part 13 妹の手 親友の思惑

文字数 741文字



 剣崎の形相が見る見る険しいものになった。若い客の、つまらない物売りのような言い立てが気に障っただけとは、とても思えぬ激しさだった。
「これは(のぞみ)の作ったものなのか? こんなものは密かな趣味の品だからと、人には見せず、外にも持ち出さなかったはずなのに。それともそっくりな別物か。だとしたらどうやって? 微量の金属がどうのって、あんた、何を知ってる? もしかして望の病気のことを何か」
 掴みかからんばかりの剣幕を、客はひんやりと硬い声で遮る。
「それは私が生まれた時に包まれていた卵殻様の膜の一部です。はじめから、人間じゃないんですよ、私たちは」

 こん、と薄氷を破るつぶての鋭さで、その声は染み渡ってあたりを痺れさせ、しばらく二人の動きも言葉も、鏡像対称に封じられて止まった。
「私たち、と言ったな」
 沈黙を破ったのは剣崎の方だった。
「ええ。私は、親を探しにここへ来ました。あなた方三人の誰かだろうと見当をつけて。(みや)()()(たま)さんにお伝えいただけますか、自己複製は成功しました、と」
「球が、あんたの親だと?」
「まだ、そうとまでは。ただ、報告すべき相手は、ただ一人自分の使命を記憶している、球さんだとわかったので」
 客の声には、誇ると同時に怯えるとでもいう双極の揺らぎがある。背負った重荷を威勢よく放り投げておきながら、いつでも担ぎ上げて走れるよう、しきりと気にする目配りにも似たすわりの悪さが。剣崎の方は、その余波さえ寄せつけぬ鷹揚さで瞑目すると、再び声を閉ざし、無表情を保っていたが、やがて薄く開いた瞼から、粘性の網のような鋭い視線を投げた。
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登場人物紹介

剣崎顕(けんざき あき)

人工臓器造りの名手。特級生体技能者に認定され、制作物のあまりの精巧さに、「狂女王」と呼ばれ恐れられるほど。臓器造りを始めるには、あるきっかけがあったようで……

剣崎望 (けんざき のぞみ)

剣崎顕の双子の妹。顔は姉と瓜二つ。造形家で、動物・植物のほか密かに抽象立体も作っている。本物そっくりの動物が評価されてかつては超・売れっ子だったが……?

宮ヶ瀬球(みやがせ たま)

現在多くの人が恩恵を受ける画期的な再生医療技術の礎を築いた天才医師。剣崎姉妹とは浅からぬ因縁があるように見える。

謎の客

「新しい体」を持つ、剣崎より若い人物らしい。剣崎姉妹と宮ヶ瀬球の話を聞きたいと訪ねてくるが、何の目的があるのかは不明。

人形たち

剣崎顕は数多くの人形(人工体)を制作してきた。人間にそっくりだけれど動かないことで死体に見えてトラブルになったこともあるというが……

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