1_13 モルモットは放り込まれた

文字数 4,360文字

「信じられない・・・」
二階堂がホログラムのキーボードに手を触れると反応を示して眼前にモニターが浮かび上がった。
それを見た省吾が声を荒げる
”待って二階堂さん、それ、そのモニターを良く見せて”
省吾は自身の手元の端末を操作しながら、二階堂のジャケット襟に仕込まれた映像カメラから
来るデータと照らし合わしながら何かつぶやいている。
”二階堂さん、手元に入力できるようなコンソールあるでしょ?”
「ああ、これ・・・か?」
二階堂はトラックボールと無数のアルファベットが表示されているパネルにそっと手を触れると操作アイコンのようなものが
表示された。
”間違いないよ、それは隊で今度導入予定の管制システムの一部だ。でもまだ完成どころかデバッグすら済んでないと
聞いているのに・・・”
省吾はそう言うと自身の持っているタブレット端末を取り出すと色々弄りだした。
”二階堂さん、もしそれが動くのならここの情報を引き出せるかもしれない”
それを聞いて二階堂は息巻いた。
「ならとっとと急いで情報を探ろうぜ、幸いログインコードやパスコードも必要なく動いているみたいだ。
画面は見えているんだろう、指示をくれ」
”待って下にいくつか項目があるだろう、そのうちのパーソナルという項目を開いて”
「了解、待ってろ!」
省吾の指示を聞きながら二階堂はトラックボールを巧みに操作していく。
”どう?画面を見せて・・・・・・なぜ、ほとんど全てが空白・・・・?”
辿り着いた先はデータベース項目であったがいずれも空白の状態でその他もこの処理施設に関連する
物が幾つかある程度であった。
「冗談だろ・・・なんか、裏コードとか隠しファイル的なやつとか・・・なんとかならないのか?」
”ゲームやアニメじゃないんだから、それにこの手の物は全て・・・・待ってストップ!!”
スクロールする画面を釘居る様に見つめていた省吾が静止の声を上げた。
「どうした!?」
”そこそこ、一番下のっ、指導に関する注意事項ってやつをっ。ただの覚書のテキストファイルみたいだけど
こういうのが一番ネタになる!”
二階堂は指示通りに無数のパネルの中から覚書のテキストファイルをオープンした。
”・・・・何語だ?全く読めん”
省吾はあまり見慣れない文字を自動翻訳に掛けようとたところでイーノが割って入った。
”それはギリシャ語ですネ、ドイツ語も交じってますね、ウバメンチと。日本語で鉄巨人と言ったところですが・・・”
「鉄巨人・・ウバメ・・・あいつらの事かっ?」
二階堂は先程の逃走劇が頭をよぎり、背筋がぞっとした。
”待ってくださいねそのまま・・・六火仙隊B班は・・・・・・データ・・・監視本部に・・・F塔調整室にまで”
「六火仙隊、監視本部、ウバメ、どれも知り得ない情報じゃないか」
二階堂はイーノの翻訳を聞きながらコンソールを操作しテキストをスクロールさせる。
”まって、そこにショートカットキーがあるっ。二階堂さんお願い”
「任せろ」
ショートカットキーを押すと、先程の空白だらけのデータベースとは違い密のあるデータ域にたどり着いた。
”チャンスだ二階堂さん、カメラから接続ケーブル引き出せるでしょ?!何とか接続部分に合うところない?”
「ちょっと待てよ・・・・・・・あるあるあるぞ、机の下部奥に・・・」
二階堂はホログラム端末の置かれている机の下へ潜り込むとケーブルを繋いだ。
”そのままで、いい、こっちから操作できるみたいだから一旦カメラ側のストレージにっ・・・・”
ガーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!
突然の破裂音に二階堂は戦慄しそのままの姿勢で硬直した。
動きの止まった二階堂とヘッドホン越しでも聞こえてきた破裂するような物音に省吾も思わず固まり息を飲んだ。
机の僅かな隙間から音の発信源の方を見ることが出来たので恐る恐る覗き見る。
(!!!!!!)
