1_53 小野と僧正

文字数 3,042文字

勢いよく力任せに引っ張られたせいでそのまま前につんのめりに倒れこむ二階堂。
ここは建物外の広場の様だった。
身体を震わせながら顔を上げて、自信を引っ張った人間を確認した瞬間、戦慄した。
「ううううぅ・・・・うぁ、あ!お、お前は、お前!!」

NO.5 THE HIEROPHANT (法王) 正位置

二階堂は”それ”を見た途端、体をゴロゴロと転がしながら相手との距離を取り
現在唯一の有効武器である針銃を取り出した。
「おい二階堂!人がワザワザ心配で見にきたったのになんやその態度は!!」
「ぷっ、やめとけって。こいつがマジ目ヤバい。たぶん小野のおっさんになんかブチ込まれてるわ」
二階堂の前に突如として現れた兵が二人、それは紛れもなくここにきてから間もなく
想像を絶するリンチを受けた後、妙なガントレットコンソール渡して過ぎ去った奴らだった。
「あ、あ、あ、あ、そんな、そんな―――!!」
二階堂は思い出していた。
こいつらは12口径の銃弾を近距離で受けても大したダメージもなく僅かに擦り傷を受ける程度だったことを。
「どないしとんねん!お前はよ!」
「ほら言っただろ?簡単には”ゲームオーバー”にならないって」
二階堂はふてぶてしい態度にただならぬものを感じた。
こいつらはほかの兵とは明らかに何か違うと。
「お前ら・・・いったい何者だ?ダタの哨戒兵ではないだろう?!どういうことだ―――」
言い終わる前に信じらぬほどのスピードと身のこなしで胸ぐらを掴まれ、吹っ飛ばされた。
「偉そうにモノ言いやがってこいつ・・・帝国軍人たるものが礼儀も忘れとんのか?!」
「いや、二階堂軍人じゃねーし」
真面目なのか不真面目なのか、この二人の兵は夫婦漫才の様ななれ合いをしていた。
すぐに身を起こし手放した針銃を拾う。
「おう、それでいいねん。帝国軍人たるもの、無駄口厳禁よ」
「てか早く撃ちゃいいのにな、それで俺らヤれるよ」
「な、なんだと?!」
二階堂は驚愕した。
彼らは自らの弱点を露呈したのである。
「まあお前がどないしようが俺らの知ったこっちゃないけどよ!!」
「グハッ!」
二階堂は関西弁の兵に凄まじい膝蹴りを食らい、思わずエビ反りになった。
そして今度は丸まったその背中にイきり野郎兵の両手を組んだハンマーパンチが炸裂する。
「ガァアアアアア!」
強烈な衝撃にうめき声をあげる。
だがそれと同時にズキッとするような刺すような痛みを感じた。
(?!!何か刺された?!!)
その瞬間、二階堂の視界が暗転する。

「チッ!あいつらやりやがって。うちらの二階堂ちゃんが・・・」
「まあまあそんなこと言わないで。二階堂さん・・・しっかりして」
清楚な少女に両手で顔の頬を当てられながら、慰みの言葉を受ける。
頬から伝わる両手の冷たい感覚が心地よい。
「あれ、二人とも・・・わたし・・・いったい」
少女化したエプロンドレスの二階堂はその二人に顔をのぞかれながら弱弱しくつぶやく。
「大丈夫二階堂ちゃん・・・また会えるよっ☆」
「またいらっしゃい・・・ううん、またすぐに会えるわよ、あなたが望むのなら」
ぼんやりとした意識の中、視界が歪み、二人の少女の顔がぐにゃりとする。
「ああ、あああ、ああああああああああああああああ!」
ぐるぐるぐるぐる放物線を描く視界の中、二階堂は絶叫を上げる。

