1_62 敵前逃亡は死罪?!

文字数 4,904文字

”エアロックは無事に作動したようなので何とか時間が稼げると思います。しばらくは持ちそうです。
ところで大丈夫ですか二階堂さん、モニター越しでもすごい音が聞こえましたよ。”
”百パーセント折れてるな・・・支障がなければいいのだが・・・”
「し、支障・・・?普通なら死んでるぜっ」
そういって背中のものを二階堂は取り出した。
それは僧正に取られたはずのタブレットだった。
”やりますネ、二階堂さん。折角の情報ですが致し方アリマセン”
今まで静観していたイーノがもったいなさそうに呟く。
”僧正に取られたタブレット・・・また取り返していたのか、抜け目ない奴だ”
南山が呆れたように言う。
「あ、当たり前だ。ここまでされて、ただで帰るわけないだろうがっふざけやがって・・・」
二階堂はそういいながら、もはや鉄くずとなり果てたタブレットを投げ捨てた。
”ですが、二階堂さん。悪いことばかりじゃありませんよ。その先のエレベーターが動けばすぐにサーバールームにいけますよ”
省吾はモニターとマッピングシステムを見ながら二階堂に情報を流す。
「また・・・じゃんけんマシーンがあるんじゃないだろうなっ・・・悪い冗談だぜ・・・あんな」
”またじゃんけんしてズコーで今度はエレベーターごと真っ逆さまか?笑えるな”
「笑えるか!」
まるで他人事のように物を言う南山に二階堂は思わず叫んでしまった。
すぐにハッと我に返り息を潜め、物陰に隠れながらエレベーターを目指す。
だが、先はそう簡単に進めるはずもなく。
エレベーターホールに着いたと同時に開かれたドアから現れたのはウバメ達。
筋肉隆々の煌びやかなシルバーメタリックの身体を輝かせながら両手の指先を股間の前へ持って行き
ピッピッっと弾き飛ばすようなしぐさをしながらリズムよく迫ってくる。
「うぃ!うぃ!うぃ!」
「クソが――――!!」
二階堂は踵を返し、横道に入る。
”二階堂さん、先にエアダクトがあります。そこから、搬入用のエレベーターの方へ行きましょう”
「うぉおおおお!」
傷ついた身体をものともせず、二階堂はその身体能力を生かして天井に空いているエアダクトへ飛び込んだ。