大きなスチール製の扉を蹴破って入ってきたのは兵隊だった。
群青色のコンバットスーツに身を包み、スリムなヘルメットを装着している為顔まで伺えなかったが先程の化け物とは打って変わって
そのシルエットは紛れもない人だった。
(あれが六火仙隊か?1、2・・・入ってきたのは全員で3人か?どうするよ?)
思案する最中、省吾が耳打ちする様に語り掛ける。
”二階堂さん、誰か入ってきたんですね、とりあえずそのまま聞いてください。後一分もすれば先頭のデータだけでも取れます。
終ったら合図するので直ぐにケーブル引っこ抜いてください。後は何とか二階堂さんの方で凌いでくれれば”
(冗談だろっ・・・この状況で凌げって・・・・)
省吾のまるで他人事のような物言いに少し腹が立つも二階堂はジャケットの中に手を忍ばせて拳銃に手をかける。
(この状況下だ・・・・足ぐらいを撃って戦意喪失させるぐらいなら大事にもならないしまして公にもなるはずなんかない)
そして二階堂は解らないほどの小声で呟く。
「・・・やる、しかないか」
だがその時、入ってきた隊員の一人が信じられないようなことを口にした。
「おいダボ、どっかおんねやろ!早よ出てこいやボケ!」
(関西弁!?・・・・ヤクザの様な悪態に・・・・こいつら冗談だろ・・・・)
思わず二階堂は呆気に取られてしまう。
向こうからは二階堂の姿が確認できないのか、各々がゆっくりと動き出し二階堂の捜索を開始した。
(ゆっくり、向こうの気配を感じて・・・・何とかやり過ごせれば)
二階堂は敵隊員の動きに合わせて物音を立てないように机の下側を這う。
動きつつ自らの心臓の鼓動に張り裂けるような思いをしながら必死にやり過ごせるよう隠密に徹するが
二階堂は既に気が気ではなかった。
(だめだ心臓の音が、耳にまで届くようだ・・・緊張するな・・・落ち着け・・・)
その時、眼前に敵隊員の足が飛び込む。
(あ、あ、あ、あ・・・)
「んん~どこにおんねやろうなぁ~」
そのわざとらしいような物言いに二階堂は既に自身を捉えられていると判断し、
銃を手にして机下から前転を繰り出しながら飛びだした。
「動くなっ!!」
二階堂は真っ先に一番近いものに銃を構え、警告した、のだが。
「は、なにこいつ?”動くな”だって、ダサッ」
その隊員の物言いもさることながら二階堂は改めてみた敵隊員姿に一瞬思考が止まる。
(なっ!・・・全員丸腰(武器ナシ)だと?)
彼らは皆体格が良く、戦闘服に身を包みながらも屈強であることは容易に想像できたが
まさかこのような軍用施設のようなところで手ぶらだった。
そしてその敵隊員三人は二階堂を見ても動じることも無くそれどころかゲラゲラ笑いだした。
「こいつダボやで・・・なぁ?」
「ホンマアホちゃうん、ブチノメシタロカ?」
「でもこいつなんかめっちゃ面白そう」
二階堂は彼らの言い様にもはや眩暈を感じる。
(な、な、な、な、な、どうなっているんだ?ま、まさかここまで来て冗談なんてことは・・・)
そして思わず無線で突拍子もないことを確認する。
「なあ省吾、まさかこれ、壮絶なドッキリってことないよな?」
僅かな間を置いて、省吾が答える。そしてその声は、僅かに震えていた。
”二階堂さん、こいつらの軍服は・・・NATO軍の次期特殊作戦群が装備する予定の物です・・・
資料を前に見ました、私も現物を見るのは初めてで、でも、なにが、いったいどうなって・・・”
もはや、予想外の連続に省吾もやや錯乱していた。
と、そこに。
「おい二階堂、お前それでどないすんねん?撃つんかいや?おーじゃあ撃てやオラ」
「俺の名前?!傍受されていたのか?」
自身の名前が敵に知られている。それが無線の傍受なのか何なのかは知るすべもないがもはや
この部の悪さに頭の中が真っ白になりつつあった。
「ええから早う撃ていうてんねんなぁ、ぶち殺すぞオラ」
少し離れた敵隊員が二階堂を焚きつける。
その兵隊らしからぬあまりの態度の悪さに二階堂も思わず挑発に乗りトリガーの指に力を込めた。
「ああそうかよ、じゃあ死ねよ!!!」
”二階堂さん?!”
