1_55 小野と僧正

文字数 3,619文字

「散開しろっ二階堂!」
「くっ!」
二階堂は小野の命令に嫌悪感を抱きながらも急いで小野とは真逆の方向に走った。
(クソッ、どっちに向かってくる?!)
駆けながら僧正を警戒するも、彼は下に振り下ろした軍刀を再び構えもせず微動だにしなかった。
(何考えてんだアイツ?!)
二階堂は無防備な僧正に思わずもう撃とうかと一瞬考えをよぎらせたが僧正の事である。
只ですむはずがない。
だがそんな二階堂の不安をよそに奴は撃った。
「死ね僧正!!」
小野は容赦なく僧正に向けてランチャーの引き金を引いた。
「フンっ!」
目にもとまらぬ早業で僧正は軍刀を振った。
それは一瞬空を斬っただけかと思われたがそうではなかった。
キンッっと言う金属音と共に足元に転がり落ちる注射器の破片。
「そんな馬鹿なっ?!」
音速ともいえる速度のランチャー弾を僧正は斬ったのである。
だが、小野も負けてはいない。
「そんなもんはなぁーお見通しよ!!」
次から次へとランチャーから発射される注射器。
それを僧正は素早い身のこなしで避けては斬り、避けては斬っていった。
僧正が小野のランチャーに対応している隙を見て二階堂は針銃を構えた。
(今ならいけるか?!)
今だ自衛隊から遠のいても腕はさび付かないのか、
二階堂は走りながら針銃のサイトを覗いて標準を定め、ブレることなくそれを発射した。
だが僧正も負けず劣らず、針銃の発射音が聞こえるとともに上半身を急激に反らせ、紙一重で避ける。
「やるじゃないか、二階堂・・・だがっ!」
僧正は持っていた軍刀を二階堂に向けて投げた。
それは一直線に、回転することも弧を描くこともなく、鋭い剣先を二階堂に向けたまま飛んできた。
「ぐっ・・・グハッ!!」
「馬鹿二階堂!」
軍刀は太股に直撃した。
そして僧正はすぐさま二階堂に飛んで行き、追撃を開始する。
太ももに刺さった軍刀の柄を持つとそのまま肉を引き裂き、一度引き上げると今度はそのまま両手に構えなおし
そのまま二階堂の胴に斜めに振り下ろした。
「あがぁっ!!!」
「今だっ!」
小野は二階堂が斬られたことにも何ら動じることもなく、僧正に目掛けランチャーを発射した。
だがそれは、僧正ではなく二階堂の腕に当たってしまう。
当たったと同時に注射器が作動し、一気に薬剤が注入される。
「オオオオオオオオオオオォ!!!」
二階堂は斬られた衝撃と薬のダブルパンチにこの世のものとも思えぬ雄叫びを上げた。

「ほらっ言った通りでしょ、おかえり二階堂☆」
「あああ!痛っ・・・・・く無い?」
「まったく、あなたの予測も大したものね」
二階堂は再び”あっち”側に飛ばされた。
煌びやかな調度品、ゴシック調、メイド喫茶な部屋にメイド服の少女の異世界転性。
「こ、ここは・・・ああああ、覚えてる、覚えてるぞ!」
二階堂は再び異世界転性薬を注入されながらもある程度耐性が付いていたのか現実世界での記憶を多少なりとも
保持していた。
「こ、こんなとこにきてる場合じゃない、早く現実で意識を取り戻さなければっ」
「こんなところって酷いじゃない二階堂!」
背の低い少女が言う。
「黙れっ酷いとかそういう次元じゃない、生きるか死ぬかという瀬戸際に・・・・・?」
二階堂はここで少し違和感に気が付いた。
(妙だ・・・この二人、このちっこい少女は覚えている・・・がこの乳のでかい女は誰だ?こんな奴いたか?)
「な、なによそんな目で見てっ。ちょっといくら見つめたって触らせてあげないんだからっ」
その乳デカ少女は顔を赤めらせると胸を両腕で隠してそっぽを向いてしまった。
(なんだこの違和感・・・・ってなんだ?!)
自分の横の壁にある姿見を何気に見て二階堂は驚いた。
最初の来た時とは違う姿の少女をした自分がそこにいた。
顔も似てもにつかないし、今度の体系はちょっとぽっちゃり系だった。
(なんでっ?!一体どういう・・・俺の頭がバグってるのか?!)
そこで二階堂は急に黙り込み、深く考え込んだ。
「どうしたの二階堂・・・顔色悪いよ・・・」
「ちょっとどうしたの、もしかして私があんな態度取ったから機嫌悪くして・・・」
目の前の二人が心配そうに二階堂に歩み寄って背中をさすってくれたり、肩を抱きかかえたりしてくれる。
そんなことにも気にも留めることは無く、二階堂は深く思考を巡らせる。
(この違和感、もう少しで答えが出そうなんだが・・・)
「あ、そうだ。今お茶入れてあげるね☆飲んで落ち着きなよ・・・」
少女はぴょこぴょこ跳ねながらティーセットが備え付けてあるテーブルへと向かった。
「この子また腕上げたのよ・・・他じゃ絶対飲めないアールグレイよ」
肩をさすってくれた乳のでかい少女はそういって近くの椅子に腰かけさせてくれた。
少し待つと紅茶を入れた少女がそろそろとティーカップを持ってきてくれた。
「・・・・はいどうぞご主人様☆火傷しないようにフーフーしましょうね」
「まああなたったら」
小さな少女はカップを持ち上げてフーフー息を吹きかけながら二階堂の口へそっと近づけてくれた。
「・・・あつい・・・・あつい?」
「あ、ごめん!まだ熱い?もう少し覚ましてあげるね」
少女はそういいながらカップをフーフーする。
(あつい・・・・あつい・・・感じてる?俺は薬でラリってるのに?!感覚があるのか?!)
その時、二階堂にある閃きが芽生えた。
急に立ち上がって再び姿見を見る。
「ちょっつ、どうしたの?!」
「もしかしたら、もしかしたらっ―――」
そういって二階堂は姿見の前まで行くとそれをコブシでぶち壊した。