NO.6 THE LOVERS(恋人) 逆位置

ズリズリズリズリ・・・・・。
自衛隊仕込みの匍匐前進で必死に狭いダクトの中を這いずり進む。
ピーッ
「?!何の音だ!」
ウィ――――ン、ガシャン!フィイイイイイイイイイイイイイイン!
二階堂はそれが何なのかすぐに解った。
後ろの方で衝撃が走り、そのマシンはけたたましい回転音をさせながらゆっくりと二階堂へ迫ってきた。
痛々しいローラーを付けた粉砕マシンだ。侵入者対策なのか一直線に迫ってくる。
「オオオオオオオオオオオォ!!!」
匍匐前進のスピードが自分でも信じられないほどに凄まじく早くなった。
フィイイイイイイイイイイイイイイン!
すぐそばまで迫りくる粉砕マシン。
「ひ、ひいぃいいいいいいい!」
悲鳴を上げながら必死にあがく。
フィイイイイイイイイイイイイイイン!
足元まで迫ってきたのが解る。いよいよそのつま先に狙いを定めたといったその時。
ガダンッ!
「ッ!!!」
二階堂の這っていたダクトは幸か不幸か床が抜けた。
2mほど落下して踏みつぶされたカエルの様にビタンと床に打ち付けられる。
「ううううっくそっ・・・ひっ!」
ショックを受けた、体を震わせながら身を起こして顔を上げた時、そいつは現れた。
「・・・・・・・・・・。」
「う、う、う、こいつは・・・・」
するとモニタリングしていた南山が無線で二階堂に切羽詰まった声で警告する。
”ヤバい二階堂!そのウバメはヤバい、針銃持ってるだろう、早く撃て!”
「な、ウバメ、なのか?」
それは今まで見てきたウバメではあるが、僅かにゴールドを帯びてより屈強に見えている。
が、それよりも目を引くのは先のウバメに見られたような無邪気さがなく、身長も若干高い。
特に表情は無表情なのかそれとも冷酷なのか、静かな怒りの炎を燃やしているのか。
兎に角恐ろしい威圧感であった。
「くっ!」
二階堂は無線の助言を聞き終わる際には既に針銃を構えていた。
奴の身体に向けて引き金を引く。
バチンッ!!!!
その小さい銃からは想像もつかないほどの破裂音と共に周りの空気が歪み、針は射出された。
電光石火の針は体に直撃し、大きくのけぞった・・・が。
「くそっ、おい南山、これはウバメにも効くんだろうが!」
”その筈だ・・・少し待て、動きが止まった様子が見たい”
ここにいる特別な兵などとは違い、あまりダメージが入っているようには見えない。
そして。
「ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!」
「ぐぁああ!!」
鼓膜が裂けんばかりの雄叫びを上げられた。思わず耳を塞ぐ。
そして無表情のまま腰を入れて怒った様にこちらに前進してきた。
「畜生が!!!」
再び針銃を発射する。
射撃と同時に大きな衝撃が走るが二階堂は別の意味でもショックを受けた。
針銃を見ると明らかに次弾装填するためのスライドにロックが掛かっている。
弾切れなのだ。
「う、嘘だろっ?!二発しか打てないっていうのか?!」
そして、再びウバメを見ても多少のダメージが見受けられるものの致命傷には至っていない。
ウバメは態勢を元に戻すと二階堂をとらえるや否や凄まじいタックルを見舞った。
「!!!!!!!!」
ズダ―――――ン!!
頭の中ではじけるような音がした。
二階堂の身体は宙に浮き、先程の兵にバットで打たれた以上に吹っ飛ばされた。
広い廊下30mは飛ばされたであろう二階堂はかろうじてその身を壁に打ち付けられることは無かったため。
致命傷のダメージは何とか避けられた。
「かっ、かはっ!か!」
”二階堂、大丈夫か?!”
”ヤバいです、二階堂さんこのままじゃ・・・・”
「うううぅ・・・」
二階堂は、ブルブル震えながら医務室に寄った時にくすねておいたプッシュ式の鎮痛剤注入器を首に押し当て
命からがら使用した。
即効性があるのか、震えながらも何とか身を起こすことができた。
その時イーノが興奮気味に二階堂に言った。
”サーバールームです、二階堂さん、ゴールですよッ!”
二階堂が霞んだ目ですぐ横を向くとそこには合金やら機械で覆われた大きな扉にserver roomと書かれていた。
”チャンスだ二階堂。サーバールームは重要データ保持のためその部屋は核シェルターのような作りになっている
扉もしかりだ、早く入れ!おい省吾、ロックは?!”
”今調べています!とりあえず二階堂さん、何とか頑張ってサーバールームの扉の前まで行ってください”
「く・・・そ・・・・が・・・」
二階堂はふと後ろを見ると、急ぐこともなくただ歩いて迫ってくるウバメがいた。
身体を震わせながら、何とかルームの扉へとたどり着く。
”二階堂さん、何か端末とかロックされているものはありませんか?あ、ちょっと待ってこれな―――”
省吾の無線を聞き終わる前に、二階堂は扉を見回してロックを操作する端末のようなものは無かったが
掌のようなマークが有ったので無意識うちに指でそっと触れた。
すると、扉はロックが掛かっていなかったのか轟音を立ててあっさりとすぐに開いた。
”よかった、すぐに入れ二階堂。省吾ッ!何をやっているんだっ!”
南山と省吾が無線で何か騒がしいが痛みで心ここにあらずの二階堂はふらふらと吸い込まれるように中に入った。
”す、すみません二階堂さん。シェルターのようなものなら入ってすぐ横にレバーがありませんか?
すぐに作動させてください!それでロックが掛かるはずです”
「・・・・これか・・・フン!うううううぅおりろぉおおおおお!」
二階堂は痛みで力が入らなかったが全身で渾身の力を込めてレバーを何とか引き下ろした。
間近に迫ってきたウバメを前に扉は急速にロックされ、事なきを得る。
「あーあーあーあーあー」
声なき声を上げる二階堂、その目にはもはや生気を感じられなかった。
”よくやった二階堂、すくなくともこれで時間はだいぶ稼げるはずだ―――”
南山がそういったとき、その無線からサイレンのような音が聞こえていた。
「なん・・・・だ・・・・」
すぐさま省吾の焦りに満ちた声が聞こえる。
”そうなんですよ南山さん、間違いありません。ああ、いいですか二階堂さんよく聞いてください。
そこならまず大丈夫でしょうが信じられないことに――――”
「・・・?」
”今北陸の陸上自衛隊第二旅団がここを取り囲んでいます。IFFも確認しました、間違いありません”
「冗談だろ―――」
”二階堂、そこは基地内をモニターする場所があるはずだ、なんとか探してくれないか?”
南山に言われて、しぶしぶへたり込んだ腰を上げ、辺りを見回す。
サーバールームは思いのほか広く、見渡すだけでいくつか区画に分かれており
奥には高い吹き抜けのような天井の場所もあるようだった。
その中央にたくさんのモニターが備え付けられた船の操舵室のような場所があった。
「あ、あれか」
ヨロヨロとそこへ行き、省吾に言われたままパネルを操作する。
すると一斉にモニターが点灯し、様々な状況や情報が映し出された。
無数につけられてスピーカーから無線も聞こえる。
「これは・・・自衛隊の無線を傍受しているのか?」
”二階堂!それだ、そこの無線の音量を大きくしろ”
言われるまま、ボリュームダイアルを上げるとそこには聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「これは・・・間違いない、古今少佐と・・・側近の一人か?」

