1_12 モルモットは放り込まれた

文字数 3,483文字

「ううううっ」
二階堂は僅かに気を失っていたのか、無数のスクラップ山の隅で目を覚ました。
周りを見渡せば角が立っている物や金属物が無数に存在しており、ほどんど生きているのが奇跡である。
「ひっ!!」
眼前には鋭いガラス片が突き刺さっており、恐怖に慄き身を竦ませる。
身体を起こして辺りを見回す。
(10mぐらい上に排出口が見える・・・ここがダストの集積場か?)
壁に埋め込まれた光源の為視界には困らなかった。
ガレキ自体はパイプや金属片、プラスチック等荒物を中心に飲料や食品関係のゴミなども交じっていた。
(どうやら、あの化け物以外に人間もいるのは確かのようだな)
二階堂は襟に付けた小型無線のスイッチを入れて今回のチームに使われる専用回線で南山連絡を取る。
「応答しろ、南山。聞こえるか?俺はまだ死んでねーぞ」
すると、応対に当たったのは南山ではなく任務の通信や情報処理を務める自衛官、元・後輩の省吾(しょうご)が出た。
”こちらサンダー1、大丈夫ですか?二階堂さん”
「省吾か?南山はどうしたっ、痛っ」
二階堂は瓦礫に足元をすくわれながら辺りを捜索する。
”今呼び出し食らって取り込んでます。ってかコードネームは良いんですか?ヤバイですよ”
「ヤバいもくそもねえ、こんなところだとは思わなかった。命が幾つあっても足りん。
省吾、お前も俺のモニターで見てたろ、あの化け物。あれは生物兵器の類で間違いない、国際問題もいいところだ」
二階堂はぶっきらぼうに言った。
”ええ、同じく。外観では人一人いなかったのに潜入早々突然の”あれ”ですからね”
任務開始直後から後方支援として任に就いていた省吾も声を震わせている。
「兎に角だ、あの化け物の写真は撮れるだけ撮った。後はここからとっととオサラバするだけだ、俺はもう帰るからな」
”了解です。とりあえず南山さんから頂いた建築設計データの一部を確認しましたが今二階堂三尉・・・失礼、二階堂さんの
居る所とデータが一致する部分が有ります。そこから直ぐに―――”
省吾が言う最中、急に無線に割込みが入る。
”駄目ネ・・・全然ダメ。二階堂サン、この化け物の事詳しく調べてください。それにこの施設の事もまだ情報が全然足りませんヨ”
「チッ、”イーノ”嬢か?勘弁してくれよ」
二階堂は瓦礫にまぎれた菓子袋を拾い上げ、写真を撮りながら舌打ちした。
無線から聞こえる少し外国人なまりの日本語で語り掛けてきた美しい女性の声の主は同じく今回の作戦でクライアントからお目付け役と参加した
イーノという中国人である。
”二階堂サン、いまはこれチャンスですよ。これだけの”軍事施設”情報端末が必ずあります。それを探して化け物の事、
そしてこの施設の細部の情報を得てくださイ。そうでなければ、ボスは、成功報酬はナシと申してます”
その片言の言い様に二階堂も苛立ちを隠さず反論する。
「あのなあイーノさん、あなたもモニター見てたでしょ?身長だけで2mなんて優に超えている。
おまけに鋼鉄の様な身体、頭があるのかないのか解らない幼児の様な挙動。ふざけんのも大概に・・・・」
”そのための危険手当ですヨ!二階堂サン、すごく金困ってますネ。南山サンも。だから、命張るのは当然”
「くっ!」
ここに潜入した直前の事である。
自己紹介で無線から参加したイーノという中国人嬢様は突然、元の成功報酬に加えて危険手当として”もう一億”出すと申し出たのである。
(自分たちの持っている情報が裏付けされたことで核心に変わったわけか・・・金が増えるとはいえハードルが上がるのは辛すぎる)
”どうします、二階堂さん?”
無線で省吾が心配そうに尋ねる。
「・・・わかった、だが俺はあくまで自分の命を優先させるからな。それだけは忘れるなよ」
”十分ですヨ。任務を継続しましょう”
イーノは自身に満ちた声で二階堂に伝えた。
「ところでイーノ嬢。あんたいい声してるよな。さぞかし美人なんだろう」
”さあ、どうでしょうカ?帰ってから確かめてみますカ?”
それを聞いて、少し二階堂は顔をニヤつかせた。
「ほおー、期待していいんだなっ。後悔するなよ」
”フフッ、大した度胸ネ” ”二階堂さんっ”
無線で省吾が窘めるも二階堂は鼻で笑い、壁に備え付けられていた非常用梯子を見つけてゆっくりと登りだした。
「話が逸れてしまったな。省吾、お前の手持ちの情報はどうなっている?」
”こちらではそこは集積場と書かれています。そこから変更が無ければ通路を経て、中間処理施設、監視室、タービン室などが繋がっているはずです。
ですが私の見ているデータは約50年前の代物です。あまり当てには出来ませんよ”
二階堂は用心深く梯子を登りながら答えた。
「それでも無いよりはマシだ。とりあえず監視室に行こう。さっき見渡した限りはカメラの類は見当たらなかったが既に目撃されている可能性もある」
”ですね、用心してください。装備は例の?”
梯子を登り切り、前にある非常用ドアを片手でゆっくり開けながらもう片方の手でジャケットの脇に手を入れる。
「基地にあるボロボロのP226(自動拳銃)だ。南山に帰ったらぶっ飛ばすって言っとけ」
”無いよりはマシですよ。過去に持ち出し事件も多発したので練習用でも持ち出すのは至難の業ですよ、奇跡ですよ奇跡”
二階堂の持つそれは、自衛官で広く一般的に採用されている自動拳銃だった。
年期が入っているのか、既に傷だらけである。
省吾の会話を聞きながらしながらドアの隙間から見える景色を伺う。
(広い通路だな・・・誰もいないようだが)
そして、勢いよく飛び出して身を竦ませながら後方、前方へと銃を構えつつ安全確認をする。
「やっぱり妙すぎる・・・・人の居る気配が全然ない」
”ここにいないだけでは?”
「いや、普通人の一人でもいれば何らかの気配は感じるはず。ましてやこの規模なら絶対いるはずだ」
二階堂は疑問を感じながら足早に通路を進み始めた。
”何にせよ、まずは監視室に行ってみましょう。そこで情報は得られるはずです”
「了解、前進する」

