1_33 文屋

文字数 2,561文字

文屋が制御していたのか崩御と同時にベース音が止み、重力が徐々に元に戻った。
二階堂は足に持っていた針銃をリフティングする様に手に持ち換えて
最大限警戒しながら分野の元へ歩み寄る。
もちろん、機能停止したであろう機械の兵隊たちへの警戒も怠らない。
「おい、まだ生きてんだろ。生きてんなら俺の質問に答えろ」
文屋は顔まで覆われているラバースーツの為表情は窺い知ることはできなかったがそれでも
こちらに注力したことは感じ取れた。
「ふふふ、いま・・・さら・・・質問とは、死にゆく者に対する・・・」
「良いから答えろ!今俺のモニターは切ってある、南山の事だ」
「ああ、あの屑の事か・・・良いだろう」
文屋はそう言うとゆっくりと太股についているホルスターにゆっくりと手を伸ばし始める。
「っ!ヤメロ、動くなっ!」
「大丈夫だ、武器は出さん。良い警戒心だ二階堂君・・・」
表情は窺い知れぬものの、その顔は若干のほころびが感じ取れた。
そして小さな6インチほどのスマートデバイスを出すとそれを二階堂に差し出した。
「こ、これには君の欲しがってる情報が入っているはずだ・・・後で見てみると良い。
それよりも、君は・・・南山の事を知りたいのではないか・・・」
二階堂は差し出されたそれを受け取ると、分野に詰め寄る。
「そうだ、あいつは一体何なんだ。俺の知る限りではお前らにここを占拠される前に配属され、蜂起と同時に
逃げ出したものだと聞いている」
「まあ、あながち・・・間違いではない・・・」
文屋はそう言いながら、今度は反対のホルスターからマガジンのようなものを二つ取り出して床に転がした。
どうやら形状から見ると針銃の予備弾倉の様である。
「元々、蜂起を大々的に計画したのはあいつだ」
「はぁ?!なんだと!」
二階堂は予想の斜め上に思わず素っ頓狂な声を上げた。
「鍵際師団六火仙隊を焚きつけたのも、蜂起の計画も、全て南山が立案したのだ。
そして、全てが整い・・・開始と同時に・・・何故か逃走した・・・」
「なぜだ・・・なんなんだ・・・意味がわからん・・・」
文屋は激しく咳き込み、身震いを起こしながら続ける。
見た目にはとても致命傷に至るような傷ではないが、当人は既に風前の灯火である。
「そしてその後・・・ここに来たのは君だ。すぐさま我が隊は情報を収集し、君に接触することにした。
南山が送り込んだであろう真意を知るために」
「大方あの屑はたぶん、古今少佐と僅かの人間しか知り得ない”トップオペレーション”の内容を知りたいのだ」
「トップオペーション?」
文屋はそこで押し黙ってしまう。
「おいどうした?!しっかりしろ、ここで黙るなよ!知りたいのは其処だろうが!」
二階堂が文屋の胸ぐらを掴んだ時、驚愕した。
身体が信じられないほど軽いのだ。
「二階堂君、君が聞きたいのはそんな事じゃないだろう。
この先も生き残り、無事任務を達成する、それこそが帝国・・ゴホッゴホッ!
もう時間だ・・・ここにいる兵や生物は”改良”され・生物を超越している・・・お前が持っている針銃は
唯一崩壊を可能にできる武器だ・・・大事に使え」
「お前も、お前だ。何故俺を助ける?お前は一体・・・」
「私か・・・・?ふふ、君と同じだよ・・・」
「??」
その時、腕のリストバンドからカードを繰る音が聞こえだす。
「嘘だろっ!こんな時にっ・・・」
カシャカシャカシャカシャ・・・。
カードが表示される。

NO.17 THE STAR (星) 逆位置

「星・・・これは逆位置になるのか?それよりも、分っ・・・・!」
二階堂は文屋を見て絶句した。
文屋は既にその人間としての形状を維持できずにへしゃげており、ラバースーツもしわくちゃになっている。
「くそっ・・・文屋、借りるぞっ!」
二階堂は、二階堂が持っていた大型サバイバルナイフをそのホルスターごと、ひったくった。
ピーピーピー。
襟の無線機兼ビデオカメラの骨伝導機からコールが鳴り響いている。
二階堂はおもむろに襟のボタンを押した。
”応答してください!こちらサンダーワン、二階堂さん!”
省吾の焦り声にも気を取られることがなく応答する。
「ああ聞こえてる、大丈夫だ」
”二階堂!いきなり無線やらモニターが途絶えたから心配したぞっ!大丈夫なんだな!”
南山が安堵の声を出す。
二階堂はそれを聞いて、すこしわざとらしいなと怪訝な顔をした。
「・・・南山、タロットの意味は解るか」
少し間が空き、南山は答える。
”ああ、全てではないがな。大アルカナならわかる、小アルカナまでは把握していない”
「今しがた”星”が出た。どういう意味だ」
”どういう意味も何も言葉通りだ。夜空に輝くお星さまだよ”
「星・・・・?」
南山の夜空というフレーズに思わず上の方を見上げると、いた。
宙を漂う戦闘機のパイロットスーツのようなものを装備した兵が二人。
ただ、恐ろしいのはその戦闘機の両翼のようなものは背中に背負い、足にはジェットエンジンのようなものを付けている。
まるでSFに出てくる機械兵のようである。
「大伴二尉、発見しました」
「省吾・・・・!どっから出ればいい!」
”ムカデ団がいた方の壁の奥にダクトがあるはず!そこに飛び込めば外の集積場にいけます!”
”そいつらは大伴子飼いのハリアー団だ!空中を自由に滑空してくるぞ、急げ二階堂”
「オオオオオオオオオオオォ!!!」
二階堂は一目散にダクトに向かって走り出した。
ハリアー団の二人も両足のジェットエンジンを噴射させ一気に二階堂へと滑空していった。
「くそ、くそおおおおおおおおおお!」
二階堂は先程と似た事をしたのを頭でリフレインさせながら、再びダクトに身を投じる。
ゴロゴロゴロゴローーーー。
両手でカメラを必死で守りながら身体を丸め、細いダクトを下へと転がり落ちる。
そして、はじき出されるようにダクトから飛び出ると、全身を凄まじい冷気が襲う。
身体を起こすと、雪で覆われたリフトやコンテナ、テントが点在する広い集積場が眼前に広がった。
暫くすると真上から轟音がする。
「!!」
二階堂が真上を見るとそこには例のハリアー団の二人がパイロットヘルメットの奥から鋭い眼光を
見せ、ジェットエンジンをゆっくり噴射させながら降下してきている。
「・・・・・・し、死んでたまるか。ちきしょーめ!」
二階堂は吐き捨てる様に言うと雪に覆われた集積場を裸足で駆け出した。


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