階堂に迫った。
「逃がすか二階堂!」
「お前の・・・・全部お前のせいだ!」
「許さんぞ二階堂!」
「二階堂ちゃんっ!」
「投薬すればよかったんだよ最初からっ!」
「楽しいですね」
「二階堂!俺と勝負しろ!」
次々に六火仙隊が叫び声をあげるがもはや二階堂に抵抗心は無く、震え悲鳴を上げる。
「も、もう嫌だ!誰か!誰か助けて!助けてッ!」
目前まで迫った時、大伴のバーニアが有らぬ挙動をする。
「な、なんだっ。これはっ、ぐぅ!」
大伴は突然キリモミ移動すると近くの小野へ突撃した。
「がぁああああああ!」
他の者たちも皆同様にスーツの誤作動によって操縦不能になり、次々と奈落へと墜落していった。
「こ、これはまさか?!そ、そうだ、成功したんだ。紫電20はっ―――――――」
文屋が叫ぶも爆炎の中に消えていった。
「古今少佐・・・やはり貴方にここを任せたのは正解でした――たのっ――みますよ」
喜撰はギリギリまで力尽くで持っていたが抵抗は無駄だと諦め自ら推力を落として消えていった。


count 127.62
 〇ナラカエレベータ非常口
”マモナク トウチャクイタシマス トウチャクジノショックニーーー”
シューターが到着し、機体のロックが掛かる前には二階堂はもう飛び出していた。
周りには狼狽や混乱する帝国軍人達がいたがそんなことももう眼中にもないのか二階堂は泣きながら
外へ飛び出し走り出した。
「うあぁああああ、うわぁああああああ!」
目からは大粒の涙を流し、まるでいじめられた子供の様に泣きじゃくりながら全力で走った。
外は阿鼻叫喚の地獄であった。
戦場である。
大日本帝国陸軍があらゆる連合国を相手に轟音を鳴らす。
天は轟、大地は割れ、城塞に火柱が上がる。
夜空を閃光と煙と炎が彩り、人は弾け、戦車はへしゃげり、戦闘機は断末魔を上げる。
二階堂は煤にまみれながらその中を泣きながら走った。
その背後に追手が迫る。
だがその姿ももはや変わり果てていた。
「やい二階堂っ・・・・た・・・助けろっ・・・助けろこらぁ」
「ふざけやがって・・・・ふざけやがって・・・・」
右舷と左舷である。
もう会った頃のような恐怖と迫力は皆無である。
二階堂に負けじとベソをかき、半泣きながら二階堂を追う。
「ち、畜生っどうして・・・・こんなことにっ」
「許さん、許さんぞ二階堂っ!待てっ」
「誰か!誰か助けて!タスケテ!もう嫌だ!タスケテ!タスケテ!」
ただ、助けを請いながら必死に走る二階堂。
右舷と左舷はそれでも必死に食らいついた。
「こんなクソ弱い奴の何が自衛官やねん!それでよう国を守るとか偉そうなことが言えるな!!」
「お前みたいな奴誰が助けに来るかいや!来るかいや!なあ、聞いとんのか!」
その悪態を付く右舷と左舷目掛けて突然爆発した戦車が突っ込んできた。
「んなぁ!?」
右舷が戦車にぶち当たり、血まみれになる。
それを左舷が目を丸くしたとき、異変に気付いて天を見上げた時には遅かった。
ギュオオオオオオオン!
戦闘機が左舷目掛けて墜落してきた。
戦車も戦闘機も電気のようなものを帯びているのが目に見えて確認できた。
右舷と左舷がボロボロになりながら逃げる二階堂の背中を見つめる。
「に、にかいどう・・・・」