「ふむふむ。薬の効き目が薄れつつあるようですが、切れているわけではないようですね」
再び目を覚ました時、眼前には禿げ頭の面をした汚いおやじが映った。
倒れていた二階堂の両頬にやさしく手を添えている。
「ふん!」
「ぐほっ!」
二階堂は条件反射でストレートパンチを入れた。
見た目いくら弱そうとはいえ、やはりこいつらの一味であることは変わりないのか手ごたえがなく
バランスを崩して倒れただけである。
素早く身をひるがえし、体制を整える。
禿げおやじもむっくりと起き上がった。
頭の禿げは隠さず口と目だけをカバーする不気味なガスマスクをつけ、
覆い全身を軍事用化学防護服で覆い、その体のあちこちには透明な色から鮮やかな色をした液体を入れたフラスコを
付け、腰に大きな射出用ランチャーを装備し、腕には軍医の腕章。
小野である。
「お前・・・六火仙ファミリーか」
「左様、わしは小野(おの)。古今少佐の可愛い”腰巾着”よ。
記憶力がいいな二階堂、帝国軍人たるもの馬鹿だけでは務まらん」
「俺に変な薬をキメさせたのはお前か?」
二階堂がそういったとき、小野は驚いた顔をして言動を突如制止した。
「待てっ!お前・・・なぜだ薬の効果が残っているにも関わらずまともに会話ができる・・・さては僧正の奴だな?」
二階堂は僧正と聞き、あの二人を思い出した。
だが、最初に六火仙ファミリーにメンツを見た時にはあの二人の姿はなく、少なくとも小野の言う僧正
なる人物ではないと推測した二階堂は、あえて無言を貫いた。
「・・・・・・・・」
「ふん、まあいいさ。二階堂、お前は久しぶりの”純・人間”だ。俺の臨床実験のネタは今たまりにたまっている、今にもはち切れそうだ。
暫く捌け口になってもらうぞ。なに、古今少佐だってちょっとぐらい楽しんだって文句は言うまい。むしろ少佐も招くのも一考か」
下品な笑いをしながら、小野は腰のランチャーを取り出すと胸についている無数のフラスコのうちの一つを取り出して
それに装填した。
「さぁ、二階堂!実験の開始だ。時間はたっぷりある」
二階堂に向けてランチャーを構える。
二階堂も負けじと針銃を構えるがその瞬間、あり得ない違和感に思わず目を見ひらく。
(この軽さ・・・マガジンが・・・抜けている?!もしやあの二人が?!)
瞬時に血の気が引いてゆく二階堂の顔を見て、小野はますますその顔をニヤつかせる。
「どうした二階堂?何か具合でも悪いのかぁ・・・くくくっ」
小野は瞬時に二階堂の針銃が玉切れであることを見抜き、二階堂の足に向けてゆっくりと引き金を引こうとしたその時―。

ズバン!!!
小野の両腕が裂けた。

「んぎゃああああああああああああああああああああああ!!」
信じられないほどの絶叫が広場に響き渡る。
小野は”血のような”モノを両腕から吹き出し、膝をつく。
二人の間に割って入った人間。
それは、鋭き小ぶりの軍刀を片手で構えた屈強な軍服姿の漢であった。
小野はそれを見るや否や顔をしかめて叫ぶ。
「僧正!!貴様ぁああああああああああ!」
「ここで厄介払いもいいと思ってな。六火仙ファミリーもメンツが減った、ここで一新するもの一考」
「ふざけるな!貴様それでも帝国軍っ――――」
言い終わる前に、小野の左足が裂けた。
「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
僧正は吠え、小野に向けて凄まじい速さで斬った。
小野の身体はみるみる裂け、死体が瞬時にバラバラに裂ける。
そして、辺り全体に血しぶきのようなものが舞った。
(なんて奴だ・・・)
二階堂はそのあまりの光景に銃を構えたまま、ただその光景を呆然と眺めるしかなかった。
小野は沈黙し、僧正は軍刀に付いた血のようなものを振りはらうと二階堂に静かに向き直った。
「二階堂、お前文屋からもらったタブレットがあるだろう。まずそれをよこせ」
文屋との死闘の末に奴から託されたタブレット。
医務室にいた時、タブレットから情報を得ようとしたがロックが掛かっていたためそのまま持ち帰るようジャケットに忍ばせていた。
「お前は僧正か・・・たしか、最初に一番俺を殺したがっていた奴」

「如何にも・・・俺は僧正。六歌仙一”無駄”を嫌うものよ」

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