「グハッ!!」
二階堂は再び戻ってきた。
「?!身体、俺の身体!」
二階堂は目が覚めるや斬られた身体をまさぐりだした。
斬られたような跡や破れた服は確認できるもののどう考えてもそれは回復しているかのように見えた。
やはりこの小野に注入された薬のせいで死んでも生き返るような超人になり果ててしまったのか。
するとすぐ眼前で戦う二人が二階堂が目を覚ましたことに気が付いた。
「ふんっ、貴様も晴れて”帝国軍人”か?貴様のようなヘタレっぷりで軍人と名乗るもの恥よ」
僧正は小野のランチャーに付いている銃剣を軍刀で押さえつけ、鍔迫り合いのように取っ組み合いながら
むくりと起き上がった二階堂に言った。
「起きるのが遅い二階堂!貴様それでも日本男児か!そして俺を殺す気か?!」
小野は必至の形相で二階堂を睨みつける。
「斬られていない・・・そうだ、やっぱり俺の読みは正しかった、ならっ」
そういうと二階堂は二階堂は襟の無線機をおもむろにオンにした。

”サ―――――――――――――――――”
さざ波音がした。

二階堂は我に返り、確信する。
そして急に戦い合う二人に向かって走り出すと小野の胸のホルスターについている注射器を奪った。
「っ何をする二階堂?!仲間を裏切るとは、貴様ぁ!」
「黙れ豚!」
そういうと二階堂は首にそれを注射して、再び異世界転性を行った。

「大丈夫、二階堂さん?!」
「うわーん、うわーん。もう、急にあんなことするからおかしくなったんじゃないかって・・・よかった、よかったよぉ」
再び異世界転性した二階堂。
目の前には例の光景が広がっている。
「大したもんだよ、お前らすごすぎる・・・いや、狂ってるっていうのか?」
そしてすぐ隣に目をやった時、その二人はいた。
背の高い可憐な少女、そして、最初の姿をした少女の俺。
「に、二階堂ちゃん。まだ、変なままだ・・・」
「き、今日はもうお店は臨時休業にしてお仕事はお休みにしましょうっ。二階堂さんも・・・」
すると”背の低い可愛い少女”の二階堂は重苦しい声で言った。
「キャストは基本3人」
「え、なに、どうしたの二階堂さん・・・急に怖い顔して」
「や、やばいよ重症だよ二階堂ちゃん、早く病院に」
二階堂はいきなりの事に動揺する二人に向かって淡々と述べた。

「いつ切り替わったのかわわからない。最初の二人、あのイキり野郎兵の二人のところまではたぶん現実かもしれん」

「・・・・・・・・・・・・・。」

「そのあと、キャストは僧正と小野に入れ替わってそれは始まった」

「・・・・・・・・・・・・・。」

「斬られてバラバラになっても元に戻る体、熱い紅茶・・・」

「・・・・・・・・・・・・・。」

「不具合なのか、もともとそういう仕様なのか、キャストの役は一定ではなくランダムに切り替わる」

「・・・・・・・・・・・・・。」

「逆なんだよ、こっちが現実なんだ――――――」
二階堂はフリルスカートの中を素早くまさぐるとそれを取り出した。
それに気づいた二人は急ぎ臨戦態勢を取るが時すでに遅し。
二階堂少女の針銃が二人の額に直撃した。

「僧正、小野。お前らの負けだ」

その瞬間、周りが一瞬にして消え去った。
天井にぶら下がる、巨大なミラーボールは光線を放つその輝きを収束させ周りは一瞬にしてグレーと黒と白の世界になる。

3人の少女は一瞬にして軍服を着た”元”の姿に戻ったのである。
ふと壁の方を見るとルームプレートが掲げられていた。
プラネタリウム室---。

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