count 082.33
「は、ははははは。見ろ二階堂!いつだって俺はお前の先を行くんだ!」
南山がライフルを持って、走る二階堂の眼前に姿を現した。
「さぁ来い二階堂!お前がいればまたやり直せる!俺がいないとお前は駄目なんだっ!
さあ俺と一緒に――――――」
言い終わる前に、既に南山の眼前から二階堂は消えていた。
「?!」
何事かと驚愕し、ふと振り返るとそこには泣きながら走り去ろうとする二階堂の姿があった。
「そんなっ?!ま、まさか成功したのか?!二、二階堂待て。来い!お前がいれば世界など容易い―――!?」
南山は異変に気付く。
自身の持つライフル付属のグレネードランチャーのロックが外れている。
しかも勝手に引き金が動き出そうとしている。
「ば、馬鹿ヤメロ、二階堂っ俺の、俺の話を――――」
グレネードは打ち出され、南山の足元で炸裂した。
大日本帝国陸軍謹製のグレネード弾。
それは強烈な炸裂音と共に大きな火柱を上げ、南山を一瞬にして煤へと変貌させた。

count 051.42
※(イーノと兵は中国語で会話しています)
城塞のやや低空に位置する場所で高速輸送ヘリに乗って必死にレーダースコープで二階堂を探すイーノと解放軍の兵数名がいた。
全員、軍服は着用していたが、国が特定されないよう連合軍と同じものを着用している。
「・・・・・いたッ!あれです、あの煤にまみれながら走ってくる・・・二階堂さんデスッ!
間違いありません、ワン隊員!21時方面に急行して!」
イーノがインカムでパイロットに伝える。
「正気かっ?!この嵐のような銃弾の中ヘリで飛んでるだけでも奇跡と言うのにっ」
イーノの横の上官と思しき兵も顔を険しくする。
「あいつか?・・・・おいおいふざけんなよ、後ろにわんさと兵隊に追いかけられているじゃないか」
「そんなの今更ですよっ!さぁ、早く!」
「くそっ、よりにもよってなんでこんなところで命張んなきゃなんないんだっ!もうどうなっても俺は知らんからな!」
パイロットは悪態を付くと向きを変えて二階堂の元へ急行した。
「奴で間違いないなっ?!ックソ!巨人みたいな奴があちこち群がって来やがる、
情報通りならこれである程度は無力化できるんだな?!行くぞっ」
ヘリ両側のハッチを解放し、迎撃態勢を取る。
「ヘリの7.62㎜(機銃)では駄目だっ。彼に当たる。機関砲を――そうその特注の」
ヘリが急降下し、地面すれすれでホバリングする。
「二階堂さんっ!二階堂さん!こっちだよ!二階堂さん!!」
周りの轟音に負けじと喉がはち切れるほどの大きな声で叫ぶ。
イーノは周りが凄まじい銃撃を始めているのも臆することなくハッチから身を乗り出してヘルメットを外して自らの姿をあらわにした。
軍人とは程遠いほどの麗しき乙女。
「ううううっ・・・イーノ・・・・」
ヘリまで後40メートル余り。
既に最初の勢いは無くなっていたが、それでも走るのは止めなかった。
そして二階堂だけではない。
追いついてきた帝国軍人達も目前に迫っている。
「おいおい嘘だろっ!マジかイーノ?!」
上官が地獄の光景に愕然とする。
「イーノです!迎えに来ました!走って!駆けて!さぁ―――」
その時、ウバメの一部が凄まじいバク転を繰り返しながらヘリに急速に接近してきた。
「ひぃいいいいいい!来たぁ!!!!もう駄目だっ上昇するぞ!」
パイロットは眼前のウバメに恐怖し、思わずスロットルを全開にする。


ヘリが急速に浮上を開始し、地面から遠のいたその時。

「―――――――――手を!」
「うわぁあああああああああああああああ!」

間一髪イーノの手と勢いよく飛翔した二階堂の差し出した手が繋がった。
ヘリが離れると同時に無数の小型ミサイルが付近に着弾し、火柱が上がる。

「おかえりなさい・・・そして・・・初めまして二階堂さん」
イーノはその華奢な身体で煤にまみれた傷だらけの二階堂をしっかりと抱きしめた。

count 002.02
「―――――二階堂、近いうちにまた会おう。その時まで、外出届は私が預かっておく」

そして完全無欠の城塞は内に孕んだ業火を放出してやがて沈黙し、眠りについた。
空の雷雲はいつまでその狂ったようなうねりを上げ、煌めいた。







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