part 25 懐かしい夜空
文字数 880文字
「この星に合わせ、合わさせるのは征服が目的じゃない、生存条件を探る、ただの実験と観察さ。コマンドはそうは言わないが私にはそうとしか取れない。そして結果を次世代にもフィードバックすること、とね。どれ、このひとつくらいには、従うとするか」
静かに響き渡るその声に、娘ははっと顔を上げ、さりげなく居住まいを正した。
「私もこの星で多くを知った。まず、自己複製を最優先し、世代交代しながらお互い食い合って支え合うシステムは環境依存の限界が厳しいこと。この星ではもう限界を超え、現生の生命も新しいシステムに乗り換えない限り滅びに向かうだろうこと。多様さが乱れた均衡を復元する力だが、活動の規模と速度が際立って高い種の出現可能性を内包していながら、その急な興隆にも衰退にも対応しきれていないこと。本能のみで制御してもだめ、余計な知恵を乗せれば暴走してなお悪い。球はどういうわけか人間が好きだから、新しい体で人類を変えて、何とか生かしたいんだろう。うまくいくかはわからないが。一方、仲間を守るのはここでも有益だ。だが」
剣崎は息をつき、何を思ったか再び天井に手をかざし、あかりをすっかり消した。闇がただちにおびただしい人形とその構成物を隠す。
「私にそう教えたのはコマンドじゃない。自分を理解してくれる人、理解するかもしれない何かへの思い――この星に何人いるのか、いないかもわからない仲間への思いも、混ざっていたのかもしれないね――とても説明のできない、抑え難い郷愁みたいなもの……本当にただ、それだけだったよ」
語尾はかすかに震えていた。その余韻に呼応し、暗闇が、ゆらめき始めたようだった。
夜が本物の闇を取り戻した時代だ。人間もエネルギーも希少なものとなり、たとえ密集居住地でも、剣崎の古い記憶にかろうじて刻まれた、眩しい街あかりはもう見られない。漆黒の闇と静寂の柔らかさは、この星に生まれて年の浅い娘にとっても、馴染み深く懐かしい手触りだった。そこへ剣崎の声が分け入る。