1_75 在原

文字数 3,066文字

戦艦戦が始まる、直前の事。
それはサーバールームのコントロール席にいるときである。
「なぁ、直接902乙に搭乗することはできないのか?」
”なんですって?!”
突然の二階堂の申し出にサポートする一同は驚いた。
「イーノ、これは世界でも数隻もない最新鋭の陸上艦船とやらなんだろう?だったらこれに乗って逃げる手はない」
”だが二階堂、お前はさっき隊の人間を助けると――――”
南山が言う前に二階堂はそれを遮ってものをいう。
「俺が入隊してまだ間もないころ・・・今までで出会ったことのない、そしてそれ以降もいまだ会ったことのない
性格ババ色ワーストワンのクソ教官が言っていたよ
”お前らなぁー自分も守れないような奴が他人を守れるなんて思ってるんじゃないだろうな?
このクソ勘違いイきりガキども――”」
二階堂はその思い出をリフレインしているのか語気が強まる。
”でも二階堂さん、それは精神面を鍛えるためのあえての挑発―――”
省吾も多少なりとも似た経験を持っているのか二階堂を窘めようとする。
「確かにそうさ、だが実際考えてみろ。
俺はあいつらを助けたい気持ちは十分にある。だがだからと言って身を投げ出せというなら話は別問題だろう。
あのクソ教官が言っていたことはそういう事さ。
なぁ、何とかここから乗り込む方法はないか?」
二階堂はそう言ってコンソールを弄りだす。
「クソッ・・・格納ドックはここから遠いのか・・・そもそもここは地下だ・・・何とかして」
”一つ、やれることがあるかもしれません”
イーノが焦る二階堂に提案を呼び掛ける。
「やれること?ここからドックまで行く方法があるというのか。この核シェルター室の外にはあの金ぴかのウバメが鎮座してるぜ」
イーノはある図面を見ながら、いきなり懐から算盤を取り出すと凄まじいスピードではじき出した。
”この時代に算盤とは・・・”
南山がイーノの映るモニター見ているのかしきりに感心している。
”こんな素晴らしい文化を時代の隅へ追いやろうとしている日本人はどうかしていますヨ”
パチパチパチパチッーーー。
パチパチパチッーーー。
ザっ。
”二階堂さん、こちらから行くのが難しいのなら。向こうから来てもらえばいいのデス”
「なっ」
イーノはコンソールを弄って902乙の兵装一覧を表示する。
”この地中魚雷を使いましょう。この質量なら計算では出口まで十分に届くことができます。
いいですカ?そこの核シェルターを兼ねたサーバールームは緊急脱出用上昇シェルターが備えておりますが
地下2階までの兵装室までしか浮上しません。しかもそこから地上まではまだ距離がありまス”
二階堂はイーノの考えが徐々に読めてきた。
「待てまさか―――」
”このサーバルームの真上、兵装室付近つまりDエリアに魚雷で穴をあけるのデス。
幸いここは地上の鋼の城塞である本部より少し離れた地下です、もしも装甲が薄ければ可能性は十分にあるはず”
イーノの説明に南山が話に割って入る。
”だがそう簡単にうまくいくものか?明らかに不自然な行動になる、敵に悟られる可能性が・・・”
”なら戦闘の混乱に乗じて行動をとればよいのデス。敵の高射砲、もしくは他の車両や同型艦があれば”
”二階堂さん・・・どうします?”
眉間にしわを寄せ、少し考えを巡らせたのち答える。
「・・・やってみる価値は、あるかもしれん。なんにせよ、ここから出るのが最優先だ」
”わかりました二階堂さん、今回誘導は私がしましょう。とりあえずは、遠隔操作で902乙を・・・ああっ、でもそのあいだに
サーバールームにあるデータを多機能一眼レフにつないで時間の限り送ってくださイッ!!”
「ちゃっかりしやがって・・・しっかり頼むぞ。よし省吾、遠隔操作を・・・902乙”出港”する。」

