1_14 モルモットは放り込まれた

文字数 4,494文字

”すまんかった二階堂、大変なことになっていたようだな”
「ば、馬鹿じゃないのかお前・・・・・・い、いったいどうなってるんだ、俺の名は割れてるわ連中蹴るだけ蹴って
拘束もしないわ物も取り上げない・・・クソ馬鹿デカい施設に有り得ない見たことも無い近代設備・・・”ウバメ”とかいうバケモン・・・」
二階堂は、よろめきながら身を起こして壁にもたれ掛かる。
”南山さん、もう止めましょう。既にそっちの端末はシャットダウンされましたが幸いカメラに移したデータを手に入れました。
二階堂さんの身を優先させて・・・”
”いや駄目だ。スマンが二階堂、このまま状況を続けよう。”
”南山さん!!”
二階堂は半ば眩暈を覚えながらフラフラと部屋を彷徨い始める。
「南山・・・どういう事なんだ、俺はこんなつもりは・・・これほどの物とは・・・」
”想定外の事に関しては俺の方か詫びるしかない。
こんな事になった後で取り繕う気で言う訳ではないが、お前の取り分も上乗せしよう”
それを聞いた二階堂は憤怒し、南山に無線越しに?みついた。
「ふざけんな!!!”命”あっての金だろうが!!こんな・・・・五体不満足で金を得たってなにもなりゃしないんだ」
”落ち着け!生きて出られない事が決まったわけじゃないだろう!”
「面(つら)が割れている。きっとあいつらは俺を鼠のつもりで弄ぶつもりだ」
いがみ合う二人、そこにイーノが割って入ってきた。
”二階堂さん、ちょっとイイですか?”
「なんだ、あんたはデータを手に入れたんだ、もう関係ないだろう!」
一喝されるもイーノは息巻く二階堂を気にすることも無く、淡々と告げる。
”まだです、もう一つ、欲しいものが有ります”
「なんだと!まだモノを頼むっていうのか!」
二階堂は怒りに身を震わせてで目の前の机を拳で叩きつけた。
”もう一億出しましょウ、すでにボスの了承も得ています。お願いです、落ち着いて、ネ”
「もう、いち、一億だと・・・うう」
すると南山がすぐさま無線に飛び込んできた。
”おい、やったじゃないか二階堂!!それなら俺達は一人に付き数千万もらえるんだ、
俺もこんなクソみたいな仕事とっととやめて新しい人生をスタートできる!もちろん、お前もた、なぁおい!”
「くっ、くそ、どいつもこいつも、クソしかいない。クソども・・・」
二階堂は呆れてもはや何も言えなかった。そこに。
”二階堂さん、いいですか?”
「省吾・・・なんだ?」
割って入ってきた省吾は冷静に二階堂に今後の方針を申し出た。
”ちょっと、南山さん落ち着いて・・・失礼、二階堂さん、とりあえず現状況では危険です。
先程手に入れたデータの他にフロアと他、3ブロック先までの見取り図データもあったんです。
それを見ると医務室らしきところが見受けられます。とりあえずそこに向かって応急処置をしましょう。
基地施設を想定しているのなら鎮痛剤や薬の類が必ずあるはず。
イーノさんの申し出は一旦置いといて、行くも逃げるもまず態勢を立て直すのが先です”
”あー!省吾いまいいこと言った!!えらい!”
「南山てめぇ・・・・・後で覚えてろよ!解った、省吾誘導を頼む、この地獄から出るぞ」
二階堂はそう言うと傍らにある端末を腕で弾き飛ばし、急いで部屋の出口へと向かった。