近いといっても、通路を数十メートルは進んだであろう。
途中いくつか施設部屋はあったがそこにも人間やあの化け物の居る様子もなく結局難なく監視室の前に着いた。
部屋の前にある柱に身を潜め、二階堂は辺りを伺いながら連絡を取る。
「省吾、ちょっといいか?」
”どうぞ二階堂さん”
「ここが建造されたのは約50年前で間違いないんだな?」
二階堂が道中、疑問に思ったことを問いかける。
”ええそうです。手元のデータが正しければそこは約50年前、政府の核シェルターを兼ねて建造された自衛隊の駐屯地扱いとなってますね。
名称は第六セクター”
「信じられない、真新しすぎる・・・・」
二階堂は驚嘆の声を上げる
”真新しい?”
省吾の疑問の声に二階堂は答える。
「モニターでは不鮮明だから解りづらいだろうが壁も通路も建ったばかりのようだ。いま目の前にある自動ドアも、とても50年前に作られた
代物とは思えない」
そう言いながら二階堂はドアを写真に収める。
”ですね・・・確かに昔に建てられたとは思えません。政府が絡んでいるという話ですのでやはり定期的にテコ入れがあるのでは?”
「それだけでは説明がつかないような・・・・よし、いまから監視室に踏み込む。一応あれ使ってみるか」
そう言うと二階堂はカメラのスイッチをいくつか弄り、ファインダーを覗く。
するとファインダーには画面いっぱいにサーモグラフィとして透明ではない自動ドアの奥が解る様に写りこんでいた。
”一応、人の熱源のようなものはありませんね。いくつか熱を持った機械があるようです、用心してください”
省吾もカメラの写す情報がモニターできるのか、二階堂と共に確認する。
「よし、突入するぞ」
二階堂は銃を構えたまま身を屈め、自動ドアのすぐ壁側横に立ってセンサーを手で反応させるとドアが開いた。
身を翻してスッと突入する。
眼前に飛び込んできたのは補助光だけに照らされた薄暗く無駄に広い部屋であった。
やがて照明が反応し、部屋中が青白い明かりで照らし出される。
「・・・・・・・・」
ゆっくりと銃を構え歩きながら、点在する機械類に目を配る。
すると、あることに気が付いた。
(これは・・・・!)
それは部屋の奥に進むにつれて最初は年代物の計器しかなかった機械ものが、やがてブラウン管付きの馬鹿デカいコンピュータ、
パーソナル化されたコンピュータ(所謂PC)、液晶モニター付き、現代に広く普及するようなPC、そして・・・・。
”二階堂さん、それっ”
「冗談だろ・・・」
眼前に現れたのはホログラムで浮かび上がったキーボードであった。
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