NO.5 THE HIEROPHANT (法王) 逆位置

―――902甲艦首、オペレーションルーム
「902乙が撃墜されたときには焦ったが・・・本来の目的の穴さえあけられれば十分だ。
それにこうやって902甲という姉妹艦が手に入ったんだ、結果オーライだよ」
二階堂は針銃のサイトを在原の頭に合わせる。
「そうか我艦を奪取し逃げる算段か・・・愚かな、愚かな二階堂っ、貴様我同胞の”万歳”をあれほど眼に入れてまだ何も感じぬとは・・・破廉恥に加え、傍若無人であるとは貴様それでも帝国――」
「もう聞き飽きたっ!それにだっ、なぜ俺を帝国軍人扱いしようとする!?
俺は元自衛隊とはいえお前らの仲間ではないし志を引き継いだ覚えもない!!」
そういった矢先、在原は”喝ッ!”と叫んだ。
「甘えるなっ!!」
「!?」
「お前は何かの主人公にでもなったつもりか?いつもそうやって自分一人で生きてる面をしているつもりか?
目標はないのか、指標はないのか、夢は?希望は?未来は?どうなんだ?」
”耳を貸すな二階堂、周りに注意しろ。時間を稼ぐか何か企ててるに違いない”
南山が在原のセリフに反吐を飛ばす。
「忘れていないはずだ二階堂。
貴様は仲間と共に手を取り合い、肩を抱き合い、国家の為、日の丸の為に生きていたはず―――」
「う、う、う、う、う、う、ヴ、ヴ・・・」
”どうしました?!二階堂さん?”
二階堂が針銃を構えていないいない方の手でこめかみのあたりを必死に抑える。
「頭が・・・イタイ・・・」
”二階堂、とっとと在原を撃てっ。こちらから902甲の操舵を―――”
「わかっているぞ南山・・・さっきからベラベラとモノしか言わん知れ者が」
無線は二階堂のみに伝わる直接通信にもかかわらず、在原はまるで自分には筒抜けであるかのように言った。
「・・・まあいい二階堂。貴様にもいずれ解る、我が大日本帝国軍人がなぜこの現代で突如としてその存在を
明るみにしたのかを――だが今はまだ”答え合わせ”の時ではない、さらばだ二階堂」
そういうと、在原は天に向かって両手を上げ高らかに叫んだ。
「我が天に召します日乃本の神”アマテラスオオカミ”よ!日乃本に光を―――御幸有れ!万歳---!」
”やばい!玉砕か?!”省吾が叫ぶ。
「うぉおおおおお!!」
二階堂は激痛に襲われる頭を必死に抑えながらよろつきながら床にへばる。
在原の上半身ははじけ飛んだ。
オペレーションルームは血と肉片と”ベアリング”の塊があちこちに飛び散っている。
”大丈夫か二階堂?!”
「・・・ぐぐっ、当たらなかったのは奇跡といったところか」
苦悶の表情を浮かべながら二階堂は立ち上がる、その時。

センチョウ シボウ 二 ヨリ トウカンハ スミヤカニ イキ サレマス
ノリクミイン ハ キンキュウ テジュン 二 シタガイ ダッシュツ シテクダサイ

「ふ、ふざけるなっ、ここにきて諦められるかっ、省吾聞いてるか?今端末を繋ぐ何とか―――」
二階堂がそう言って手前のコンソールまで行ったが既にすべてのモニターが赤一色でカウントのみが表示されている。
0172 sec
”だめです二階堂さん、そのモニターを見ると後三分もない――”
省吾が叫んだとき、二階堂の足元辺りから不気味な振動と轟音が鳴り響いた。
”既に自爆行動が始まっているっ、弾薬から爆破していくつもりだ!早くそこを離れろ二階堂!!”
「そ、そんな、千載一遇のチャンスなのにっ!ここまで来てまた地獄へ逆戻りかッ!」
そう言っている間に辺りの警報器が一斉になりだし、902甲のキャタピラーが次々とパージ(爆発による切り離し)してゆく。
”二階堂っ!”

「クソッ!クソッ!くそぉおおおおおおおおおおお!」
雄叫びを上げ、湧き上がる憤りを拳に込めて目の前のモニターを叩き割ると踵を返して急ぎ二階堂は駆けだし
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