part 7 悪事の露見 運命を変える出会い

文字数 1,090文字



 突然、誰かがドアを開けてライトをかざすもんだから、眩しくて最初は何も見えなかった。首から提げたIDが白光りしてまず目に入ったが、「( みや)()()医師」なんて名前に覚えもなし、夜中に医者が来るのも変だ。部屋でも間違えたんだろうと、こっちもごまかして切り抜ける気でいたら、こうだ。
「剣崎(のぞみ)さん、面会時間は過ぎていますよ。それに剣崎(あき)さん、その人形、すごくよくできていますね。ちょっと見せてくださらない?」
 全部ばれてたのにも恐れ入ったが、光に目が慣れるなり、もっと驚かされたのはそいつ、(みや)()()(たま)の顔さ。私たち双子と、そっくりだったんだ。死体を入れて四人、まるっきり同じ顔が揃ってたの。悪魔が降りてきたかと思ったよ、同じ顔の死体を作った、この私でも。何者なんだか、あいつは。
 ふうん、あんた、驚かないね。今と違って昔の生身の人間にとって、外見には大きな意味があった、それを知らないわけでもなさそうなのに。やっぱり、相当調べてきたね、私と望と、球のことを。

 すぐに退院させられて、逃げてもわかるなんて脅されてびくびく家に帰ると、途端に球が訪ねてきた。今日のあんたみたいに唐突に。
 球は異様な興味を示したよ、私の人形に。医者なら当然だと言うんだが、どうなんだか。と言うのも、望の作る立体図形も同じくらいの熱で見入ってたからね。
「顕と望ね。顕微鏡と望遠鏡ってわけ」 
 工房の中をひっくり返すように見ながら球が言った。
「そ。いいコンビでしょ。宮ヶ瀬先生、下の名前は?」と、望は私よりよっぽど落ち着いてた。早速こいつを懐柔しにかかる気かって、私はただ感心してた。
「タマ」
「どんな字?」
「キュウって字。地球とか、球体の」
「へえ、いい名前だね。私、球体大好き」
 これはべつに媚びたわけでもなく、望は本当に球体が好きなんだ。ちょうど球が見てたのが、望の作った球体。人がすっぽり入るくらい大きくて、ギッシリ中身があるんじゃなく、中空の、薄い殻みたいなの。素材や厚みを変えてあれこれと作ってたけど、もう分子レベルまで均一に平滑に磨いて継ぎ目もない、見事なものだった。
「人形もすごいけど、これもすごい」と、球もやたらに興奮してた。結局、作ったものさえ見せてくれれば今度のことは口外しない、と約束して帰った。ものを作る技にただただ興味があったんだと今ならわかるが、しばらくはまだ球の出方がわからず、怯える気持ちがあったね。
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登場人物紹介

剣崎顕(けんざき あき)

人工臓器造りの名手。特級生体技能者に認定され、制作物のあまりの精巧さに、「狂女王」と呼ばれ恐れられるほど。臓器造りを始めるには、あるきっかけがあったようで……

剣崎望 (けんざき のぞみ)

剣崎顕の双子の妹。顔は姉と瓜二つ。造形家で、動物・植物のほか密かに抽象立体も作っている。本物そっくりの動物が評価されてかつては超・売れっ子だったが……?

宮ヶ瀬球(みやがせ たま)

現在多くの人が恩恵を受ける画期的な再生医療技術の礎を築いた天才医師。剣崎姉妹とは浅からぬ因縁があるように見える。

謎の客

「新しい体」を持つ、剣崎より若い人物らしい。剣崎姉妹と宮ヶ瀬球の話を聞きたいと訪ねてくるが、何の目的があるのかは不明。

人形たち

剣崎顕は数多くの人形(人工体)を制作してきた。人間にそっくりだけれど動かないことで死体に見えてトラブルになったこともあるというが……

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