処理施設→Aブロック(実験室塔)へと続く廊下を身を潜めながら進む。
”二階堂さん、そのまま進みながら聞いてください”
二階堂は辺りを警戒しながら小声で返す。
「なんだ、どうした」
”さっき、奴らに貰ったモニターの付いたリストバンドありますね?”
そう聞くと二階堂は物陰に隠れて、懐をまさぐりリストバンドを取り出した。
先程のタロットカードの表示は消え、真っ暗になっている。
「奴らいいものと言っていたが、やはり発信機や盗聴の類がついているか・・・捨てて―――」
”待った!その前にカメラに繋げられそうな端子はありませんか?もしあれば繋いでください、こっちで洗ってみます”
二階堂はリストバンドをくまなく調べ、片隅に高速通信端子が付いているのを確認した。
「ある・・・繋げられそうだ、待ってろ」
二階堂がカメラ側のケーブルを伸ばしてリストバンドにつなげた。
”しばしお待ちを・・・”
「そう言ってる間に、見えるかあのドア?十字マークと注射器のマーク、あそこが医務室だ」
二階堂はわずか数メートル先にある医務室の扉を眺めた。
”二階堂さん、まだ触りですがそのリストバンドはセンサーの塊みたいになっています。
ジャイロ・加速度・サーマル・音感に放射線まで・・・なんなんだこれ”
「タロットは?何を意味している?」
二階堂は黒い画面をコツコツと指で押すが反応がない。
”今はまだ何とも・・・とりあえず盗聴や発信機などはついておりませんので安心を・・・
一部データをコピーしましたので裏で解析しておきます”
「頼む。さあ、医務室に行くぞ」
二階堂は刃渡り10CM程度の折り畳みのツールナイフを手に持って医務室のオートドアのパネルにゆっくり触れた。
「・・・・・・・」
人やウバメと呼ばれる巨人は居なかった。
部屋を閉じると一目散に無機質な医薬品等の棚へと向かう。
「モニター見てるか?ドイツ語ばかりでどれが鎮痛剤かわからん」
すると今度は南山が無線に出た。
”俺が確認しよう、そっちは抗生物質の関係だな・・・そっちは―――”
「お前ドイツ語なんてできるのか?」
二階堂は懐疑的な声で南山に言う。
「まかせろ、これでも資格は取っているんだ・・・そっちだその棚のラベルに黄色の線が入った奴、それだ。
蓋が柔らかくなっているだろう。注射器を直接そこに刺して薬剤を入れるんだ、注射器はあるな?」
「・・・ある。よし、これで」
二階堂はそうして急いで上着を脱いで鎮痛剤を注射したり、いくつかの薬を飲んで応急処置を行った。
そして、一間おいたあと。
「な、なんとか凌げたか・・・・・おいイーノ、聞いてるか?」
”もちろんでス”
「さっきの件だが・・・後何をさせるつもりだ」
二階堂はイーノに問いかける。
”占拠部隊の責任者・・・そして、この施設の指揮官をしりたいのでス。写真、プロフィール、その他得られるものは何でも”
「やはりか・・・当然と言えば当然か・・・困難な事この上ない」
そう言って二階堂はへたり込んだままがっくりとした。
”それさえ、得ることが出来れば報酬は上乗せしましょウ。内容によってはさらにプラスしてもいいです。あ・・二階堂さん”
「なんだ」
”いま、モニターにチラッと映ったんですがさっき二階堂さんが付けていたリストバンド、何か表示されてませんでしたか?”
二階堂はそれを聞いて先程、興味本位で付けたリストバンドを腕を上げて眼前に持ってきた。