”これより状況を開始する、総員――――――”
「愚か者よ・・・何が”状況”だ。そんな温い言葉を使うからお前たちは日に日に腑抜けるのだ」
「古今少佐!」
古今少佐は肩にかけたコートを宙に投げ捨て、号令を出した。
「総員、”戦闘”を開始せよ。セントリーAAガン、薬師丸(対空ミサイルシステム)総火力!!」
「了解、総員戦闘開始。直ちに敵を迎撃・殲滅せよ!ウバメ集はAS点の地上部隊を中心に対応に当たれ。
戦闘集団は第二迎撃・戦闘行動をとれ!、すべての敵の息の根が止まるまで攻撃の手を緩めるな」
「無論敵前逃亡は死罪!勇めよ大日本帝国兵!進め命のある限り!是が非でも!」
あらゆる飛び交う無線とモニターに映し出される哨戒機や戦車、装甲車に二階堂の顔はみるみるうちに青ざめた。
「信じられん・・・こんなことが・・・もう夢だと言ってくれ・・・」
敵味方多数の無線が交錯する中・・・片隅の第八カメラと文字が書かれたモニターに気になるものを見つけた。
それはこの基地の全貌と辺りの光景を映し出したものであったが
手前の隅の方に記念碑のようなものをが写っていたのを見てを二階堂は絶句する。

「姫路城MKーⅡ・・・・・」

「は、ははははは、馬鹿じゃないの・・・馬鹿じゃないの・・・・ふざけんな、もう、死ね、みんな死ね・・・もう死ね」
二階堂は力ない足取りサーバールームの奥へ進む。
”おい二階堂、どうした?どこへ行く?!二階堂!”
南山の叫びも耳に届かず、二階堂はそのまま暗がりを進んだ。
中ほどへと進んだ時。
ピッ!
何らかのセンサーが作動した。
シュッ!ギュルギュルギュルギュル!
柱からワイヤーような仕掛けが飛び出し、二階堂の両脚はグルグルと一瞬のうちにワイヤーに巻かれ
終端のマグネットによって固定された。
無様に倒れこむ二階堂、その顔にもはや生きる気力は無かった。
暫く放心したのち、ふと奥を見ると信じられないものが飛び込んできた。

白馬に乗った骸骨である。
それはきれいな鎧をまとい、鋭い鎌を持ったままゆっくりとこちらに近づいてくる。
二階堂はもう抵抗する気力もなく、ただそれを呆然と眺めた。
なぜか、見ていると落ち着くのである。
白馬は二階堂の前で止まり、やがて鎧の骸骨が下りて鎌を地面に突き刺すとそのまま二階堂の元へ
近づいて跪いた。
「??」
そして、ゆっくりと、やさしく、二階堂を抱きしめた。
その骸の表情は窺い知ることはできなかったが、なぜか深い悲しみと慈しみが二階堂に伝わってゆく。
やがて胸からゆっくりあふれ出る血。
二階堂はその骸骨から放たれるやさしさに包まれ、血の涙を流しながら、やがて瞳を閉じた。

”二階堂、どうしたんだ?!応答しろ!二階堂!”

NO.13 DEATH (死神)正位置

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