1_24 六火仙ファミリー 

文字数 2,586文字

「ひぃ、ひぃ、ひぃ・・い、行くぞ」
二階堂は恐怖のあまり過呼吸になりつつも目の前にある細くそして果てしなく長い橋をゆっくりながらも
気持ち急ぎつつ歩き出す。
二階堂が抱える向こう岸の扉を開ける鍵なる金属体はただでさえ重いのに加えて、氷点下に近い外気温に
晒されている為か氷の様に冷たい。
二階堂はそれを重さから仕方なく抱きかかえる様に持っている為身体は冷えを通り越した痛みを覚えた。
橋に踏み出した1m先ぐらいから突如強風に晒される。
「ぐぅぅうぅううううう!!!」
二階堂は目を見開きて必死に耐えた。
金属体の重さが幸いにも風に煽られるのを耐えるバラストになったのは不幸中の幸いだったが
その強風は強烈な冷気をまとっていた。
まるで凍てつく波動である。
「ううぅ、うううううう」
”二階堂さん、バイタルが・・・体温がこのままじゃ低体温症に・・・マズいですよ南山さん!!”
二階堂の身体データをモニタリングしていた省吾が悲鳴にも似た声を上げる。
”・・・今の俺達にはどうすることもできない。二階堂頑張れ、今マップによれば橋の三分の位置まで来ている!”
南山の激励にも二階堂はもはやどうでもよく、ただ何も考えず橋を渡り切るために足に全神経を集中させた。
「フーフーフーフーフー」
息が荒い。その目はもはや虚ろとしていた。
だが二階堂は迫りくる脅威に晒されながらも何とか橋の半分までたどり着くことが出来た。
その時である。
ウィーン!ウィーン!ウィーン!ガタン!
橋と奈落を挟んだ両側面の建物の壁が突如として開きだした。
二階堂はその突発的な音に思わず左右を見た。
(え・・・嘘だろ・・・・嘘だ・・・・嘘だ――――――!!!)
開いた壁から奥の暗闇から走ってきたウバメ達が箱のようなものを持ってその姿を現した。
その箱には小さい硬式野球程度のボールがたくさん顔を覗かしている。
二階堂は橋を渡るその奈落を挟んだ左右側面の壁から現れたウバメ達に挟み撃ちに合ったようなった。
ウバメ達は皆箱からボールを各々我先にと競い合う様に取り出す。
二階堂はそれを見てこれから行われる行為を察知し、ただでさえ冷気に晒され蒼白になった顔面がより一層青くなった。
「おい嘘だろ!!やめろ!やめろ!やめろ!ヤメロ――――――――――!!!」
二階堂が天に向かって懇願するもウバメ達は皆祭りの催し屋台にあるゲームを遊ぶかのように一斉にボールを投げ始めた。
「キャッキャッ!」
ボール自体は柔らかい素材で出来ているような代物であったが何分あの鋼にも似た体躯をもつウバメ達が投げるのである。
それは二階堂の身体に当たるとまるで石をブチ当てたかのような痛みを与えた。
「オオオオオ・・・・・・・オオオオオオォ!!!」
二階堂はそのあまりの痛さに耐えきれず絶叫した。
最早脇目も振らず、絶叫し、絶叫を重ね、それでも耐え、金属体を必死に持って歩いた。
ボールに当たり、橋から落ちそうになるも必死に耐える。
痛みが全身を襲う。目からは痛みという痛みから涙が溢れ、血も出そうな勢いである。
それは拷問というには、行き過ぎた行為である。
ウバメ達が投げるボールが尽き、橋も三分の二を超えた辺りではしゃいでいたウバメ達が一斉に静まり返る。
(はぁはぁはぁ・・・・あ、あと少し・・・あと・・・あっ!!)
橋も終盤にかかったとき、二階堂は得も言われぬ戦慄を覚え顔を上げた。
「・・・・!!!」
視線の先には扉の真上、丁度建物の屋上辺りに人影があった。
(あれは・・・文屋かっ!!)
そう視認した直後、右太ももに激烈が走った。
「ッんキャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
二階堂はそのこの世のものとは思えない痛みに絶叫した。
思わず右太股を見ると針が刺さっている。
1mはあろうかという長さの、僅か直径一ミリにも満たない針が。
その針を打ち込んだであろう張本人の文屋はその針を発射したランチャーなる兵器を構えたまま身体を震わせた。
震わせて、高らかに笑った。
「あー――――はっはっはっ!!!」
「オオオオオオオオオォ!!!」
二階堂は絶叫した。雄叫びを上げた。咽び泣いた。
それでも二階堂は橋を渡り切った。
痛みで身体を震わせ、涙を流しながらも、朦朧とする意識の中でも、無事にたどり着いた。
「ぬおおおおおぉぉぉぉ!」
渾身の力を振り絞り、ドア横にあった鍵穴のマークが上に表記されている壁の穴へ抱えてきた金属体を
重々しく乗せる。
ピーッ!
軽い電子音と共に横の重々しい扉は上へと引き込まれ、それは開かれた。
滑り込むように中へ入る二階堂。
そこは空調が効いているのか外の凍てつく外気温とは一変して暖かく常温に満ちていた。
「はぁーはぁーはぁー」
二階堂は辺りを見回して安堵しつつも敵がいないのを素早く確認し、壁にもたれ掛かり尻もちをつく。
「ううううううううぅ!!」
針が凄まじく痛かった。
だが抜かなければならない。
二階堂はそのとても持ちにくく、目を凝らさなければ視認も出来なさそうな針をそろりそろりと持った。
「うおおおおおおおおおお!」
絶叫と共に一気に引き抜く。
肢体に深く刺さったそれは引き抜くと同時に血が噴き出し、二階堂は慌てて手で抑え込んだ。
「うっうっうっ!」
その針が抜けた痛みは想像を絶するものであり、もはや息も絶え絶えであった。
”よ、よくやった二階堂!”
”二階堂さん!やりましたよ!”
「・・・・・・うう、ううう」
もはや二階堂には二人に答える気力もわかなかった。
痛みに身をよじらせながらも、持ち込んだ強烈な痛み止めのポンプ式注射を太股に向かって突き刺す。
「あああああああああああああ」
もはや喘ぎを出すのが精いっぱいだった。
二階堂はそれでも必死に身体を起こして先に進む。
”その先は・・・レクリエーションルーム?”
省吾がモニターを見ながら確認するも先に待ち受けるのはそのだだっ広い天井吹き抜けの部屋だけだった。
「ううううううぅぅ」
二階堂は喋ることもままならず、とりあえず追手が迫っているとも限らないので壁伝いにヨロヨロと身体をあずけながら
先に進む。
やがて、レクリエーションルームまでたどり着いて自動扉を抜けた先、二階堂は目の前の光景に絶望を覚えた。
丁度その時である、リストバンドのタロットがカシャカシャ動き出し、一枚のカードをはじき出した。

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