NO.14 TEMPERANCE(節制)正位置

「えっ、なんだこれ」
それは天使が聖杯から聖杯へ水を分け与えている絵が描かれたタロットカードだった。
ビ――――!!!
部屋中から凄まじいビープ音が鳴り響き、目の前のオートドアから明らかロックされる様な音が聞こえた。
「罠っ!!」
”二階堂さん!!”
省吾の声と同時に部屋の天井に無数に存在するスプリンクラーの様な部分から勢いよく水が流れ出る。
水責めにする気なのだ。
「ヤラレタ!くそっ!」
二階堂は急いでドアへと向かうがロックされているためか無反応である。
そして僅か数十秒で腰の位置にまで水嵩が増してきた。
「嘘だろっ!!!ヤバイ、何か方法が・・・・」
そう言う間についには肩まで水嵩がまして、二階堂は棚へと飛び乗って何とか息を得ようとした。
「くそ、他に出るところなんてないぞ!畜生め!!」
”くそっ、省吾、この部屋はどうなっている?!何とかならんか”
”今必死に調べてますよっ!!”
「くそっ、くそっ、ぐぶっ!ぶぶぶぶっ!ごぼぼ、ぼぉ!!」
そしてついに、その部屋は水責めによって埋め尽くされた。
(い、息が・・・・ううっ、うううう)
水を必死にかき分け、二階堂はドアへ張り付いてこじ開けようとするがびくともしなかった。
(ああ、だめだこんな、こん・・)
時間経過と共に意識がもうろうとする中、脳に響くように無線の声が聞こえてきた。
”二階堂さん、まだ聞こえますね?!ドアの反対側に唯一の通気口が有ります。
たぶん塞がれている通気口が有ればそこからなんとか脱出できませんか?!”
二階堂は渾身の力を振り絞り、反対側へと泳いで移り浮力によって漂うドアのすぐ裏に通気口が有るのが目に入った。
(!!!、!!、!!)
二階堂はそれを必死に蹴った、蹴って、蹴って、自分の意識が途絶える直前にそれは水圧も重なり破られた。
そのまま二階堂は流れ出る水の勢いで通気口に飲まれると同時に意識を失った。

”二階堂さん!応答して!お願い!二階堂さん!”
”まだ大丈夫だ、気を失っているが二階堂のシグナルサインは消えていない”
省吾がうろたえている傍らで南山はそれを落ち着かせるように言った。
”それよりも現在地だ。今どこにいる”?
南山は側面のモニターを凝視し、二階堂のシグナルを座標位置に移しこんだ見取り図から確認した。
”Aブロックから2フロア先、ここは・・・・・・天井は吹抜か?比較的広い場所のようだが”
”Aブロック、多分貨物エリアですね、側面の”それ”はきっと昇降リフトとカーゴです。
それよりも早く目を覚まさせないと敵がいれば危険ですよ”
省吾はいまだに二階堂に向けて呼びかけている。
”・・・そうだな、二階堂はまだカメラを離していないな?ならこちら側からカメラ内のビープを思いきり鳴らしてやれ、
モーニングコールだ”
”冗談だろ?!マジで言ってんのか”
省吾は驚いて立場的に上官である南山に思わず敬語を省いて言い返した。
”マジもマジよ。ここで寝たまま殺されるより追いかけ回されるのがはるかにマシだよ、さあ早く”
”・・・・・・・”
省吾は手元の端末を叩いてカメラ内に搭載されているスピーカーから音量をやや控えめにしつつビープ音を鳴らした。
”ほら、とっととおきろ二階堂!死んじまうぞ!金はどうするんだ”
数十秒ほど鳴らした後で二階堂はようやく大きく息を飲むような動作をし、我に返った。
「!!!!!ヒュ――!ヒュー!」
二階堂は息が出来ているとわかるや過呼吸の様に口から息を繰り返し得ていた。
「・・・・・・ううううううううう、お、おれは、かんいっぱつか・・・」
”おはよう、といっても数分だけどな、小休止にはなっただろう”
「畜生、畜生、ふ、ふざけっ――――――」
二階堂は濡れた身体を重たく引き起こし、顔を起こすと同時に硬直し目が点になった。
そこはだだっ広い二階・三階と吹抜で荷物を集配するコンテナ置き場のようなところで
その吹抜け二階の側面、周りを取り囲むように通路になっているところに人がいた。
それも、無数に何人も、自分を痛めつけた隊員と同じような服をした人間が。
そして、目覚めた二階堂を無言のままただひたすらに腕組して見つめている。
しかしその中に紅一点、明らかに女であろう風貌の物がいた。
ドレスのようなスカートなので一目瞭然だった。
その、美しくも面妖な若い女と思しき人間はこちらを見据えながらゆっくりと口を開いた。

「へぇ、貴方が二階堂さん?」

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