ダンッ!と乾いた音が響き渡った。
敵隊員は撃たれたその身体の胸の個所をジロッっと眺めている。
・・・・・・・・・・・・・・・無傷だ、穴どころか傷すらついていない、そして敵の足元には二階堂の撃った弾が転がっている。
(防弾ベスト?!なんかじゃない、弾をはじくなんて見た事ないっ)
「なんだ、なんだお前らっ」
二階堂はたまらず続けざまに発砲を繰り返した。
額、肩、胸、腹、股間、足、腕・・・・あらゆる場所を撃っても穴が開くどころか相手は微動だにしない。
「そんな、そんな、そんな、うううっ、そんなっー------------!!!!」
「馬鹿かお前!」
「底抜けのアホやろ」
「マジ屑」
笑い転げる三人を前に二階堂は撃ち尽くしてスライドロックが掛かった拳銃を力なく下した。
と、そこに。
「うぐうっ!!!」
いつの間にか歩み寄っていた一人の敵隊員の膝蹴りが二階堂の腹にもろに入る。
「お前よ、さっき言うたよなぁぶちのめすってなぁ!」
「こんボケよぉ!」
「マジでシバこうぜこんボケ!」
敵隊員三人は床に弓なりに疼く二階堂を取り囲み、足蹴りによる壮絶なリンチを開始した。
「おおおおぉおおお・・・・・オオオオオオォォォ!!!!!!!!」
”二階堂さん!!絶えて!急所を守って・・・できるだけ・・・”
信じられない力で蹴られる最中、省吾の声が僅かに自身の頭にこだました。
敵隊員はひとしきり蹴るのに満足したのか、ボロ雑巾のようになった二階堂を見下ろしていた。
だがそのまま拘束されると思いきや誰一人二階堂を拘束するものはおらず、そのまま踵を返して部屋から出ようとする。
(・・・・嘘だろ、な、なんの、、、ために・・・)
「ああーおもろかったわ」
「蹴りすぎてマジ足痛い」
「おい二階堂!お前・・・・・・・・簡単に” ゲームオーバー ”なれるとか考えんなよ!」
そう言ってまた三人はゲラゲラ笑いだした。
(あ、遊んでるのかっ・・・・この俺でっ!!)
二階堂は全身の痛みと敵の態度に、もはや気がふれそうだった。
そこに敵隊員一人が二階堂のもとに戻ってきてカードサイズの液晶パネルの付いたリストバンドを落とした。
「あーやるよそれ、それがあると便利だと思うぜ・・・・・・・・俺はな?」
(・・・・なんだ、何を落としていった?)
そしてまた隊員たちは何か言いながら部屋を後にした。
途端に静まり返る室内。
暫くうずくまっていた二階堂は身体を震わせながら、ようやく身を起こした。
「うううううっいてぇいてぇ、畜生めが、畜生がよ・・・・」
まるで負け犬の様に小さく吠えながら敵が落としていった”贈り物”を拾い上げる。
”二階堂さん聞こえますか?!状況を、いま南山さんが・・・”
(なんだこれは・・・)
拾い上げ、液晶パネルを見るとタロットカードが表示されていた。

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