part 8 なぜ彼女は臓器を作り続けるのか

文字数 954文字



 人工臓器をもっぱら作り出したのも、(たま)に言われてだよ。この臓器なら移植技術次第で人間に使える、作ればいい稼ぎになるし、人形を作る理由にもなると言うんだ。ああ、私の人形は内臓まで精巧にできてて、工房にはその頃から今と同じ、臓器も散らばってた。球は見るなり、動かせばちゃんと働く構造と直観したらしい。体を本物らしくするための内臓だろうけど、逆に内臓のために体を作るふりをしとけってのが球の言い分。気乗りはしなかったけど、良かれと勧めてくれてるみたいだったし、球には借りができたようなもんだから。
 まあ色々あったが、正解だったよ。当時の日本は何かと立ち遅れていたが、その後、球の人工体――そのプロトタイプが私の人形だ――の研究が世界の注目を浴びて、新しい体を作る技術の礎になった。今のJ地区が連邦で力を持つのも、球の功績あってだろう。その研究に役立ったもんだから、私も功労者さまに大出世、ますます人目もはばからず人形は作り放題だ。
 体質を選ぶわりに、新しい体になる人はその後、驚くほど増えた。私の人工臓器は新しい体にも適合するが、繊細な生身の体にこそ必要だ。古い権力者ほど生身にこだわる上長生きしたがるときて、今も長老どもにありがたがられてる。
 球とそっくりな話はどうなったって? 別に、驚いただけでどうにも。生き別れた三つ子じゃないか、くらいは考えた。私たちの親が、わけあって三人のうち二人を手放したかって。でも、聞けば球も孤児だった。私と望は、まあ善良な養い親に二人一緒に育てられたけど、球は独りぼっちで、育った場所にいい思い出もないらしい。結局のところ、出自だのルーツだのに大して興味がないんだね、それ以上は調べなかった。球とは不思議と気が合ったよ。姿が似ていることと関わりがあるのか、ないのか、姉妹同然に親しくなったから、もし本当の姉妹ならば悪い気がするはずはない。ただ、違ってもそれが何だということさ。
 知っての通り球はそれから本物の出世をした。私がこの仕事を続けるのも、球のおかげで多少のわがままがきいて、(のぞみ)を治せるかもしれないからだ。
 それが今の私にとって、一番大事なことだからね。
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登場人物紹介

剣崎顕(けんざき あき)

人工臓器造りの名手。特級生体技能者に認定され、制作物のあまりの精巧さに、「狂女王」と呼ばれ恐れられるほど。臓器造りを始めるには、あるきっかけがあったようで……

剣崎望 (けんざき のぞみ)

剣崎顕の双子の妹。顔は姉と瓜二つ。造形家で、動物・植物のほか密かに抽象立体も作っている。本物そっくりの動物が評価されてかつては超・売れっ子だったが……?

宮ヶ瀬球(みやがせ たま)

現在多くの人が恩恵を受ける画期的な再生医療技術の礎を築いた天才医師。剣崎姉妹とは浅からぬ因縁があるように見える。

謎の客

「新しい体」を持つ、剣崎より若い人物らしい。剣崎姉妹と宮ヶ瀬球の話を聞きたいと訪ねてくるが、何の目的があるのかは不明。

人形たち

剣崎顕は数多くの人形(人工体)を制作してきた。人間にそっくりだけれど動かないことで死体に見えてトラブルになったこともあるというが……

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