1_41 大伴

文字数 2,816文字

「ひぃぃぃ!!!」
二階堂は何とも悲痛な叫び声を上げながら必死に駆けた。
脚は一歩一歩踏み込むたびに凍てつく冷たさを超えた痛みが駆け抜ける。
そうでなくとも二階堂は先程の文屋との戦いにより身体のあらゆるところに切創を受けており、
深手は避けられているものの最早全力で走れることすら奇跡的である。
「はっ、はっ、はっ!」
凍える空気を吸い込みながら走ると喉が裂ける様に痛い、しかし既に追手はすぐ後ろに迫っているため
その苦しさを押し込めて我武者羅に走る。
するとすぐ前方の乱雑に置かれた資材やリフトの中に紛れて雪上バイクのようなものを発見する。
自身の非常事態の為か二階堂の視界は自分でも恐ろしいほど冴えわたり、バイクにキーが付いているのを見逃さなかった。
「うぉおおおおおお!」
二階堂は藁にも縋る思い出バイクに飛び乗り、スタートボタンを押す。
キュイイイイイインと音を立ててバイクがモーター音を上げ、メーター計器やヘッドライトが起動する。
二階堂の表情は一瞬ほころび、直ぐにスロットルを開いてバイクを走らせた。
その時、すぐさま後方に爆炎と轟音が上がる。
「くそっ、お前らマジか?!」
二階堂を追いかけるハリアー団の二人は太股のホルスターに付けている小型グレネードランチャーを装備し、
こちらに向けて撃ってきた。
ドンッドンッドンッ!とハリアー団の二人は互いが交錯しながら射撃してゆく。
だが二階堂も負けている訳ではなかった。
後ろが見えないながらもその規則性を直感で感じ取り、自身の進行先に撃たれまいと巧みに蛇行運転する。
”二階堂、貴様見苦しいぞ!ちょちょちょちょと野兎のように逃げ惑い、立ち向かおうとせず・・・それでも軍人か!!!”
「?!誰だ!!!」
集積場のあちこちに備え付けられているスピーカーから甲高い声が響き渡る。
二階堂はバイクを運転しながら辺りを最大限に警戒するが、夜の為照明が当たっている場所以外は見通しが悪く、
唯一解るのが自身に向けられている放送だという事だった。
”我々の同胞、文屋を亡き者にしそしてあまつさえこの城塞を攻略しようとする愚か者、二階堂よ。
古今少佐は生かすように捕らえろと言ったがそんなこと俺には関係ない。
六火仙ファミリー1の空挺団・ハリアー団とこの大伴が貴様を冥府へ案内してやる。
さあ大人しくフライトチケットを受け取るがいい!!”
(大伴?この声・・・最初にやたらと敵意むき出しで絡んできた奴か・・・・この音なんだ?!)
二階堂の鼓膜に忘れようとも忘れられない嫌な音が遠巻きに聞こえてきた。
(・・・・この音、あの針の音!!!)
そう脳裏に過ぎった瞬間、自身のバイクのヘッドライトを貫通してそのまま今度は
前に刺さった方とは逆の太股をあの”針”が鋭く貫いた。
「んきゃあああああああああああああああ!!!」
バイクは推力を一気に失い、そして二階堂自身も太股への信じられないほどの激痛で一気に崩れ落ちた。
”ギャーギャー喚くな!日本男児なら万歳の一言でも言って見ろ、二階堂!”
二階堂はバイクから転げ落ちるも雪の山につんのめり、何とか衝撃を和らげることが出来た。
自身の顔をその雪の山に無様に埋もれさせ、尻だけを突き出している様を見て後方を追いかけてきたハリアー団の兵士は
ニヤニヤと口を緩ませてその様を眺めていた。
「ふ、ふ、ふ、ふざけるな・・馬鹿野郎・・・」
二階堂は雪に顔を埋もれさせたままか細い声で呟く。
そんな哀れな二階堂に畳みかけるかのように迫りくる二人のハリアー団。
「ぐぞっ!!!」
埋もれた顔を急いで戻し、身を翻してまた駆けだす。
「うぅうううううううう!」
すると、ほんの100メートルほど走った先の眼前には今度は陸自のEV哨戒車を発見した。
バギータイプであり荷台には二基の速射砲を据え付けている。
(なんだ?!なんでこう行く先々に都合よくっ・・・・いや・・・そんなこと言ってる場合かっ)
二階堂はすぐさまバギーに飛び乗る。
もちろんエンジンスタート可能な状態であり、二階堂は直ぐにアクセルを全開にする。
バギーの後輪スノータイヤはけたたましい音を上げて見る見るうちに速度を上げた。
”二階堂さんっそのバギーの速射砲、セントリーガンです!インパネ見て!”
省吾たちがモニターから確認したのか、一面液晶化されたインパネを見るとサイドの辺りに
”セントリーシステム・セーフティロック”と表示がされている。
「やったぜこの野郎!!食らいやがれっ」
二階堂はすぐさまロックを解除し、セントリーガンを起動して後方に向けて射撃を開始した。
ダダダダダダッ!!
二基の速射砲が二人のハリアー兵に向かって弾を放出する。
が、ハリアー兵は上下に巧みに動きそれを交わしてゆく。
「くそっ、とっとと死ねよこの野郎!」
二階堂の捨て台詞も裏腹にハリアー兵は連携ともいえる美しい回避行動を取る。
そのとき、二人の兵は左腕を突き出した。
バックミラーからちょうどそれが確認できたとき、凄まじい爆音がなる。
(ミ、ミサイルだと?!ふざけやがって!)
すぐさま脱出しようと座席を離れるとほとんど同時に超小型のミサイルはバギー後方のバンパーに直撃した。
爆炎が上がりバギーは宙をバク転する様に舞う。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
二階堂は絶叫と共にバギーにしがみ付き身を屈めた。
やがてバギーは炎を帯び、弧を描きながら雪の中に裏返る様に着地する。

”・・・しっかり・・・・・・しっかりしろ、二階堂!応答しろ!がんばれ!”
(・・・・・・・・・・・・・生きてる、まだ、動く)
二階堂は気を失ったのか。
無線から聞こえる今となっては下品にしか聞こえない南山の声でたたき起こされてた。
どのくらいの時間が経ったのか一分なのか、それとも一時間なのか、それは把握することはできなかったが
まだ自分が生きている、それだけは理解できた。
幸いカメラもホルスターに付けた武器も無事の様だった。
バギーの下から雪をかき分けて光の見える方へと這い出る。
そして、ようやく外に這い出た。
「・・・・・・・・・・・・・」
辺りにある照明が眩いばかりに照らしていた。
恐ろしい数のウバメ達。
こっちを見ているものもいれば、雪に埋もれてはしゃぎ回っている奴もいる。
”二階堂・・・こちらからも状況が確認できる。気をシッカリ持て!なんとか・・・”
「・・・・・・・・・・・・」
もう二階堂は考えたくもなかった。
南山の声など耳に入りもしなかった。
脚はしもやけで真っ赤に染まり、身体傷だらけ、爆発の衝撃で体のあばら骨もいっているようだ。
周りはバケモノだらけ、武器はナシ、あっても効かない。
もはやこれまで。
だがその時、頭の中に浮かんだのはあの兵士の一言だった。
”そう簡単にはゲームオーバーにはならない”
またあのジェットエンジンの音が聞こえる。
呆然と上を見上げた時、空から浮遊しながらゆっくり降下する追手も入れた7人のハリアー団が姿を現した。
真ん中の奴に見覚えがある。
「・・・・・・大伴か」
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