part 19 そっくりな四人目

文字数 772文字



「すぐに受け入れられないのはわかりますが、いずれ真実は風雨に洗われて姿を表すものでしょう。それに、三次元の生物が強風を嫌うように、元来四次元人の我々にも、時の流れを避けずにはできないことがあるのです。例えば、自己複製」
 客は剣崎の顔を凝視する。反応を伺うように最後の語句をゆっくりと区切り、そのままらんらんと輝かせた瞳を逸らすことなく、続けた。
「あなたが時間の細分に閉じ込められた『動かない体』を作ったのも本能に近いものだったのでしょう。それを時間の不可逆性から遮蔽すれば命を得ると球さんは考えた。だが一体何が遮蔽物になり得るのか。先ほどのお話から察するに、その難題ゆえに時間がかかったようですね。でも解決した。答は、望さんの作る球体だった」
「何だって」
 剣崎が大きく目を見開いた。

「ちょっと待った、望の作った球体に、私が作った体……? もしかして、それがあんただと言ってるのか」
 色のない沈黙を客は押し返すばかりで、それは肯定と受け取るよりほか、なさそうだった。
「人形は随分作ってきたが、あんたみたいなのを作った覚えはないぞ、自分そっくりの人形なんて」
「何を言うんです、自分そっくりな死体を作ったのを忘れましたか。それは今どこにあるっていうんです」
「あれは球が預かると言って……まさか」
 かすれ声を絞り出す剣崎に、客は無情に首を縦に振る。
「そうです、球体を持ち出したことがないとは言っても、球さんの頼みならば望さんは渡したでしょう。電磁気変動の少ない無人地で、望さんの遮蔽球殻に長い間保護され、ようやく命を得たのが私です。先ほどのお話で確信しました。そっくりな五人目じゃない、まだ四人です。そして四人の誰一人も、人間などではない」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

剣崎顕(けんざき あき)

人工臓器造りの名手。特級生体技能者に認定され、制作物のあまりの精巧さに、「狂女王」と呼ばれ恐れられるほど。臓器造りを始めるには、あるきっかけがあったようで……

剣崎望 (けんざき のぞみ)

剣崎顕の双子の妹。顔は姉と瓜二つ。造形家で、動物・植物のほか密かに抽象立体も作っている。本物そっくりの動物が評価されてかつては超・売れっ子だったが……?

宮ヶ瀬球(みやがせ たま)

現在多くの人が恩恵を受ける画期的な再生医療技術の礎を築いた天才医師。剣崎姉妹とは浅からぬ因縁があるように見える。

謎の客

「新しい体」を持つ、剣崎より若い人物らしい。剣崎姉妹と宮ヶ瀬球の話を聞きたいと訪ねてくるが、何の目的があるのかは不明。

人形たち

剣崎顕は数多くの人形(人工体)を制作してきた。人間にそっくりだけれど動かないことで死体に見えてトラブルになったこともあるというが……

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み